第20話 Cランク探索者と忍び寄る影

 ここは、とあるランクダンジョン。


「明星君、頼むっ!」


「はい!」


 今回のリーダーに指示され、俺が前の魔物と正面から対峙たいじする。

 足元は水辺、空からもにわか雨が降っており、足場が悪い。

 

「──!?」


 踏み込む際に足を滑らせ、剣を持ったガイコツの魔物【スケルトン】の前で、後ろにのけ反るような不格好な姿をさらしてしまう。


「ホネェェ!」


 スケルトンがここぞとばかりに剣を振り下ろそうとするが……甘かったな!


「はッ!」


 後方にのけ反る勢いを利用して、そのまま宙で一回転。

 空中で、スケルトンに体を向き直すように態勢を整えた俺は、二段ジャンプの要領で空中を


「ホネッ!?」


 その勢いを殺さず、剣を横に立てて交差する。

 体の中心から斬られたスケルトンは、見事にバラバラだ。


「ふう……」


 本来なら『バラバラになってもそれぞれの骨が形作って復活する』という特性を持つスケルトン。

 だが、弱点である“核”部分を正確に斬ったのでその心配はない。


 今のアクション映画のようなありえない動きも、【身体強化ブースト】による賜物たまものだ。

 普通にやれと言われても、まあ無理だろうな。

  

「素晴らしい!」

「滑った時は焦ったけど、すんごい身体能力だね。あんた!」


 それぞれ違うギルドリーダーの二人から褒められる。

 メガネのインテリっぽい男性と、ムキムキの体を持った女性だ。


 同じパーティーではあるが、今回は二つのギルドが合同で探索をしており、俺はそこにお邪魔させてもらっている。


「いやあ、それほどでも」


「そうでしょう! 優希様はすごいのです!」


「って、なんでお前が威張るんだよ」


 腰に手を当てて、胸を強調するように威張るユヅネ。


「「あっはっはっは!」」


 ユヅネと【転職の欠片】を集める中で手に入れた魔石を協会に納品すると、ちょうど探索者ポイントがCランクまで届き、俺は昇格を果たした。


 それならばと思い、早速本昇格を果たすべく、俺はCランクダンジョンに同行させてもらっている。


 本昇格への条件は、例のごとくダンジョンに同行して“パーティーリーダーに認めてもらうこと”。

 今の実力ならば、合格はもらえると思う。

 

「やっぱり『職持ち』っていいなあ。明星君、かなり強いし」


「いえ、そんなことは」


 職持ちとは、「職業:なし」から転職を果たしている者のことだ。


 全体の10%程である職持ち探索者は、持っていない者からすればやはり羨望の対象になるらしい。


 今回のパーティー十人の中で、職持ちは俺だけ。

 Cランク探索者でも、やはり中々いないものなんだな。


「うちも、あと三つ集まれば誰かが転職出来るんだけどね。Dランクで職持ちは聞いたことがないよ。あんた運が良いね! ギルドうちに来ないかい?」


「おぁ! ずるいぞリーサ! 明星君は、探索が終わってからこっちに誘おうとしていたんだぞ!」


「なんだい、そりゃ早い者勝ちってもんだろう!」


「あ、あはは……」


 ここでも取り合いが始まってしまい、とりあえず笑うしかない。

 どちらも違った形の、すごく魅力的なギルドなのだが……。


「……」


 ちらっと、リーダー二人の“後続”の人たちを視界に入れる。

 同じような服装に、役割ごとに分けられた同じような装備。


 柄じゃないよなあ。


 俺はもっと自分のやりたいように探索をして、やりたいように生活をしたいのだ。


 悪いけど、今回もお断りさせていただこうかな。







「では明星君、またご一緒した時にはよろしく。合格おめでとう! ギルドの話も考えておいてくれよ!」


「明星ー! うちに来たらビシバシ鍛えてやるから、ドMならうちに来るんだな! おめでとう!」


「はい! ありがとうございました!」


 それなりの人数での探索に、ファイターとして転職を果たした俺の突破力。

 Cランクといえども、ボスも難なく突破して俺は『Cランク探索者』となった。


「余裕でしたね」


「まあ……そうだな」


 実は、今日はファイターへ転職してから初めての探索だった。


 スキルについても、あの転職の神殿でちょこっと試した程度。

 そんな状態で行くのは自分でもどうかと思うが、俺はせっかちなのだ。


 昇格出来るなら、さっさと昇格してしまいたい。


 今回の探索でも、スキルの理解度は深まったので良しとしよう。


 収穫としては、スキルの乱発はやはり疲れる。

 力の前借りとまではいかないが、【身体強化ブースト】が切れた時はやはり疲労が溜まる。


 こっそり回数の限界に挑戦していたのだが、今の俺には多分、時間を置いても三回が限度かな。

 

 それと、有益な情報も頂いた。

 

 スキルは、“魔力依存”で効果や強さが変わるそう。

 もはや魔力って何だよって感じだが、「人間に備わる不思議な力」と考えれば納得も出来る。


 つまり、ただでさえすごい【身体強化ブースト】状態も、より速く、より大きな効果を発揮できるかもしれないのだ。

 

「ユーキ、わくわくっ!」


 とまあ、そんな感じ。


 ファイターの(class)の方はたった一日じゃ上がるはずもなく、これから探索を続けていく上でいつか上がったら良いなあ、と思っているぐらい。


「帰りましょう、優希様」


「おう。今日もお疲れ様、ユヅネ」


「はいっ! 優希様も!」


 俺はCランクでもやっていける。


 そんな確信が持てた、最高のスタートだった。







 優希がCランクに昇格を果たしてから約二週間。


 Cランクをメインとしても、相変わらず快進撃を続ける優希。

 しかし、そこを縄張りとしていた者の中には当然、それを良く思わない者もいる。


「最近、Cランクダンジョンで荒らし回っているやからがいるらしい」


「それが、どうしたんですか」


 陽の当たらぬような暗い場所で、怪しい話している男と女。

 彼らは“暗部”と言われる、現代のヤクザのような組織の一つだ。


夜香よるか、お前は頭の良い奴だ。言わなくても分かってるんじゃないか?」


「……」


 夜香と呼ばれている女は、話し相手の男を激しくにらむ。


「おっと、そんな態度を取って良いのか。お前のとこの父親、うちからいくら借りてるんだっけなぁ」


(チッ、この外道が)


 男の言葉に対しては、女も歯向かうことが出来ない。

 彼女にもそれなりの理由があるのだ。


「……で、その“明星優希”という人物をってくれば良いのかしら」


「それで良い。せいぜいその恵まれたステータスで、今回もうまくやれ」


「……」


 女はそれを最後に、無言でその場を出ていく。

 明星優希の情報が書かれたメモを持って。


「ごめんなさい。でも私にはこうするしか……」 


 暗部には似合わぬその切ない顔に、悲しみの潤いを持った綺麗な瞳。


 その女は、何を思い浮かべるか――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る