第31話 交錯する想い

 「ふう……」


 俺は少し上を見上げ、大いに悩んでいた。


 なぜなら、今までの人生において、こんなは経験してこなかったからである。


 端末のカレンダーで、“ある日”を確認する。


「7月7日……」


 一週間後にその日は来る。

 来たる7月7日は、“ユヅネの誕生日”なのだ。


 前にちらっと会話の中で聞いた話。

 珍しく俺のセンサーが反応し、記憶に刻み込んだのだ。


 憶えていたことは素直に自分を褒めよう。

 そして、誕生日といえばやはりプレゼントだ。


 日頃からお世話になっている(している?)ユヅネには、ぜひとも何かプレゼントをあげたい。


「だが」


 一体、何をあげれば良いんだ……!


「そろそろ探索行く時間よ」


「おっと」


 後方から軽くチョップしてきたのは夜香。

 もうそんな時間だったか。


「ユヅネー、行くぞー?」


「はい、今行きますー!」


 てってって、と腕を後方にしたナ〇ト走りのような走り方で、ユヅネがコーナーを曲がってくる。


 あの部屋はリビング……。

 またおやつか何か食べていたな。


「あ」


 おやつ、か。

 いや、ちょっと特別感が足りない気がする。


 ユヅネはきっと喜ぶとは思うが、それではいつも変わらない。


「優希、なんかぼーっとしてない?」


「はっ!」


 おやつが浮かび、つい誕プレの事を考えてしまった。

 大切なことではあるが、探索を行くときは切り替えなければ。


「大丈夫だよ。それより出発しよう」


「うん……。大丈夫なら良いけどさ」


「優希様?」


 二人とも、勘が鋭くて困る。

 とりあえず今は一旦置いておき、探索に集中しよう。







<三人称視点>


 そうして優希たちは、今日もダンジョンを軽く突破した。

 もはやCランクでも全く問題なく、である。


「よし、ボス討伐完了!」


「ナイス優希!」


「おう! 夜香もな!」


 ユヅネは、優希と夜香がハイタッチを交わすのをぼーっと眺めている。

 その様子は嬉しそうながらも、どこかはかなげだ。


「……」


 それもそのはず、最近自分の出番が減ってきていることをユヅネは感じていた。

 

 その最大の理由としては、


「やった! またレベルアップだ!」


「まじで? やっぱ優希は早いなあ、その【下剋上】とやら、私にもくれない?」


「くれないってなんだよ」


 優希の成長が早すぎるのだ。


 隠しているわけではないが、機会がなく、優希は夜香にまだユヅネの正体を詳細に話してはいない。


 そのため、優希はユヅネの具現化武器ではなく、今もなおショップの武器を使い続けている。


 ユヅネの力は「もしもの時のためにとってある」と優希は言うが、今のところその“もしもの時”が現れる気配が全くない。


 ステータスと伸びと共に、探索者としての成長も急激に遂げていく優希には、Cランクダンジョンはぬるすぎる。


 とはいえ、ポイントがまだBランクに到達しないので、こうしてCランクダンジョンに潜り続ける日々というわけだ。

 

「ステータス!」


 優希が勢いよく言葉を発すると、彼の前にステータスが浮かび上がる。


-----------------------

ステータス

名前:明星優希


レベル:41


職業:ファイター(class:1)

特性:レベルアップ時、攻撃力に小ボーナス 


攻撃力:736

防御力:624

素早さ:626

魔力 :625


スキル

・パッシブ :【遅咲き】

・アクティブ:【身体強化ブースト】【武装強化】


ギフト:【下剋上】

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(増え方がおかしい……)


 優希が転職を果たしたのは、レベルが34の時。

 その時のステータスは、全体的におよそ265。


 【下剋上】の効果もあり、それからたった7レベル上がっただけで、数値が跳ね上がっていた。

 自分で自分の伸びに若干引いてしまう程に。


 【下剋上】の効果で、レベルアップ時のステータス上昇は通常の二倍。

 さらにファイターの特性で、攻撃力に+10のボーナスが付く。


 レベルが上がるほど、レベルアップ時のステータス上昇は大きくなっていく。

 それをさらに倍にする【下剋上】は、レベルが高くなるほど真価を発揮するのだ。


「嘘!? 攻撃力と魔力、もう追い抜かれたの!?」


 そうして夜香も、目を疑うようにステータスを開く。


-----------------------

ステータス

名前:三日月夜香


レベル:43


職業:シーフ

特性:レベルアップ時、素早さに小ボーナス


攻撃力:647

防御力:638

素早さ:847

魔力 :624


スキル

・パッシブ:【急所攻撃クリティカルヒット

・アクティブ:【疾走アクセル】【隠密ハイド

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「でも、夜香は素早さ高いよなあ」


「あんたね。私は一応『高ステータス覚醒者』の上に、シーフっていう職持ちなのよ。それも加味してもう一度考えてみなさい」


 『高ステータス覚醒者』とは、高いステータスを持って覚醒した者である。

 さらに、レベルアップによるステータス上昇も、通常の覚醒者より高いと言われている、まさに恵まれた才能を持った者だ。


 優希が人類最弱で覚醒したという事実も、この“覚醒時の格差”から来ている。


 高ステータス覚醒者ではなくとも、普通の覚醒ならば一項目は20以上のステータスを持っており、オール1だった優希が逆に特殊なのだ。


 ちなみに夜香の覚醒時のステータスは、


-----------------------

ステータス

名前:三日月夜香


レベル:1


職業:なし


攻撃力:40

防御力:34

素早さ:56

魔力 :22

-----------------------


 この通りである。


 優希とはそもそものスタートが違う。


 それにもかかわらず優希は、「高いステータス覚醒者」であり「職持ち」の夜香の二項目を追い抜いたのだ。


 今回は夜香にとっては悲しくも、【下剋上】の異常さが伝わるレベルアップとなった。


「はあ……」


 そうした優希のステータスを覗き、ため息をつく者がもう一人。

 ユヅネだ。


「ん? どうしたユヅネ」


「い、いいえ! なんでもありません」


「そう?」 


 しまった、と思ったユヅネは咄嗟とっさに笑顔を取りつくろった。


 優希が強くなるのは、ユヅネにとっても単純に嬉しい。

 だが、優希が強くなればなるほど、自分の力の出番が減ってしまうのもまた事実。


 出番が減ってしまうのは最悪仕方ないとしても、その先に「頼られなくなるのではないか」という心配がユヅネの頭をよぎる。


 もっと簡単に言えば、ユヅネは手を繋ぎたかった。

 それも頼られる形で。


 手を繋ぎたい、そのためには優希がピンチにならなければならない。


「~~~!」


 普通に言えば優希は手ぐらい繋いでくれるだろうが、変な所で奥手になってしまう自分に、腹立たしいような苦い思いをするユヅネ。


(優希様が強くなるのは良い事、嬉しい事ではありませんか!)


 抱いている感情を誤魔化すように、必死に自分に言い聞かせるユヅネ。


 優希が強くなるのは間違いなく嬉しい。

 嬉しいことなのだが、


(優希様はもう……わたしの力なんてなくとも、どんどんと強くなっていくのでしょうね)


 優希の成長ゆえに自分自身の価値を考えてしまい、どこか寂し気な表情を浮かべるユヅネであった。

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