第30話 我らがギルド

 「よーし! 今日もお疲れ様!」


「おつかれ様ー!」

「おつかれ様ー、です!」


 俺の音頭から始まり、それぞれ飲み物を片手に飯を食らう。

 昨日に正式メンバーとなった夜香を連れて、探索へ行った帰りの外食だ。


 それも、今日は焼肉ではなく、海鮮料理店。


 高級かどうかって?

 もちろん最高級に決まっている。


「おいしそうです……!」


「そうか! 好きなだけ食べていいぞーユヅネ!」


「はい!」


 てっきり肉一筋だと思っていたユヅネを、先日趣向を変えて海鮮料理に連れて行ってみたところ、なんとハマったらしい。


 夜香を迎え入れる前の話なので、夜香のことで一週間ほど我慢させてしまった分、今日はぱーっといこうと思う。


「ん~~~! おいひいれすぅ~!」


「それは良かった」


 ちょこっと醤油をつけた、「海のダイヤモンド」と呼ばれる本マグロの刺身を三枚一気にぺろり。

 大満足な顔を見せるユヅネ。


 この笑顔のために命を張って探索を頑張っているんだ、贅沢ぜいたくしたって良いだろう。


「優希」


 コンコン、と人差し指で机を鳴らす夜香の方にゆーっくりと顔を向ける。


「はい、なんでしょう」


「美味しい物も良いけどさ。今日の“すべきこと“、忘れてないよね?」


 おかしい。

 顔は笑顔のはずなのに、目が笑っていないのか、どこか恐怖を感じる。


「も、もちろんでございます」


「そう。なら良かったー。こんな……」


 夜香はガサゴソと手荷物を漁り、今日の報酬データを取り出した。


「ダッサい名前のギルドで、活動なんてやってられませんからねえ!?」


「……はい。まったくもってその通りでございますす」


 報酬データには、『ゆうきのギルド』というなんとも幼稚なギルド名が載っていた。


 前回忘れていた重要な事、これの事でした……。


 『ギルド名会議』!

 そう、この店で今回扱うべき議題はこれである。


 ギルド名は一応無制限に変更できるが、一度決めてしまえば基本的にはその名が流布るふされる。


 仮だからいっか、と気楽にこの名で提出したものの、一刻も早く正式な名を決めなければ、世間は『ゆうきのギルド』に依頼やスポンサー案件を出し始める。


 そうなってからでは遅いのだ。


 そんな事情も考慮し、今日ここで夜香が「絶対に決めるわよ!」と目に炎を灯して決断したのだ。


「わたしはこのままでは良いと思いますが……。素敵ですし」


「ユヅネちゃんは黙ってて!」


「ひどい!?」


 最近二人のこういうやり取りも増えてきたなあ。

 夜香が馴染めているようでなによりだ。


「ちょっと、なにニヤニヤしてのよ。あんたがリーダーでしょ? 何か案でも出したらどうなのよ」


「おっと、ごめんごめん」


 ニヤニヤしてしまっていたか。

 これは気を付けないとな。


 けど、


「うーん、名前って言ってもなあ……」


 生憎、俺にはセンスがない。

 それは自覚している。


 なので、最終決定権は一応俺が持つとして、


「一旦、夜香の案を聞きたいな」


「私ぃ?」


 夜香は、その言葉とは裏腹に「待ってました」という感じの、ちょっと嬉しそうな表情を見せた。


 準備は万端だったようだ。


「こほん。では第一候補から」


「どうぞ」


「ザ・ベストストロンゲスト。スーパードラゴンハンティング。グラブ・ザ・グローリー。ドラゴンクエスt――」


「ストップ、ストップ!」


 え、俺の聞き間違え……じゃないよね?


「なによ? まだまだ考えてきたわよ? 例えばそう、ファイナルファンタg――」


「とにかくストーップ!」


 聞き間違えじゃなかった!


 急に横文字来たな、と思ったらダサいというか、端的に言えば中二病が過ぎる。


 しかも、最後の二つは特にまずい。

 ギリギリで止められて良かった。


「センスなしです」


「ユヅネちゃん!? 嘘でしょ!?」


 俺が言うまでもなく、ユヅネが容赦なく言い放った。


「とりあえず夜香に任せられないのは分かった」


「そんなに……? 寝る間も惜しんで考えたのに」


 しくしく、とポーズを取る夜香。

 本当だったら壊滅的なセンスだな。


「ユヅネは?」

 

「しょうがないですね。わたしのセンスというものをお見せしましょうか」


 一応聞いたが、はっきり言って期待はしてない。


 なぜなら、


「優希様大好き好きギルド! あ、好きが一個少なかったです。優希様大――」


「「もういい」」


「わたしだけ早くないですか!」

 

 こうなることが分かってたからね。


 よくもまあ、期待を裏切らず、恥ずかしがらずに言えたもんだ。

 逆に感心するよ。


「じゃあやっぱり……」


「優希様しかいませんね」


「そうなるかあ」


 俺も自分でセンスないと思っていたが、下が二人現れるとそれなりに安心するな。

 だからといって思いつくわけでもないが。


「うーん……」


 より一層頭を悩ます俺に、言葉を送って来たのは夜香だ。


「じゃあさ、優希のやりたいこととか、願いを込めてみるのは?」


「やりたいこと、願いか……」


 夜香にしてはまともなアドバイスじゃん、とは口に出さないが、おかげで少し頭が晴れた気がした。


「スローライフ」


 そう言われ、ぱっと出てきた言葉がこれだった。


「なるほどねえ。あなた、のんびりの時はほんとのんびりだもんね」


「それが良い所でもあるのですが」


「けど、探索にガツガツいっててスローライフってのも……」


 なんかしっくりこない。


 探索をがんばってる時は我ながら頑張ってると思うし、俺は息を抜くときに人一倍抜いているだけなのだ。 


「「マイペース」」


「!」 


 ふと、ユヅネと夜香の言葉が重なった。

 驚いているのは、見事にハモった彼女たちも一緒みたいだ。


「ふっ」

「ふふっ」


 そうして二人も笑い合う。


「やはり、夜香もそう思いますか」


「そうね。優希にはぴったりの言葉でしょうよ」


 すると、俺の中で言葉がつながる。


「マイペース・ライフ」


 かっこよくもなければ、大手ギルドのような威厳もない。

 けど二人も言う通り、俺達にはぴったりの名前かもしれない。


「良いと思います」

「ええ、まあ及第点ね」


「なーんか一人、センスがないのに厳しい人がいるなあ」


 とはいえ、俺も密かに気に入っている。

 ここから変える気はない。


「決まりですね」


「案外あっさりだったじゃない」


「そうだな。ギルドを作ったのも俺が好き勝手したかったからだし、答えは出てたのかもな」 


 センスが壊滅的かと思われたギルドメンバーとの会議を経て、無事ギルド名が決定した。


 我らがギルド『マイペース・ライフ』の発足だ!

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