第15話・負けない(1)

 結局、殿下達に捕まって、いやそうではないですね。お声を頂戴するだけでも誉なことですものね。昼食をご一緒させて頂いて、何とか開放……いえお暇を頂き戻って来たのですが……。


 これはどういうことなんでしょう……。



 午後からのお仕事前に、身だしなみを整えようと思って一旦部屋に戻ったのですが……。


 部屋に置かれていた机の引き出しはグチャグチャに開いたまま、カーテンはビリビリに破けていて、ベッドのシーツもビリビリ……。クローゼットの中にあった数少ない私の服も、破かれていて、大事な制服までも。


 酷いわ! こんなに可愛らしい素敵な制服を!

 こんなことをする人が居るなんて! 


 でもこれってやはり侍女長様にご報告しないといけないわよねぇ……。





 ──その頃、休憩室の一角では。

「ふふふ。いい気味だわ」

「溝ねずみのくせに『指名』だなんて10年早いわよ!!」

「溝ねずみなら、溝ねずみらしく、床の掃除でも一生してればいいのよ!」

「騎士様達に、チヤホヤされて良い気になってたからバチがあったったのよ!」

「にしてもアレ誰がやったの?」

「私じゃないわよ?」

「じゃぁ?」

「ふふふ……」

「「え? まさか?」」

「あなた達? 私は何も言ってないわよ? 勝手な想像はよして頂戴? ふふふ」

 不敵な笑みを浮かべて席を立つ一人の貴族令嬢の姿があった。






 一方、カレンの報告を聞いて駆け付けた侍女長と、官僚は。


「これは酷いですね。侍女長殿」

「全く何てことを……全ては私の責任です。申し訳ございません。監理様」


「まぁ。いくら優秀な貴女でも、何百といる侍女達と、下働きの女中全てに24時間目を光らせておくのは無理でしょう。ただこのことが公になると……」

「いえ。わたくしの責任です。どうぞ、わたくしに構わずご報告下さい監理様」

「まぁこの件は、私に任せて下さい侍女長殿。それより、この部屋ですが早急に片付ける手配をしましょう。部屋の者は移動をお願いして下さい。では私はこれで」




 ──侍女長様に、このままここで待っているようにと言われ、侍女長様の執務室で待っているんだけれど、どうなったのかしら? まさか侍女長様が責任を取らされるってことはないわよね?

 と、心配していたら……


 ドアをノックする音が!


 私は急いでドアに駆け寄り、ドアを開けた。

「カレン。相手の名前と声を聞いていないのにドアを開けるとは、どういうことですか」

「も、申し訳ございません!!」

 侍女長様が心配のあまり、私は確認もせずにドアを開けてしまっていたことを強く反省した。


「侍女長様……大丈夫ですか?」

「ええ、部屋は直ぐに担当の者が片付けてくれるから安心しなさい。ただ貴女には部屋を移って貰う予定だからそのつもりで」


「いえ、私のことより、侍女長は大丈夫なんでしょうか?」

 私のその問にひどく驚いた顔をした侍女長様が


「まさかこの私が貴女に心配される日が来るとはね?」

 そう言って侍女長様が微笑まれた。

 その笑顔はとても優しく、それでいて侍女長様がお持ちの凛とした雰囲気の美しい笑顔だった。


「申し訳ございません。失礼なことを言って」


「カレンそれより先程、近衛隊長より貴女を近衛隊の専属にと申し出がありましたが、どうしますか?

 受けますか?」


 え? もう提出されたの? 今日の夕方までにって言ってたのに?


「侍女長様、私みたいな田舎者の新米が、近衛隊の専属なんかになって良いのでしょうか?」

 そう私が侍女長様に尋ねた瞬間。


 ドアをノックする音が。

「侍女長殿、監理官のイートンです。ご報告することがありまして参りました」

 その声を聞いて、侍女長様が席を立たれドアに向かう。


 直ぐに侍女長様が何やら急ぎの様子で、私に言った。

「カレン、私が戻るまで貴女はこの部屋で待つように。直ぐに戻るから」

 いつになく、急いだ様子で侍女長様が部屋を出て行かれた。


「何があったのかしら……心配だわ……」

 私が不安な気持ちで部屋で待っていると、再びドアをノックする音がした。


「侍女長、俺だ話がある。邪魔するよ」


 え? あの声は!!


「不躾にすまない何分急用でな。って? あれ? カレンちゃん?」


「殿下!」


「ハハハハハッ、ここなら安全だね?」


 え? 安全?


「早速洗礼を受けたそうだね? カレンちゃん? ハハハッ」


 洗礼……。


「すい。あっ! 申し訳ございません。私のせいで……。皆さんにご迷惑をお掛けしてしまい」

 私が殿下に頭を下げようとしたら


「カレンちゃん? カレンちゃんは何をして迷惑を掛けたの? 何もしてないよね? 迷惑を掛けたのは、君に嫉妬した相手だ。それに、こんなことは王宮では別に珍しいことではない。誰かが上げられれば嫉妬され、足を引っ張ろうとする。それを生き残った者が今の地位に居る。それに潰れてしまえば、それだけの価値だってことだ」


 …………。


「俺が冷たいと感じたかい? でもね、いくら護ろうとしても結局は本人なんだよ。王子である俺が命令すれば表面上はイジメはなくなるよ? でもそれではダメなんだ。勿論管理者にも改善は必要だよ? でも最後は本人がそれに負けない気持ちがないとね? 俺だけじゃなく、侍女長や、騎士団の皆も全力でサポートする。だが、君自身が気持ちで負けてしまうと戦えないからね?」


 みんなが私の為に……。

 私なんかの為に……。








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