第12話・侍女様が消えた!

 午後は、一度で入室試験をパスした私は、早速侍女長様に、お祖母ちゃん特製リラックスオイルを渡すべく、ポケットから取り出す。


「侍女長様、これ祖母が生前作ったオイルなんです。とてもリラックス効果があるらしく、私も眠れない時や、疲れ気味の時は利用してました。良かったらどうぞ。是非使って下さい!」


 私がそう言うと、侍女長様は少し驚いた表情をして私を見た。

 私はにっこり笑って、侍女長様に首を縦に何度も振り、受け取って貰うよう促す。


「あ、ありがとう。せっかくだから、じゃあ頂くわね? ところで、御祖母様は薬師か何かをされていらしたの?」


「いえ? ごく普通の人でしたけど? 田舎ではお医者様も中々直ぐには来れなかったので、昔から祖母が作る薬を重宝していたと、皆さんが言っていました」


「……薬師でない人の……薬を……いや、でもこれは口にしないから大丈夫ね……」

 私の言葉に何故か? 疲れたような? 表情を見せる侍女長様。そのお姿が心配になり、私は続けた。


「あ? 大丈夫ですよ? 祖母の薬は、田舎ではみんな飲んでましたし。そのお陰か? みんな長生きですよ? 祖母も長生きでしたし」


「あ、そうなの………それは良かったわね……。有り難く頂くことにするわ……」


「はい! 無くなったらいつでも言って下さい! 祖母が残してくれたレシピがあるんで、私も作ることが出来ますから!」


「貴女が作るオイル……。お気持ちだけで……ありがとうカレン……」


 喜んで貰えて良かったわ♪



「……では昼からのを始めますよ」



 そう言った侍女長様ですが……これは??



 ガラガラガラガラ。



「あ、そこで良いわ。ありがとう」


「失礼致します。侍女長様」


 先輩侍女の方が部屋に運んで来た物を見て私は、驚きのあまり思わず声を発してしまった。


「侍女長様、これは?」


「お茶と菓子のセットです。侍女の大事な仕事の一つとして、仕える主人へお茶やお菓子を出す仕事があります。こうしてパティシエがメモ書きを添えてくれますが、実際に自分が食べたことない物は、主人に聞かれても答えることが出来ないでしょう? 今日からは様々なお茶とお菓子を貴女にも食べて貰い、名前や特徴、味、茶葉の種類や産地などを覚えていって貰います」


 えええええ? これ全部食べるの? 毎日? 

 お菓子とお茶を食べてお給金を貰えるだなんて!!

 なんて素敵なお仕事!!


「ああ、そうね。明日からは昼食は少し控えめが良いかもね? 一通りを覚えるまではそうしなさいな」


「はい! そうします! ありがとうございます! 侍女長様!!」


「カレン……」


 あっ! またやってしまった。お淑やかに、優雅に……。

 頑張ろう……。



 それから、食べ方、サーブの仕方などを侍女長様に教えて頂きながら、ついに実食タイム~~♪

 何でしょうこの可愛らしい、は!!


 ケーキの上でプルプルしている、ゼリー寄せフルーツ。

 宝石のように美しい輝きを惜しみなく放っている旬のフルーツ達。



 私は一口、可愛らしい、おケーキ様を口に入れる。


 嗚呼、何でしょうこの至福の時間は……。


 まるで雲を食べているかのような、ふわふわしたスポンジに、上品な味のクリームと程よい酸味のフルーツが口の中で混ざると、絶妙なハーモニーを奏でる。

 天にも届きそうな夢心地。


「カ、カレン? 大丈夫? 無理して食べなくて良いのよ? 覚える為だから、少しづつ口にするだけで良いのよ?」


 そんな! こんな素晴らしい、おケーキ様達を目の前にして、そんな勿体ないこと出来ないわ!

 そう思い即座に答えた。



「いえ! 侍女長様、大丈夫です。私全部食べます。食べれます! 大丈夫ですから!!」


「……え、ええ。分かったわ。でも無理はしないように」


 そう言って侍女長様がパテシエ様が書いてくれたメモ書きを見ながら、使われているフルーツなどの説明をしてくれた。私はその話をメモに取りながら、美味しいケーキを頂いた。



「まぁ! 貴女! 本当に全部食べてしまったの? 大丈夫お腹は?」

 侍女長様が私のお腹を心配して下さる。少しばかり? お腹が重い気はするけど? 問題はないようなので、侍女長様に大丈夫と伝えた。



 その後は、侍女長様からメークの仕方を教わった。

 先ずは鏡の前で、侍女長様が説明しながら私にメークをしていく。


 目の前の鏡に映る私の顔が、どんどん変化していき……その変貌に私は息を呑む。


「誰これ?」


 思わず声を漏らす。


「化粧と言うのは化けるって意味に捉える方もいるけど、それは違うわね。化粧とは、よそおいよ。人は服を着るでしょう? それと同じで顔に着る粧いです。ですから派手な粧い、下品な粧い、幼稚な粧い。それは全てその人本人の価値を下げるんですよ? 自分を決して蔑まない粧いを身に付けなさいカレン」


 なるほど。服と同じで顔に着る服。粧いか。流石侍女長様だわ。

 私が感心していると、次は何と畏れ多くも私が侍女長様に化粧を施すことに!!




 ──そして数分後……



「カ・レ・ン・さ・ん、貴女私に恨みでもあるの?」


 ひぇええええええええええ!!!


 お、鬼いや、元い……こ、怖い……。


「申し訳ございませんでした!!!」



 おかしいなぁ……。指導書に書いてある通りにやったんだけどなぁ……。

 侍女長様の言われる通りに……。



 鏡に映った侍女長様のお顔は……。

 何故か? 目は真っ青で釣り上がり、眉は黒く太く垂れ下がり、口は大きく赤く裂けているかのようで

 ……まるでその姿は、化け……いや……どうしましょう


 侍女長さま? あれ? 侍女長様 どちらに行かれたんでしょう?


 あれれ? 私が頭を深く下げて謝っていた隙に? 恐る恐る顔を上げて見ると目の前に居たはずの侍女長様のお姿が、居なくなっていた。




「侍女長様~~~ ごめん、あ! 申し訳ございません~~どちらにおいでですかぁ~~侍女長様~~」




 カレンのへの道はまだまだ遠いようだった。

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