第20話・未来の王妃様に(2)
──私達は、休憩所に場所を移して話すことにした。
懐かしいわねぇ。ここも。あの後ここで、遅めの昼食をご馳走になって……。
あ! そう言えばあの時のお返しまだしてなかった!!
すっかり忘れてた!!
「ダニエルさん! ごめんなさい! 私すっかり忘れてたわ!! 何てことでしょう!」
「え?」
私が突然立ち上がったことで、ダニエルさんが驚いた様子だ。
「ほら。あの日ここでお昼をご馳走になって、お返ししますって言ったのに私、すっかり忘れてたわ!!」
「アハハハハハッ。そんなこと気にしてたのかい? そんなの気にしなくて良いよ」
「でも……」
申し訳なくて俯いてしまった私に、ダニエルさんが言う。
「ならさぁ? お詫びにってことで、今度、俺に何か作ってよ?」
「え? 私がダニエルさんに?」
「いや、そんなに驚く程の物は要求してないよ? ほら? ハンカチとかさ? カレンちゃんって、服とか自分で縫ったりしてるよねぇ? だからその端っこの残った生地とかでさ?」
「え? そんなので良いの? そんなので良いならいつでも!!」
「本当に? やったーー!!」
私より年上なのに、少年のように笑顔で嬉しそうにするダニエルさんの姿を見て、私は何だか心が温まる感じがした。
「話が逸れちゃったけど、カレンちゃんどうするつもりなの? 悩んでるなら無理に引き受けることはないと思うよ? そもそも城に上がってまだ1年も経っていない子を、高位貴族どころか、未来の王太子妃に付けようなんて無茶苦茶だよ。それにセーラ嬢って……だし。そんなのカレンちゃんが可哀想だよ!!」
「ダニエルさん……」
「ごめん俺が熱くなって……。でも未来の王族だからって無理やりに侍女を自分の側にってのは間違ってるよ。それで『指名・専属』制度が出来たんだからね? あれは、嫌になったら自由に解除出来る仕組みなんだから」
「そうだけど……」
私が小声で言うとダニエルさんが言う。
「侍女の人権を守る為に殿下が提案した制度なんだよ?」
「え? 殿下が提案?」
私の驚いた顔に、ダニエルさんが大きな身体を少し曲げて小さくなり、小声で話し始めた。
「昔はねぇ。ここだけの話だけど、陛下の侍女ってよくある側女も兼ねると言うか……陛下に『御指名』された侍女は断る権利無しで召し上げられてたのさ……。そんな人拐いのようなこと! って怒った殿下が今の制度を作ったんだ」
え? 初めて聞いたわ……そんな話。
王家のタブーなんでしょうねぇ……。
「元々殿下は『指名』制度自体も反対だったんだ。でも侍女達の中には選ばれることに誉を感じる者も居てね。だからって勝手に主人が選ぶのも人権的にって……。それで侍女に選択権を。だからカレンちゃんが決めて良いんだよ?」
私に選択権がある……。
そろそろ、警護の交代の時間だと行って戻って行ったダニエルさんを見送り、私は午後のお茶の用意をしようと思い、廊下を歩いていた。
「お? どうした? カレン? 何か元気ないな?」
殿下!
「何か悩みでもあるのか? 珍しいなぁ? いつも元気一杯のカレンが?」
そんなに私って暗い顔していたのかしら?
侍女として、常に誰かに見られているかもしれないのに、暗い顔で歩いていた自分を反省した。
「申し訳ございません。不快感を与えてしまい」
「ん? 不快感? それはないけど? 何があったんだ?」
「実は少し悩んでいることがあって……」
はっ! 私ったら!! 殿下のご婚約者様のことで悩んでるって、殿下に言ってどうすんのよ!!
殿下のお優しい顔を見たらつい零してしまったわ……。
「ははは。セーラ嬢だな? 原因は」
「申し訳ございません……殿下に……」
「構わないよ? ここじゃ何だから」
そう言われ、外のベンチに腰を下ろした。
悩んでいることを私が殿下に伝えると、
「ねぇ? 悩みの一番の原因ってさぁ? 自分に自信がないから? それとも、自分がセーラ嬢に付いてミスしたら侍女長や周りに迷惑掛かると思うから?」
!
殿下に言われて、自分でも分からなかった悩みの原因がはっきりした。
勿論自信はないけれど、それよりも私は失敗した時のことを考えていたわ!
「前者なら俺は無理にとは言わない。経験が浅いのは事実だし、もう少し経験を重ねてからって思うのも理解出来るよ? でも後者なら、お前何様なんだ? って言いたいね」
え?
「部下のミスは主の責任だ。器を見抜けないマヌケな主が悪い。ミスをするのが悪いんじゃないよ? ミスをさすような使い方をする主が無能なんだからね。言い方は悪いが主の命令で動いているのが侍女の仕事だ。責任なんか仕える身で取れる訳ないよね?」
私の驚いた顔を見た殿下がにっこり微笑んで続けた。
「責任が取れる立場だから『指名権』があるんだよ? 『指名権』は権力の振りかざしに使う物じゃない。自分に仕えてくれる者を護る権利だ」
護る為の権利……。
ああ、やっぱり殿下にお話して良かったわ。
「だから、カレンがやってみたい! と思うなら失敗を恐れる必要はない。そんなことでダメになるような侍女長でもないし、セーラ嬢もね。そして俺もだ」
やってみよう。そして認めて貰いたい。
いつか殿下の側に仕えれるようになりたい!
──この決断が後に大事件になるとは、この時の私には思いもよらなかった……。
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