第28話 またなにかやっちゃいました?

 「ギルドを作った!?」


 夜香は机をバン! と叩いてこちらに身を乗り出してくる。


「どうして!? あなたなら色んな所に誘われてるでしょう!?」


「ま、まあね……」


 そう言うと夜香は鬼の形相でにらんでくる。

 

「さあ言ってみなさい!」


「えーと北沢? だったっけ」


「北沢? 沢北じゃねーか……どあほう!」


 おおー、セリフまで全てまんま。

 突然のボケにも楽々対応してきますか。


 これは中々のツッコミ役逸材だ。


「あの、真面目にやってくれない?」


 なんだよ、自分もノッてきたくせに。

 まあこれ以上は可哀そうなので、俺もしっかりと答えよう。


 えーと、名前を覚えているので言うと……


「『グルメパーティー』、『妖怪滅の刃』、『ノコギリマン』……とか?」


 グルメパーティーは、行きつけの焼肉屋店主さんも所属するギルドで、飲食店経営者が多い。


 あの二つはなんだっけな、なんとなく記憶に残っている。 


「この辺を拠点にしてる中堅ギルドね、納得だわ。で、まだ隠し持ってるでしょ?」


 正直、図星だ。

 まだかなりあったと思うけど、聞いたことあるので言うと……


「たしか、『新星探索集団ノヴァ・クエスト』だっけ」


「嘘でしょ……。比較的設立が新しいから、大手に比べたら実績こそ乏しいけど、若手に力を入れてる今最も勢いのあるギルドじゃない」


 おお〜、丁寧にちょい解説も入れて下さると。

 ツッコミも解説も出来て、万能ですな。


「んー、そうだ。『未開を求む者アトランティス』からもきてたっけ」


「ア、『未開を求む者アトランティス』!? 東日本でNO.2の超大手ギルドじゃない! 日本全体でも上から五指には入るわよ!」


「く、詳しいんだね……」


 そんなにすごいギルドだったんだ、あれ。


 俺が「あはは」と笑って誤魔化すと、夜香は額に手を当てて椅子に腰を下ろした。


「はあ、呆れた。どこに入っても、あなたほどの実力者ならとっくにスター探索者コースまっしぐらよ」


「それはどうかなあ。なんとなく、どれも魅力的に感じなくってさ」


 これは本当だ。


 夜香に出会う前にも後にも、いくつかのギルドに顔を出したが、やっぱりルールとかが面倒そうだったしなあ。


 『未開を求む者アトランティス』にしてもそう。

 大きそうなところになればなるほど、俺には窮屈きゅうくつに感じてしまったんだよね。


 そんなわけで、唐突な思い付きだけどギルドを作ったってわけ。

 もっと自由なところが良いな、と考えた結果、なら自分で作ればいいじゃんと思い至ったのだ。


「まあ、ある意味本当の大物かもね、あなた。それで、メンバーは?」


「探索者は俺と夜香。ユヅネは…付随者で、あと事務的な仕事を浩さんにやってもらってるよ」


「……はい?」


 彼女は首を傾げた。


「私が入るの、聞いてないんだけど」


「うん、だって今言ったから。……え? もしかして入らない?」


 彼女は「本当に意味が分からない」と言いたげな呆けた顔で、俺とユヅネを順に見た。


 そして、ハッとしたように口を開く。


「ていうか、お父さんもいるの?」


「うん、いるよ。相談したら、ぜひやらせてくれってさ。今は早速仕事に行ってもらっているけどね」


「……はあ」


「ごめん。何も言わずに入れてしまって」


「いやいや、まだ了承していないのだけど。あなたの天然ぶりも時々心配になるわね」


「え、入らないの?」


 てっきり、夜香なら入ってくれるものかと思っていた。


「……入りたい」


「それは良かった」


 夜香は、少し照れたように口を尖らせて言った。

 なんだ、思わせぶりがうまいなあ。


「はあ~、なんだか色々と力が抜けたわ」


 若干ふざけはしたけど、思ったより元気そうで良かったかな。

 うちのギルドのツッコミ役としても必要だし。


「……今、変な役割与えようとしなかった?」


「い、いいえ?」


 目が怖い。

 ボケるのも大概にしなければ。


「よし!」


「! い、いきなりどうしたのよ」


 急に元気な声で椅子から立ち上がった俺に、夜香が驚いて尋ねてくる。


「夜香の了承も正式に得られたことだし、あれやるか!」

「そうですね、優希様!」


「?」


 夜香は首を傾げているが、ユヅネは分かっている様子。

 まったく、夜香は鈍いなあ。


「決まってるじゃん」


 新しいメンバーを正式に迎え入れたとなれば、やることは一つ!

 ユヅネと息を合わせて声に出した。


「「歓迎パーティー!」」

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る