第41話 サプライズ(ユヅネ視点)
「え、え? これは一体……なんなのですか?」
わたし──ユヅネがお風呂から上がり、いつもの寝巻に変身して一階の浴場から出ましたところ、
「……」
辺りはしーんとしたまま、暗くなっていたのです。
ここは優希様たちと一緒に暮らす場所。
先程助けてもらって、すぐにどこかへ逃げられるとは考えにくいですが……。
正直、ちょっぴり怖いです。
「優希様ー? 夜香ー?」
「……」
不安を押し隠すように呼び掛けますが、やはり返事はありません。
「……優希様?」
ふと下に目を落とすと、『順路←』と書いてある小さな紙が置いてあり、順路を照らすように足元だけが明るくなっています。
これに従え、ということでしょうか?
パチ、パチとスイッチを切り替えてもやはり電気が付かないので、これに従うしかないようです。
「階段ですか」
順路は、浴場から階段に続いています。
階段を上って二階に着くと、順路はリビングに続いているようです。
「?」
今リビングから、ちょっとだけですが声が聞こえたような……?
ですが、リビングは暗いまま。
疑心暗鬼ながらも、私はリビングのドアをそーっと開けます。
「優希さ──」
「「「ハッピーバースデー!」」」
「わぁっ!」
わたしがリビングに入った瞬間、ぱっとそこら中の明かりが点き、同時にたくさんのクラッカーの音が鳴り響きました。
「おめでと!」
「ユヅネちゃん誕生日おめでとー!」
「ユヅ姉おめでとう!」
「え、みんな……」
これはどうやらサプライズだったようです。
それが分かった瞬間、不安な気持ちはすぐに消え去り、心の中が一気に温かくなりました。
前に少し優希様に伝えたことがあった誕生日。
まさか、覚えてくださっていたなんて……!
最初に寄って来たのは夜香の三人兄妹です。
私は年上のお姉さんなので、可愛い奴らです。
「ユヅ姉!」
「ユヅネちゃん、良かったよおー!」
「ユヅネお姉ちゃ~ん!」
続いて、浩さんと夜香。
夜香は何故か泣いています。
そして、
「ユヅネ」
「優希様……わっ」
ゆっくりと近づいてきた優希様が、おでこを撫でてくれました。
ちょっとくすぐったい思いですが、やっぱり嬉しいです。
「ごめんな。ちょっと怖かったか?」
「い、いえ!」
顔が近いです!
先程、
「そっか、なら良かった」
「は、はい……」
多少不安にはなりましたが、優希様は私を離さないと言ってくれました。
もう大丈夫だと信じています。
それにしても……
「いつからこんなことを?」
「計画はもっと前からしてたけど、準備は昨日だよ」
「あ」
でもわたしは、そんなことも知らずに勝手に……
「って、ゆ、ゆゆ、優希様!?」
そっと近づいてきた優希様が、私を抱き寄せていました。
……あたたかい。
「また、余計な事を考えようとしただろ」
「!」
「ユヅネはな、いつも通りわがままな奴のままで良いんだよ」
わがままなままで……
「ユヅネは、たまに変に気を遣うところがあるからな。おねだりする時みたいに、いつでも頼っていいんだぞ」
「優希様ぁ」
ふと気づくと、顔を埋めていた優希様の肩がわたしの涙で濡れてしまっています。
「ちなみに、浩さんには話したが、ガキたちには俺がユヅネを怒らせてしまったってことにしてるから。口裏合わせてくれよな」
「そんな、優希様は──」
「いいから、いいから」
そっと私の耳元で告げられると、優希様の顔が離れます。
「おっと、いつまでもこうしてはいられないな! 今日は楽しい回なんだからな!」
あ、優希様に離されてしまいました。
……ですが、
「はい! みんな、ありがとうなのです!」
嬉しい気持ちには変わりありません。
「優希のにーちゃん、早くケーキ食べようぜ!」
「おいこら、ユヅネの誕生日なんだからな~」
「知ってるってば! 早く早くー!」
「しょうがない奴らだなー」
「ふふっ」
夜香の兄妹たちも、早くケーキを食べたがっているようですし、頂きましょうか。
「うぐ」
お、お腹が苦しいです……。
「ユヅネちゃん、さすがに食べ過ぎだよ」
「夜香……」
つい、張り切り過ぎてしまいました……。
だって、優希様が私の為に用意してくださったケーキでしたので。
「まあ、ユヅネらしいっちゃらしいな」
恥ずかしいです、優希様にも笑われてしまいました。
「よし、みんな!」
「?」
優希様がすくっと立ち上がって、みんなの方を見渡しました。
まだなにか?
「各自、持ってこーい!」
優希様がそう言うと、みんなして席を離れていきます。
一体、何が始まると言うのでしょうか。
「じゃあ、お前たちから渡してあげてくれ」
「「「はーい」」」
優希様がそう言うと、夜香の兄妹たちが小さな袋を持ってきます。
「「「ユヅネちゃん、誕生日おめでとー!」」」
「わあ……!」
中には、たくさんのお菓子が入っていました。
それも、わたしの好きな物ばかり!
「これは、こいつらが自分で選んだんだぞ」
優希様が言うと、三人とも誇らしい顔をします。
「そうだぞー、ユヅ姉」
「ユヅネちゃん、甘いもの好きだもんね!」
「気に入ってくれた? ユヅネお姉ちゃん」
「ありがとう……!」
お礼を言うと、浩さんと夜香が三人に代わってこちらに来ました。
「改めておめでとう、ユヅネちゃん」
浩さんがくださったのは、ちょっと大人びた和菓子類。
「おじさんから身に付ける物もらっても、嬉しくはないと思ってね。無難なところだけど、よかったかな」
「そんなことは。ありがとうございます」
そして夜香。
「ユヅネちゃん、ちょっと後ろ向いてくれる?」
「は、はい……」
言われた通りに後ろを向くと、首元にネックレスを通されます。
「これは……!」
ネックレスの先にはペンダントが付いており、そこには
「そっ。『マイペース・ライフ』のギルドマーク入りよ。気に入ってくれた?」
「はい!」
『マイペース・ライフ』のギルドマークは「手を頭の後ろ、足を前で組んで寝ている姿勢をした、人間のシルエット」です。
背景は自然を表すような黄緑色で、人のシルエットは薄目の黒色をしています。
まあ察しの通り、だらけた姿勢をした優希様のシルエットなのです。
「ありがとうです! 夜香!」
「ふふっ、喜んでくれたなら良かった」
そして、優希様。
「ユヅネ」
「はい……って、優希様?」
少々不安げな様子の優希様。
どうしたのでしょう。
「実は、そんなに自信がないんだ。ちょっと出しゃばり過ぎた気もしてる」
「……」
もう、そんなことですか。
「わたしはなんでも嬉しいですよ」
「そう言ってくれると助かる」
優希様は、後ろからプレゼントを私の前に出しました。
「……!」
「どう、かな?」
和風の着物!
わたしがダンジョンの時に身に付ける物と似た、和風の着物!
白色を基軸としているのは同じですが、ピンクや赤色をした梅の花、桜の花がいっぱいに
「ありがとうございます!」
わたしは思わず、優希様に抱き着いておりました。
優希様がわたしのために選んでくれたのが、何より嬉しいのです。
「でも、良かったかな。これにはユヅネが着ているような魔力は備わってないぞ」
「いえ、それはエーレにお願いしようと思います!」
「エーレさん、優秀過ぎだろ……」
助けてくれたエーレや仮家のみんなにも、またお礼をしなくちゃですね。
わたしは、幸せです。
優希様とこうして過ごせて、祝ってくれるみんながいて。
一時はご迷惑をかけましたが、わたしはやっぱりここが一番大好きです。
「ただいま」
口に出した後で、自分でもいきなり何を言ってるんだろうと思いましたが、
「「「おかえり!」」」
みんなの返事は、とてもあたたかったです。
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遅咲きの落ちこぼれ探索者〜人類で最も遅く最も弱いステータスで覚醒をした俺、何故か懐いた異世界魔王の一人娘と共に最強へと成り上がる〜 むらくも航 @gekiotiwking
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