第14話・王子様はフレンドリー?

 ──幸せな気持ちを感じていると、殿下が私に言った。

「ごめんね? カレンちゃん? 騒がしいところで。こいつら居るといつもこうなんだよ。まったくねぇ。ダニエルは真面目なんだけど、がね?」

 そう言って殿下がビクトルさんを見る。



「おい! 俺達だけのせいにすんなよ! お前だって同じじゃないか! 自分だけ良い格好しやがって、流石王子様は違うねぇ? アハハハハハッ」


「ビクトル君。うるさいよ? そこに直れ!!」

 殿下が腰に差してあった剣に手を掛ける。


 え?

 ええええええええ?


「ああ、カレンちゃん。いつものだから放置しといて良いからね?」


 ダニエルさんがにっこり笑って私にウインクした。

 じゃれれ合いって……


「隊長のお母上のお姉さま、つまりは叔母上様だな。その方が殿下の教育係だったのさ。その関係もあり、幼少の頃から隊長が、殿下の剣術の指南役だったのもあってねぇ。今でも殿下の剣術の師でもあるんだ。にしても隊長いくら何でも殿下に対して……」


「そうだぞ? ダニエルもっとキツくこいつに言ってくれ」

「殿下……」


 ビクトルさんが殿下の指南役? ビクトルさんってそんなに凄い人だったの?

 辺境の田舎育ちって聞いたから……。てっきり私は私と同じ庶民かと思ったのに……。


「ちなみにだけど、ダニーは由緒あるバーガンディ伯爵家のご長男だぞ? 嫁に行くなら優良物件だぞ? カレンちゃん? 何せ父親はバーガンディ宰相様だからなぁ? ハハハハハッ」


 え? ダニエルさんてそんな凄いお家のお坊ちゃんだったの? 

 って嫁って……。


 私は、ビクトルさんの言葉で顔が真っ赤になってしまった。



「隊長! カレンちゃんが困ってるじゃないですか!!」

「何なに? お前達そんな関係なの? カレンちゃんなら俺も可愛いと思う!!」

「ダメですよ! 殿下にはちゃんと!」

「そう言う意味じゃない。お前達だって彼女が可愛いと思うから親しくしているんだろ?」


 え? 私が可愛い? 嘘でしょ???

 こんな田舎者で、髪だってこんな真っ黒でおまけに瞳も黒で、暗いイメージだし……。


「まぁ俺は、妹みたいで可愛いと思ってるよ? 兄にしちゃぁちょっとばかし年食ってるけどね? でもお坊ちゃんはどうなのかねぇ? 満更でも?」


「隊長!!」

「アハハハハハッ」


「ごめんごめん。カレンちゃん? 驚かして悪かったね。改めて自己紹介するよ。俺の名はエリック・アルタニアだ。ついでに次期王太子なんて言う大層な名前を押し付けられているがね?」


 次期王太子殿下……。


「エリックお前の場合、それ名前押し付けられてるって言わなくないか? 息子なんだから仕方なくないか?」


「仕方ないって……」


「ダニエル、俺はコイツみたいに軽薄じゃないぞ? ちゃんと国民のことも国政のことも日々考えているぞ? お前なら分かるだろ?」


「は、はい殿下。勿論それは。隊長! おふざけが過ぎますって!!」


「ハハハハハッ、すまんな。ダニーに、殿下。此処しか俺も気を抜けるところ無いんだから許してくれよ。その原因を作ってるのはお前らの親父殿なんだぞ? まったくもう……朝からガミガミと……ダニーの親父さんときたら……」


「いつも父上がすいません……予算ですか?」

「ああ、突っぱねられたわ」

「すいません……」


「ああ、ごめんね? カレンちゃん。ついねぇ俺達三人が集まると愚痴の言い合いと言うか、最近は隊長の愚痴を聞く係なんだけどね……俺と殿下が……」


「い、いえ。大丈夫です」

 次期王太子殿下に愚痴を言う、ビクトルさん……。


「カレンちゃんてさぁ今三位なんだよねぇ? ってことは二位にならないと俺の専属にはなれないのか……うーーん。何か良い方法はないかなぁ……。侍女の序列には王家は口出し出来ないからなぁ」


 え? は?  

 何の話???



「お前何考えてるんだよ! カレンちゃんを自分の専属にするつもりか?」


「うん。って思ったんだけど、三位だと王族の専属にはなれないんだよね。確か?」


「……殿下それはいくら何でも……流石に無理があるでしょう? まだ城に上がって数ヶ月しか彼女は経ってませんし」


「ん? 長さは関係ないのでは? 俺は出自や、経歴だけで近衛を人選した覚えはないぞ? ダニエル」

 殿下のその言葉にダニエルさんと、ビクトルさんが黙った。


「いや、別に今直ぐって話じゃないよ? ただカレンちゃん見てると可愛いって言うか、癒される? 何となくだけどね? そんな気がしないか? お前らも?」


「まあな。俺は賛成だぞ? エリックの専属となれば、流石にもう? なぁ? ダニー心配はないだろ?」

「え。ええそれはそうですけど……」


「ん? 心配?」

「殿下その話はまた今度……それより、カレンちゃん。君が嫌じゃなければ、近衛隊の専属になるのはどうだい? 殿下の専属ってのは、また二位に昇進したらその時に考えるとして?」


 え?? 私が近衛隊の専属侍女に??

 えええええええええええええ?



「殿下、確か近衛隊って殿下の独立組織扱いなんで、侍女って指名出来ましたよねぇ?」

「ダニー!! お前天才か!!!」

「……お褒め頂き有難う御座います。隊長殿」


「ああ、その手があったね? それだと、俺も遠慮なくカレンちゃんに会えるしね?」


「ちょ、殿下! 殿下にはちゃんとした……」

「だから、そう言うのじゃないってさっきも……」



 ……えっと、私はどうすれば良いのでしょうか?  そろそろお昼が来るんですけれど?

 この話まだ続くんでしょうか?


「指名」で呼ばれている場合はその仕事が最優先な為、時間の縛りはない。

 中には「指名」で一緒に街へ買い物に付いて行く場合もあるらしい。


「んじゃ俺から推薦、書いておくからさぁ、ビクトル侍女長に提出しといてよ?」


「おお! 了解だ!」



 え? ええええええええええ?

 これって決定事項なの? もう??



「ああ、心配は要らないよ? 専属って言っても他の人の『指名』を受けることも可能だし、他の人と専属契約を同時に結ぶことも可能だし、いつでもその契約だって解除できる。侍女にとってマイナス面はないよ? ただ契約者であるこっちは『専属契約』を結ぶと『手当』を支払わないといけない義務が発生するだけだからね」


 殿下が優しく説明してくれる。


「あれさーエリック。専属って名前ややこしくないか?『専属契約』って聞くと、その人に一生仕えろ! ってなんか命令しているみたいな気がしないか? 前から俺思ってたんだよな?」


「うーーん。その辺りは侍女長の管轄だからなぁ……俺が口出しするのも……まぁ機会があれば言ってみるよ?」


「んじゃ、夕方までに契約書用意するから。ビクトル頼んだよ?」

「了解~~」


 え? 本当に???


 ええええええええ??


「ってお昼ご飯の時間じゃんかぁ!! もう面倒だから此処で食べる? カレンちゃんも一緒にどうだい?」


 は? え?

 私が一緒に? 殿下達と???


 嘘でしょ???


 って王子様ってこんなにフレンドリー何でしょうか??


 次期王太子殿下ですよねぇ? フレンドリー過ぎません? お優しいのは有難いけど……。






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