第13話・本物の王子様

 無事? 侍女長様が帰って来られて安心した私はと言うと……。

 現在、侍女長様が用意して下さった生首、いや、をお借りして、お顔に粧いをカキカキしているんですが……。


「……カレン? 何で目の周りが黒いのかしら?」

 頭を抱えていらっしゃる侍女長様に私は? 不思議に思い答えた。


「侍女長様、これは目ではなくて眉なんですけど?」


「…………」


 ──この後、カレンには原因が分からない暫くの沈黙が続いたことは言うまでもない。





 ──ここお城に上がって早二ヶ月が経った頃。

 ついに私は、毎日侍女長様よりレッスンをして頂いたお陰で、何とか最下層の四位を終え、実際にお仕事を一人で任される三位に昇格したのです!!

 

 三位になれば今までみたいにお手伝いだけじゃなく、城で働く高位官僚や、貴族の方々にお会いする機会が増える。三位のベテランともなれば、仕える専属の主人も決まり、その主人の世話が主な仕事となる。主人が外出の際には一緒に付き添い、中には主人が結婚しても、そのまま婚家にも一緒に行き生涯を共にする方もおられると聞いた。


 専属の主人を持たない三位の侍女は、指名があればその者が呼ばれた部屋へ行き、お茶や菓子、ルームサービスを頼まれたら食事をお持ちしたりする。


 それで気に入られたら専属になることが多いと聞いた。専属主人を持つ侍女は、城から配給される給金とは別に、仕える主人より「手当」を頂けるらしく、その額は主人によっても違いはあるものの、専属を持たない一般侍女に比べ何倍もの差があると教わった。

 その為、侍女達の間でも「指名」を頂きたい者が多く皆必死だと聞いた。



 そんな中、事件が!

 なんと驚くことに三位に先日昇進したばかりの私に「ご指名」が掛かったのです!




「カレンさん。これをお願いね」


 そう言って女中さんから渡されたのが、ティーセットを載せたワゴンだ。

 何度も練習した、ティーセットをお部屋までお持ちする仕事。

 私は練習した通りに優雅に宮殿の廊下を歩く。



 ──ここだわ! 私は指定された部屋のドアの前で大きく深呼吸し心を落ち着かせる。

 侍女長様に言われたことを、再度思い出しながらドアをノックする。


 大丈夫! 何度も練習したもの!


「失礼します。お茶をお持ちしました」


 ゆっくりと焦らず、優雅に、お淑やかに……。

 私は今まで練習の時に侍女長様から言われたことを頭に思い浮かべながら、茶葉をポットに入れようとした時。


「今日はねずみには、なっていないようだなぁ? カレンちゃん」

「失礼だぞ? ダニーそれ? ハハハハハッ」


 え? ダニー? それに今の声ってもしかして?


「三位昇進おめでとう」

「よく頑張ったなカレンちゃん」

 ダニエルさんにビクトルさん!!

 でも何故??


「おいおい、何だ? お前ら、俺に内緒でこんな可愛い子と知り合いだったのか? 俺にも紹介しろよ?」

「「ダメです」」

「おい! お前ら!!」

「ハハハハハッ」


 え? 何で? ここにビクトルさん達が? 


「おい、ダニー、カレンちゃんが、ビックリしてるきゃないか。また、ねずみ……いやその。な?」

 そんなに私の溝ねずみ姿って広まってしまっているのね……。

 私は恥ずかしくて顔から火が出そうだった。


「実はなぁ、騙すつもりは無かったんだ。黙ってて悪かったな? カレンちゃん。こう見えても一応俺も貴族の端くれでなぁ……ついでに近衛隊長なんて大層な名前押し付けられてなぁコイツに」


「コイツって……」

「俺はお前がガキの頃、お前のオムツをかえ…」

「あああああああ! 言うな! 今度それ言ったら不敬罪で斬るからな!!」

「ああ? 俺に斬るだと? 良いのか? 叔母上様に言うぞ?」

「むむむっ」


「隊長、殿下に対してそれは流石に……」


 え? 殿下???


 ええええええええええ?


 殿下ってあの殿下?

 もしかして王子様???


 嘘!!



 ビクトルさんが殿下と呼んでいた男性は、細身で色白。キラキラ光る綺麗な金髪で、瞳はとても美しいろ澄んだブルー。鼻筋の通った精悍な顔立ちだ。でも笑うと、とても笑顔が素敵だった。


 これぞ王子様! と言えるまさに絵本から飛び出して来たような風貌だった。

 それでいて、こうしてダニエルさんや、ビクトルさんとも仲良く? されていて私が思い描いていた王子様像にピッタリの人だった。



「驚いたかい? ごめんね? 驚かせて。君が三位になったら一番に『指名』しようって実は前から隊長とは話してたんだ。本当は二人だけの予定だったんだけど……」

 そう言ってダニエルさんが、殿下の顔をチロリと見た。


「ん? 何だ? ダニエル? 俺が居たら何か不味いことでもあるのか?」


「い、いえ……そう言う訳ではありませんが……ほら? 初めての『指名』ですしね? 彼女も緊張しているでしょうし? そこに殿下がおられると言うのは……」


 そう言って、ダニエルさんが私の方を向き、にっこり微笑む。


「何だ何だ? お前ら? その二人の世界的な? 雰囲気? おいおい?」


「隊長は、もう黙っていて下さい! 隊長が入ってくると話がややこしくなるんで」

「何だとぉ? ダニーお前~~~」


「もう、暴力反対~~~」」

 ダニエルさんの頭をグリグリしながら笑うビクトルさんの表情がとても楽しそうなのを見て、私も何だか楽しくなり、先程までの緊張感が一気に解れた。


 やっぱりビクトルさんには失礼? かもだけど頼れるお父さんみたいだわ♪


 ──私はこの楽しい雰囲気に包まれ、何となく幸せな気持ちになった。

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