第11話・鬼教官? いえ、お母様のようです

 ──高まる鼓動を抑え、私は昨日教わった通りにゆっくりと入室し、音をさせないように入口のドアを静かに閉めた。


「お早う御座います。カレンもう一度廊下に出て、ドアをノックして挨拶をしてご覧なさい」

 入室した途端に侍女長様より、低く厳しい声が。


 私は急ぎ返事をし、外に出て再びノックをする。


「侍女長様、お早う御座います。カレンで御座います!」


 そう言いドアをノックする。


 すると、部屋の中から侍女長様の声がする。


「それは優雅な挨拶なの? カレン?」


 ハッ! ドンドンとドアを叩いてしまっているわ! 私。


 再度繰り返し、挨拶をする。


「もう一度!」


「侍女長様、お早う御座います。カレンで御座います」

「もう一回」


「侍女長様、お早う御座います。カレンで御座います」

「もう一度」


 部屋に入るまで、この挨拶が何度も繰り返された。



 ──そんなカレンを嘲笑うサラを始めとする侍女達。

「ねぇ。あの子ほら? 侍女長様の部屋にも入れて貰えないなんて。アハハッ」

「山猿には所詮無理なのよ」

「海猿じゃなくて?」

「どっちだっけ? ハハハハハッ」



 とは対象的に、何度も何度も廊下で、ドアに向かって深く頭を下げ挨拶するカレンの姿を見た騎士達は笑顔で、ガッツポーズのジェスチャーをしてカレンを励ましたり、拳を突き上げ「頑張れ!」と励ましていた。



「侍女長様、お早う御座います。カレンで御座います!」


──「お入りなさい」


 やっとのことで入室の許可が下りた私は、部屋にゆっくり入り、ドアを静かに閉めた。


「カレン、何故無人のドアに頭を下げて挨拶するのかしら? 挨拶をする気持ちは良いことだけど、そのせいで、貴女の声は曇った声に聞こえてしまうわ。それと「御座ます」の「い」の発声がはっきりしないわね。基本的な発声練習から入りましょうか」


 室内に居たのに、ドアの外に居る私が、ドアに向かって頭を下げていたことが分かっただなんて!!

 やっぱり侍女長様は、魔法使いさんだわ!


 それから、私は侍女長様の部屋で発声練習を行い、その後お辞儀の仕方を教わった。


「そろそろ、時間ね。お疲れ様。昼食後は13時にまた此処に来るように」


 え? もうそんな時間? 私は時計をチラリと見て驚いた。無我夢中だった為、時間が過ぎることも忘れていた。


「はい! 有難うございました。侍女長様!」

 私が元気にお礼を言うと


「……カレン」


「す、い、じゃない。申し訳ございません!」

「あ! 申し訳ございませんでした。有難うございました。侍女長様」


「はぁ……もう良いわ。行きなさい」


 ? 侍女長様お疲れなのかしら? お祖母ちゃんが調合したリラックス出来るオイルがまだ沢山あったはずだわ! 後でお持ちしようかしら?


 私は、そう思いながら、部屋を後にした。


「ご、はん♪ ご飯♪ おいっしい ご飯♪」


 また、あの素敵な食堂で騎士様達にお会い出来ると思うと、嬉しくなりつい走り出しそうになる。


「ダメダメ、お城の中では優雅に歩くのよね?」


 先程のを思い出し、出来るだけ優雅に歩くよう心掛けた。




 ──「ああ、カレンちゃん。こっちこっち!!」


 あ! ダニエルさんとサミーさん。それに今朝お世話になった方々だわ!!


 早る気持ちを抑え、少しだけ早歩きで彼らが待つ食堂に向かう。


「どうだい? 侍女長様の特訓は? 大変だろう?」

 心配そうにダニエルさんが私に言う。


「何せ『鬼教官』で有名な侍女長様だからなぁ」


 え? 鬼教官? あの侍女長様が?

 あんなに熱心にお優しく教えて下さる御方が、鬼だなんて!!

 私は何となく自分のお母さんを悪く言われた気がして、急いで否定した。


「違うわ。鬼だなんて! 侍女長様はとても熱心にそして、分かりやすく優しく教えて下さるわ。鬼教官だなんて侍女長様に失礼だわ!」



「…………」


 私の言葉に、そこに居た騎士様全員が、口をあんぐり開けて驚いた表情を見せた。


 はっ! 私ったら! ついムキになってしまって……。こんなに親切な騎士様達に向かって。


「ごめんなさい。新米が生意気なことを言ってしまって。でも本当に侍女長様はとてもお優しくて……だから、つい。私ったら……」


「ハハハハハッ。本当にカレンちゃん、君はいい子だねぇ?」


「ハハハハハッ。こりゃあ良い!! それよりほら飯だ飯!」


「カレンちゃん、肉と魚どっちにする?」


 昼食は2種類の定食と決まっている。メインが違う日や、パスタとオムライスだったりと2種類から選ぶシステムだ。


「では、お魚で」

「了解~~」


「あ、自分の分は自分で取りにい…」

 と言いかけたところで、ビクトルさんが


「いや、カレンちゃんはここに。君が行くと、ほら? ね? だから……サミーカレンちゃんの分に多めにデザートとフルーツもついでに!!」


「すいません……」


「ハハハハハッ。レディーはそんなことは気にする必要はないんだよ? それに俺達は『仲間』だろ?」


「仲間」……。ビクトルさんまでもが……。


「そうそう仲間、仲間~~」


「皆さん……」



 その後、私が午前中受けたの内容や、騎士様達の訓練の話を聞いたりして楽しいランチタイムを過ごした私は、またカークさんに部屋まで一旦送って頂いた。


 そう、侍女長様に「リラックスオイル」をお渡しする為に!


 カークさんは、部屋の外で私を待ってくれて、親切にも、侍女長様の部屋の近くまで案内してくれた。


















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る