第16話・負けない(2)
──みんなが私の為に……。
「有難う御座います。こんな田舎娘の私なんかの為に……勿体ないお言葉です」
「カレンちゃん。私
「え?」
生まれて初めてされた質問内容に、私は思わず漏れてしまった。
「俺はねぇ、幼い頃は自分が大嫌いだったんだ」
え? 殿下が自分のことが嫌いだった?? 王子様として、お生まれになった殿下が?
「幼い頃はねぇ、厳しい
……殿下が何をやってもダメ? 私が騎士様達から聞いた話だと、殿下は文武両道で、それだけじゃなく、芸術にも秀でておいでだと……次期王太子としてはこれ以上ない存在だと。
「でもね。ある時、気付いたんだ。俺に付いて教えている教育係、指南係、他の者達。皆真剣な眼差しなんだよ。ああ、こんなガキの俺に真剣に教えてくれてるって。それに応える為に俺は何をしている? って。出来ないって泣いてばかりで。結局逃げてたんだよ。自分の中で逃げ場を作っていたんだ。俺は王子なんだ。だからいつか立派になれる。なんてね? 馬鹿だよね? 努力もしない奴が立派になれるわけないのにね? ハハハッ」
自分に真剣に向き合ってくれる人……。
私は、侍女長様や、騎士様達、それに目の前にいる殿下を咄嗟に思い浮かべた。
私を「仲間」と言ってくれた人達に、私は応えられているだろうか?
「だから王子であろうと、田舎娘であろうと、それは言い訳なんだ。自分がしっかり誇りを持ってやってさえいれば『私なんて』って言葉は自然とでなくなるよ?」
!
殿下の言う通りだわ!
私は殿下の言葉で目が覚めた気がした。
この城に来て、私は何処かで負い目のような物を感じていた。田舎者の私が、こんな綺麗で素晴らしい所で働かせて貰って良いのかと? でもそれは間違いだわ。
既にお給金を頂いている以上、田舎者とか関係ないんだわ。侍女長様にいつも言われていたことなのに!!
なんて馬鹿だったんでしょう私は……。
「だから、二度と『私なんて』と、自分を蔑む言葉を使うのは止めなさい。それは君を育ててくれた人達に対して失礼だ。そんなことを思う暇があるなら、その人達に返せるように一人前になりなさい。それと、君は俺達『近衛隊』が選んだ侍女だ。自分の仕事に誇りを持ち給え」
殿下……。
殿下が私に向けたその視線は、先程のフレンドリーで少し、おちゃらけた雰囲気は一切なく、厳しく真剣だった。それは私を部下として認めてくれているからの眼差し。
殿下のこの有難いお気持ちを無駄にしてはいけない!
「有難うございました。殿下! 殿下のお陰で目が覚めました。私二度と言いません。二度と『私なんて』って。約束します。私頑張りますね!! 一人前の侍女になるために。頑張って昇進していつか殿下のお世話も出来るように!!」
「ハハハハハッ。それは俺も楽しみが出来たなカレン。頑張って必ずここまで上がって来い! いいな? 上に上がれば上がる程、風当たりは厳しくなる。その道は茨の道かもしれん。だが俺はお前を待っている! だから絶対負けるなよ?」
「はい! 必ず行って見せます!! 待ってて下さい!」
「ああ、頑張れよ? カレン」
殿下……。殿下が最後に私に見せたお顔は、とても優しく温かかった。そしてとても美しく魅力的で……。
はっ! 何てことを私ったら……殿下にはご婚約者様がいらっしゃると言うのに……。
それに殿下は私のことは、畏れ多いことに騎士様達と同じで「仲間」と思って下さっている。
そのご期待に添えるように頑張らないと!!
「すっかり長居してしまったようだねぇ? 侍女長殿は直ぐ帰ると言ったんだろ? 遅いねぇ? しかし? かと言って君をここに一人残すのも何だし……と言って俺と長時間二人きりでいるとそれはそれで、また何かあると……まぁ俺的には嬉しいんだけどね? でも君に迷惑を掛けるのもなぁ……」
え? 嬉しい?
殿下が???
殿下が一人何やらブツブツと仰っていると、何やら廊下が騒がしく?
「侍女長殿お話が、って開いてる? え? 殿下! とカレンちゃんも??」
ダニエルさん?
酷く焦った表情で、息を切らして入口に姿を見せた人は、近衛隊のダニエルさんだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます