第9話・護衛?(1)

 初めてのお城での宿に私は、興奮して中々寝付けず、気付いたら空がグレーに混じった薄ピンク色に。昨晩、夕食を終え部屋に戻ると、窓から見える幻想的な光景に感激した私は、長時間ずっとその美しい風景を眺めていた。


 その時に、窓のカーテンを閉め忘れたままになっていたことに気付き急ぎカーテンを閉め、今日の仕事の為と思い、再度ベッドに潜り込み無理やりに目を閉じる。



 それから2時間後──


「はっ! いけない! 寝過ごすところだったわ!!」


 私はベッドから飛び起きて、昨日侍女長様から頂いた、王城の地図と、施設の利用時間や注意書きなど、王城で働く者へ配られる「手引書」を見て確認する。


「朝食にはなんとか間に合うわね。急がなくちゃ!!」

 私は大急ぎで着替えて食堂に向かった。


 城で働く者は人数が多い為、食堂は数箇所設置されてあり、職種によって勤務時間が異なる為、開いている時間が各食堂によって違うのが此処の特徴かも知れない。


 朝7時から9時まで開いているこの一番大きな大食堂は、日勤者が多く利用する。但し午後14時~16時の2時間は全館閉鎖となる為、ティールームでの軽食か、騎士様に教えて頂いた休憩所の売店で購入するしかない。


 ただそれも高官になれば、好きな時間にルームサービスを利用出来るようになるらしい。

 

侍女の中にも序列があるらしく、新入りの私は最下層の四位に位置すると教えて頂いた。

 

二位以上の者が、直接王族のお世話を任され、三位、四位の者が、上位の者をサポートするのが主な仕事となると聞いた。ちなみに一位は侍女長のみで爵位も与えられ貴族同等の扱いだそうだ。私達のトップな為、皆「侍女長様」と呼んではいるが、実際はお貴族様でもある。


「そんな御方に、指導して頂けるなんて!! なんて恵まれているのかしら!!」


 目の前に沢山の料理が並べられているのを見て私は、心躍らせながら列に並ぶ。

 朝食と夕食はバイキング形式となっていて、好きな物を好きなだけ食べて良いと昨日聞いて驚いた。


 こんなに豪華な料理をお腹いっぱい食べて良いなんて!!

 しかもフルーツやデザートに、果実水まで! しかも何種類も用意されている!!!


 もうそれだけでお腹一杯になるぐらいの夢の光景だった。


「サラさん? ねぇあの子?」

「溝ねずみ!!」

「アハハハハハッ、思い出したら笑っちゃうじゃない?」

「やめなさいよ。笑っちゃうでしょ?」


 昨日、カレンが「溝ネズミ」になった原因の張本人達、サラとその取り巻きの侍女達が、クスクス笑っていた。

 そして、再びサラが取り巻きに目配せする。




 ──私は自分の番となり、料理が並ぶテーブルに向かい、取り皿を手にする。

「嗚呼、迷っちゃうわ。どれも美味しそう!!」

 目の前にある、見たこともないような豪華な料理に私は感激し一瞬悩んだが、朝は皆仕事前で忙しく、後ろにも沢山の列が並んでいる為、急いで手前の料理から皿に取って行く。


 サラダに、チキンに、芋フライ。フルーツにヨーグルト、スープにパン。トレーが一杯になってしまった。

 ちょっと欲張り過ぎちゃったかしら? と少し反省しつつ、最後に端の果実水をコップに注ごうとした瞬間。




 ──ガシャンッ



 何という失敗!!


 ──私は転倒してしまった!!





 またやってしまったわ……

 私ったら、床が濡れていたことに気付かなかったのかしら?



 はぁ……情けない。





 ────そんなカレンの姿を見たサラ達は

「溝ねずみさんと再会ね?」

「ハハハハハッ。流石溝ねずみさん。食堂にも現れるなんて?」

「ホホホッ。いい気味だわ、さぁ行きましょう」

「サラさん、席は取ってありますから。ごゆっくり料理を選んで下さい」

「有難う。キティ」





 ────私は、直ぐに立ち上がり床に落としてしまった食材をトレーに拾い集めた。

「綺麗な床を汚してしまったわねぇ……どうしましょう。ハンカチは部屋に置いて来てしまったし……何か紙のような物がないかしら?」

 そう思って私はキョロキョロと辺りを見渡す。



 その頃、ちょうど朝練を終えた騎士達が続々と食堂に集まって来ていた。

 騎士達はそれぞれの宿舎にも食堂が設置されていたが、ここ本館の大食堂に食事をしに来る者も多くいた。その殆どは若い騎士達で、彼らの目的は……。


 まぁは何処の世界でも同じ、限られた空間の限られた時間の、ほんの少しのトキメキを求めて……。



「おい? あの子? 昨日副隊長が言ってた子では?」

「黒髪ポニテで背の低い少女? 瞳の色も黒だな。そうかもな?」

「しかし何やってんだ? って! なんか服変? ってスカートが半分だけオレンジ!!」

「なぁアレってもしかして?」

「!!」

「行くぞ!」

「はい!!」



「……えっと。確か名前はカレンちゃんだっけかな? どうしたの?」

「あらら、これは酷いねぇ?」

「ぷぷぷっ。溝ね、……」

「おい!」

「あ、失礼。お嬢さんお困りですか? 我々に何かお助けすることは御座いませんか?」



 え? どなた? この方達? 騎士様のようだけど?


「ああ、失礼。突然で驚いたね? 俺達は、ダニエルやサミーの仲間、第一騎士団所属近衛隊の者だ。、君を見つけてね? そしたら何やら困っている風だったから、お節介だとは思ったんだけど? お手伝いさせて貰っても良いかな? カレンさん?」


 え? 手伝い? 私に?

 まぁ! 何て親切な方々なんでしょう!

 ダニエルさん、サミーさんだけでなく、この方々までなんて!!


 親切に声を掛けて頂いたこの方は、ダニエルさんよりかなり年齢が上に見える方で、ガッチリした体型で背が凄く高い。一見怖そうな雰囲気だけど、笑った笑顔は優しくて、もし私にお父さんが居たらこんな感じなのかしら? と失礼にも思ってしまった。




「有難う御座います!! 片付けは私がしますから。ただ床を汚してしまって……何か拭く物がないかと……」


「ああ、それなら大丈夫だよ。掃除係がちゃんと居るから心配ないよ。少し端に置いておけば大丈夫」


 そう言って先程の方が私に笑顔で言う。


「え、でも……汚してしまったのは私ですし……」


「ハハハハハッ。カレンちゃんはいい子だねぇ? は誰にでもあるからね? 大丈夫。それに君は侍女だろう? 侍女には侍女のするべき仕事があり、掃除婦には掃除婦の仕事がある。分かるね? 君のは掃除をすることじゃない。君は早く一人前になって、王族のお世話が出来るようになるのが君の仕事だろ?」


 はっ! そう言われてみればそうだわ! 昨日も侍女長様に言われたのに……私ったら。


「さぁ、時間がない! こっちに付いて来なさい」

 そう言って先程の立派な体格の男性が私ににっこり笑った。




















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