第17話 転職の試練

 「……ん?」


 地に足が着いていることが分かり、自然と閉じていた目を段々と開ける。


「おお……」


 すると目の前には、今までとは全く異なった、まさに“神聖”という雰囲気がただようダンジョン。


「で、でけえ……」


 その神聖さを強調するように、周囲は神殿の様な造りになっており、全て大理石で出来ているのか、全体的に白色が目立つ。


 俺が進むべき道を示すよう、左右には地上と天井を繋ぐ大きく太い柱が複数本備わっている。


「あれは」

 

 そうして導かれるように歩いていった先には、手をかざしてと言わんばかりの台座と、それを後方から見守るように置かれた五体の巨大な石像。


 石像はそれぞれ違った格好や装備をしておりまるでその職業のお手本のような様相で創られている。


 石造の下の方に職業名が刻まれているが、見た目で判断ができる。


 左からファイター、ナイト、シーフ、メイジ、サポーター。

 

 覚えるスキルなどは様々だが、ステータスボーナスがつくのは、左から順に、攻撃力、防御力、素早さ、魔力だ。

 サポーターは全体的に少しずつボーナスがもらえ、支援系スキルを多く覚える。


「で、なになに?」


 俺は、紋章が浮かび上がる台座の上に刻まれた文字を読んだ。


『職業名を口ずさみながら手をかざせ。そうすれば試練が開かれるだろう。試練を突破すれば職業を与えよう』


 なるほど。

 希望の職業をここで答えて、試練をクリアせよってことね。


「うーん……」


 一応、俺の中では

 昨日の時点で即決ではあったが、改めて考えてみてもやはり俺はそれが良い。


「決ーめた!」


 台座に手をかざすと、浮かび上がる紋章が一筋の光を放つ。


 とにかく攻撃力重視!

 魔物の攻撃なんてかわせばいい!


 そんな性格をした俺はもちろん、


「ファイターを選ぶ!」


 その瞬間、周囲が光であふれかえり、やがてそれは部屋全体を包んでいく――。 





「……ん」


 何回転移すんねーん! と言いたくなるが、これが方式だと言われればそれまで。


 前を向いて歩こう。


「ほう。それで、お前が相手ってわけね」


 広いボス部屋のような空間の中、遠くの玉座に居座るのは俺が選んだ職業“ファイター”、の石像。


 あの神聖な部屋で構えをとっていた石像だ。


 ファイター石像は、両手で握った長い直剣を中段に構えている。

 まさに、オーソドックスな剣士の構えだな。


 石像は十メートルくらいだろうか。

 石像の大きさに合わせて、構える剣もとんでもなく大きく、威圧感がある。


「こいつを倒せばいいんだな」


 だが試験が分かりやすくて助かる。

 生憎、頭は良くないのでね。


 じゃあ遠慮なく、


「いくぜ!」


「……」


「ん?」


 俺の迷いのない前進に、石像は無言のまま剣を上段に構えた。


 まさか、さすがに……?


「――!」


「――ぐッ!」


 かなり距離がある段階でいきなり剣を振り下ろしたかと思えば、その先から斬撃が飛んできた。

 半透明の衝撃波のようなものだ。


「あっぶねえ……」


 一応警戒はしていたので当たりはしなかったが、


「厄介だな」


「……」


 当然だが、石像が話すことはない。


 それでもなんとなく対抗心が燃える。

 初めて、剣を使ってくる相手だからだ。


「面白れぇ!」


 俺の再びの前進に、石像はまた上段に構えを取る。

 だがそれはもう見切った!


「ほっ! よっ! そらっ!」


 その長い剣から放たれる、飛んでくる斬撃を何度も繰り返してくるが、俺は全てかわす。

 

 もう石像との距離はすぐそこ!

 まずはその剣を持つ腕からもらう!


「うおおりゃあ!」


 腕を狙ってジャンプするべく、足を強く踏み込むが、同時に嫌な直感が走る。


「!」


 直観に従い、強く踏み込んだ足で前ではなくに跳ぶ。


 俺の予感は的中した。


「――!」


 石像は、俺のいた場所を斬り刻むようにラッシュを繰り出した。


「セーフ……」


 後方に跳んでいたために大丈夫だったが、一撃目を食らえばおそらく二撃目、三撃目も食らっていたであろう。


 そうなればおそらく……。


 想像もしたくないその予想に、思わずごくりと唾を飲んだ。

 俺が息を整える暇もなく、石像は祈るようにして剣を前に構える。


「今度はなんだよ」


 石像はドクン! と、体全体が激しい鼓動をするかのような挙動を見せた。


 そうしてまた上段に剣を構える。


「それはもう見切って、――!?」


 先程より明らかに早い剣の振り!


「ぐぅっ!」


 油断していたが、間一髪。

 距離があったことでギリギリ回避が間に合う。


 なるほど、今の「ドクン」ってのは自己強化か!

 剣を振る早さが明らかに上がっていたからな。


「思ったより楽しめそうだな!」


 先程よりも一歩早く回避に入る事を念頭に置き、再び前進。


 飛んでくる斬撃をほぼ機械的に躱しながら、攻略法を探る。


「けど、まあ」


 すでに頭の中に一つ、攻略法それはあった。

 あくまで勘だが、俺の予想だとおそらく……


「……」


 ある時点に入ったところで、石像は上段から中段に構える。


 ラッシュの構えだ。


 じゃあこれなら? と、おちょくるように一歩下がる。

 

「……」


 やはり。

 石像はある地点を境にして、“斬撃を飛ばす”攻撃と“ラッシュ”を使い分けている。


 プログラミング? かは分からないが、所詮、人ではなかったな。

 確信が持てればあとは簡単。


「……」


 放ってくる斬撃を躱し、一気に距離を詰める。

 中段に構えた三連撃は、すでに見切った。


「右、左、真ん中!」


 先程よりも鋭くなっている気もするが、石像の自身の大きさゆえに、剣筋は目で追いやすかった。

 全てを楽々かわしつつ懐に入る。


 こうなればもう負けることはない。


「はああああっ!」


 力を込めた剣で、足元、膝、腹部……と、石造を斬りながら一気に上へ駆け上がっていく。


 見た目とは反して、そこまで硬くはなかった。


「これで、終わりっ!」


 そうして頭部まで登り詰めた時には、すでに石像は崩壊寸前。

 とどめをさすように、頭の頂点から思いっきり剣をぶっ差した。


「……!」


「おっ、とっ、うわっと!」


 グラグラと揺れながら徐々に崩壊していく石像でバランスを取り、途中で脱出。


 初めて剣士と戦ったが、中々に楽しかったな。


「あ、道が」


 石像が完全にバラバラとなり、部屋の奥に続く光差す道が開かれる。


「行きますか」





 もう危険はないだろう、と素直にその道をしばらく進んで行くと、ここに転移してくる前にあったのと同じような台座があった。


「意外と長かったな。で、ここに手をかざせと」


 瞬間、台座から光が溢れて文字が浮かび上がる。


なんじに職業を与えた』


「ありがとうございます!」


 意味はないだろうが、なんとなく大声で礼をしてしまった。

 それでもやはり実感は湧かないので、やることは一つ。


「ステータス!」


 俺は意気揚々とステータスを開く。


-----------------------

ステータス

名前:明星優希


レベル:34


職業:ファイター(class:1)

特性:レベルアップ時、攻撃力に小ボーナス 


攻撃力:274

防御力:266

素早さ:268

魔力 :264


スキル

・パッシブ :【遅咲き】

・アクティブ:【身体強化ブースト】【武装強化】


ギフト:【下剋上】

-----------------------


「うおおー!」


 職業がファイターに! 

 あとなんか色々増えてるー!


 まじで嬉しい!


 感動の涙で目の前があふれてしまいそうだが、まずは落ち着こう。


「……ふう。よし」


 俺は、気になった項目から順に確認していく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る