第2話・夢の世界へ
──騎士様に案内された王宮は、まさに子供の頃絵本で見た世界と全く同じだった。
幼い頃、亡くなったお祖母ちゃんに何度も何度も同じ絵本を読んで欲しいと
門を潜った時から私の胸の高まりは最高潮に達していた。こんな都会にある建物なのに、立派な木々が植えられていて、中央には大きな噴水があり、色取り取りの花が咲き誇る。
そんな素敵過ぎるお庭を真っ直ぐに進むと『夢の世界へ』私を
「うわ~~~~~キレイ~~」
エントランスに入った瞬間、何と表現したら良いのか分からなくなるほど感動し、ポカーンと口を開けたままそれ以上の言葉を失い、私は立ち竦んでいた。
「おい! 急げ! 何してる!」
歩き出した騎士様に気付き、急いで後を追いかけた。
廊下は、こんな所を靴のまま歩いて良いのかしら? と思うぐらい上等なフカフカの絨毯が敷かれていて、壁には、美しい景色や綺麗な花々を描いた大きな絵が何枚も掛けられている。
素敵空間過ぎて、今にも跳ね出してしまいそうになる自分を、何とか落ち着かせる。
長い廊下の途中々には、繊細な彫刻を施された豪華な調度品が置かれていて、センスの良い置物や、豪華な花瓶に両手で抱えきれない程の綺麗な花々が活けられている。
なんだか私までお姫様になった気分ね?
私は自然と頬が緩み、声が漏れていた。
「フフフッ」
ああ、楽しみだわ~~ なんて素敵な空間なんでしょう!!
だって、夢にまで見た本物の王子様とお姫様がここには住んでいるんですもの!!
「おい! あんたキョロキョロしてないで、前をちゃんと見て歩けよ? もう直ぐ侍女長殿の部屋に着くんだからな!」
はっ! いけない私ったら。遊びに来たんじゃないのに。あまりにも美しい光景過ぎて、つい浮かれてしまっていたわ!!
「すいません。騎士様」
私が深く頭を下げると、先程まで怒っていた騎士様のお顔が少し緩んだ。
「あ、ああ。今度から気をつけるようにな。さぁ着いたぞ。ここだ」
案内された部屋のドアを騎士様がノックする。
「侍女長殿、第四騎士団所属、ベンガーです。ナリス
「お入りなさい」
部屋の中から、ゆっくりと品のある声が聞こえる。
私が騎士様の顔を確認するように見ると、騎士様は無言で私に頷いた。
そして、騎士様がゆっくりと部屋のドアを開ける。
「では、私はこれで失礼します」
そう言って、とても美しい所作で軽くお辞儀をして騎士様は部屋を出て行かれた。
「貴女がナリス
私にそう訊ねた目の前の女性は、とても背が高く、背筋がピーンと伸びていて、メガネの似合う綺麗な人だった。お母さんがもし生きていたら、このぐらいの年齢かしら?
あ! でも名前が……。
訂正しても怒られないかしら? 私は恐る恐る言葉を紡ぐ。
「初めまして。よろしくお願いします侍女長様。申し上げ難いのですが……。私の名前なんですが、カレナではなく、
私の言葉に、目の前の侍女長様が少しだけ驚くような表情をされたが、直ぐに元の顔に戻り言った。
「今、何時か貴女お分かりかしら? 9時が集合時間のはずよ? 私は何年も新人教育をして来たけれど、初日の挨拶に遅れて来たのは貴女ぐらいよ。本来は女中の仕事ですが、罰として貴女には洗濯の仕事を命じます。荷物を部屋に置いて、そこの制服に着替えたらさっさと仕事に移りなさい」
「は、はい! 申し訳ございません」
私は、精一杯深く頭を下げ謝る。
「分かったら、さっさと行きなさい」
「はい! 失礼します! ありがとうございました。侍女長様」
テーブルの上に置かれていた、制服一式を急いで手に持ち、部屋を退出しようとするが、焦ってしまい、ドアを思いっきり開けてしまった。
──バンッ
「貴女!!!」
「す、すいません!! ごめんなさい!!」
「まぁ! 何ですか? その言葉使い。すいません、ごめんなさいじゃなくて『申し訳ございません』と言いなさい」
「申し訳ございません!!」
私は、先程よりも深く腰を折り大きな声で謝った。
「はぁ……もういいわ。さっさと行きなさい」
「はい! 失礼しましました!! では。また」
「……ではまた。って何なのよ。もう良いから早く行って!」
……はぁ。いきなり私ったらミスしちゃったわ。
でも、暗い顔はダメね。こんな綺麗な場所に、暗い顔は似合わないわ。
「さぁ。頑張るわよ~~お洗濯~お洗濯~~」
って部屋って何処なんでしょう?
誰か居ないかしら? 人が何処かに居ないか、広く長い廊下をウロウロし、キョロキョロと見渡す。
◇
──その頃、国の最南端に位置する港町で細々と商いを営む「
「嫌よ!! 何でこの私が、お城で働いたりしないといけないのよ!! パパったら。パパなんて大嫌い! もう絶対口聞いてあげないんだから!! サト! サト! さっさとお茶とお菓子を持って来なさい!」
ナリス商会で、蝶よ花よと甘やかされて育ったカレナは、父親の勝手な行動に、激怒し部屋で籠城を決め込んでいた。
そんなカレナの父親は「娘を城へ上げれば、運が良ければ王子の目に留まり、あわよくば側室にでも?」と考え、城で
選ばれるには何十倍とも言える倍率だったが、政府の高官に、なけ無しの金を叩いて多額の賄賂を渡し、この貴重な切符を手に入れていた。
だが、大枚叩いたことが無駄になったことよりも、目に入れても痛くないほど可愛がっている娘から「大嫌い、二度と口を聞いてあげない」と言われていると聞いた彼は、慌てて部屋に閉じ篭っている娘の元に来た。
「カレナ。パパが悪かった許してくれ。あの話はなかったことにするから。もう二度とお前にそんなことは言わないと誓う。だから、ここを開けてくれカレナ」
「フン。もうすこし反省すれば良いのだわ。二度と、こんな下らないことを考えないようにね!」
立派なソファに座って、お菓子をボリボリ食べながらカレナは一人呟いていた。
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