第16話 素晴らしい転職日和!
ベランダで腰に手を当て、朝の気持ち良い日差しを全身に浴びる。
はっはっは。
はーっはっはっは!
「朝から何をしているのですか?」
「……は」
後ろを振り返ると、ユヅネが
朝から、ベランダで偉そうに上を見上げていれば当たり前か。
せめて、実際には声に出していなかったことを褒めて欲しい。
「ふっ」
まあいい。
ではなぜ、朝からこんなに気分が良いか、答えは一つ。
今日、転職ダンジョンへ行くからである!
雲一つないこの空も、俺を迎えてくれているね。
いやー、素晴らしい転職日和だ!
ダンジョン内に湧いた温泉に浸かり、【転職の欠片】を初めてゲットしたあの日から、早四日。
そこそこの数のダンジョンをユヅネと二人で潜り、
【転職の欠片】が超激レアアイテムである理由。
それは、ドロップする魔物が「様々なものに擬態する小さな魔物」だったから。
名前は【ミニマムスライム】。
交戦能力はほとんどなく、あの一匹目はユヅネが不注意で開いた宝箱に擬態していたのだ。
ユヅネの
実際、【転職の欠片】が見つかるのはほとんどの場合が「その辺に転がっていたから」らしい。
石なんかに擬態したミニマムスライムを知らぬうちに倒し、見つけたのだろう。
貴重な転職アイテムで一儲けするのも良いかなとは考えつつ、アイテムが集まったのならとりあえず転職したいということで、転職を優先する。
そして、ユヅネには今一度伝えておく。
「昨日も言ったと思うけど、今日はどこかに行っててくれるか?」
「むうう……。どうしてもダメなのですか?」
「ダメってわけではないけど、ずっと協会内にいても暇だぞ?」
「……わかりました」
「よし、良い子だ」
『一次職転職ダンジョン』。
その名の通り、“一次職”と呼ばれる初級の職業に転職するためのダンジョンだ。
まあとにかく、今日は今からその“転職ダンジョン”の管理を行っている協会に向かう。
「それで、職業は決められたのですか?」
「うーん、多分」
ユヅネに応えつつ、確認のために一度ステータスを開く。
-----------------------
ステータス
名前:明星優希
レベル:34
職業:なし
攻撃力:220
防御力:212
素早さ:214
魔力 :216
スキル:【遅咲き】
ギフト:【下剋上】
-----------------------
うん、条件は満たしているな。
一次職に必要なレベルは30。
一瞬で必要レベルを超えた俺にとってはどんなものか判別しにくいが、実はこのレベルはそれなりに高い。
協会の公式発表によると、探索者の内レベル30以上の者は約50%だという。
最大で約四年の覚醒のハンデがある俺が、ほんの一か月ほどで上位半分のレベルとなった。
それほど、高ランクと低ランクの魔物には経験値の差があるのだろう。
獲得経験値が倍増というチートを持ってる俺が、2レベルしか上がってないのが何よりの証拠だ。
このレベル帯だとF・Eランクの経験値は微々たるものなのかもしれない。
当の俺がのんびり探索者なのもあるけどね。
「おっと」
話を戻そう。
そんなレベル分布でも、驚くことに一次職以上に転職を果たしているのは全体の10%程だそうだ。
どうしてそんなに低いのか。
それほどに【転職の欠片】の入手は困難らしい。
聞いた時は驚いたが、レベル50程であっても、今の俺と同じく『職業:なし』というのはざら、だそうだ。
では転職のメリットには何があるのか。
大きく二つ。
一つ目、職業に合ったスキルを習得出来る。
二つ目、レベルアップ時のステータス上昇にボーナスが乗る。
スキルは言わずもがな。
かっこいいし強い(確信)。
そしてボーナス。
同じレベルアップでも、ステータス上昇には実は個人差がある。
しかし転職を果たせば、それに関係なく誰もがレベルアップ時に追加でステータスが上がるのだ。
まさに百利あって一害なし!
六つ揃えたのならば、転職しない手はないのだ!
「行ってらっしゃいませー……」
「そう落ち込むなって。すぐに帰ってくるから」
明らかに声のトーンが低いユヅネを置いて、協会へ向かう。
ユヅネを連れて行かないのは、転職ダンジョンは個人試練のような方式となっており、自分一人で突破しなければいけないからだ。
先程も言った通り、連れて行ってもいいがずっと暇そうにさせておくのも嫌だしな。
今日はおとなしく一人で行動してもらおう。
★
それなりの距離を歩いて、最寄りの協会に着く。
お、今日の受付は京子さんだ。
「あ、おはようございます、明星様。今日はどうされました?」
受付嬢なのでここでは様付けらしい。
真面目で素敵だね。
「おはようございます、京子さん。転職ダンジョンを受けに」
「かしこまりました。転職ダンジョンですね……って、えええ!?」
案の定驚かれた。
この人も大概ノリツッコミ好きだよな。
「し、失礼ですが、転職ダンジョンに入る際の条件はご存知でしょうか」
「はい、これですよね」
京子さんの前に六つの【転職の欠片】を並べる。
「は、はい……。たしかにお揃いですね。ではレベルの方は……?」
「大丈夫です」
「そ、そうですか……。それではご案内いたします……」
「はいっ!」
京子さんは「私がおかしいのかな」と、頭を抑えている。
彼女は、俺が落ちこぼれの時からずっと良くしてくれていたからな。
最近の俺の調子の良さに驚いているのだろう。
大丈夫です、何もおかしくないですよ。
ユヅネが凄すぎるだけで。
協会を裏側から通り抜けてしばらく、京子さんが話しかけてくる。
「もう少しですよ」
ダンジョンは基本的に、一度クリアされればその際に入口である『リフト』は閉じる。
だが消滅するわけではなく、ダンジョン内が再構築された後に復活するのだ。
そして、それ以降は協会が管理を行う。
そうしてダンジョンが復活しては協会が募集をかける、といったシステムになっているのだ。
「こちらになります」
「おおお……」
そうして案内された先は、半透明色のリフト。
【転職の欠片】と同じ色をしており、ランクに縛られることのない、なんとなく特殊って感じのリフトだ。
今まで幾度も攻略されてきたであろう転職ダンジョンは、当然協会が管理している。
一次職転職ダンジョンは一週間ほどで復活するらしいので、毎週日曜に開かれているとのこと。
今日はたまたま日曜だったのに加え、他には誰もいないのでラッキーだ!
「では、こちらで【転職の欠片】を六つ合わせて、六角形を作ってください」
「えーと……?」
「ふふっ、お強くなられても、そんなところは相変わらずですね。こうするのですよ」
少しひんやりとした綺麗な手に触れられ、俺は六つの転職の欠片を渡す。
一つ一つは三角形の形をした転職の欠片。
それを京子さんは、辺と辺が隣り合う様に斜めに並べていく。
すると、やがて見事に六角形が出来上がった。
情報を見ると、【転職の原石】となっている。
「おお~。頭が良い!」
「慣れているだけです」
眩しい笑顔に
「では、こちらを持ってリフトの前にお近づき下さい。ある程度まで近づくとすぐに転移されますが、お覚悟はよろしいですか?」
「いつでも!」
覚悟を決めてリフトに向かって歩き始める。
一次職ダンジョンは、難易度はDランクほどとの情報だった。
多分問題ないだろうが、いざ一人で行くとなるとそれなりに緊張する。
ユヅネの存在って大きかったんだな。
そんな事を考えながら半透明色のリフトに近づく内に、手に持つ転職の結晶が光りながら震えだす。
「ご健闘をお祈りします」
後ろからそんな声が聞こえた瞬間、俺はリフトに吸い込まれるような感覚に陥り、視界が暗転した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます