第11話 奴らへの不合格宣告

 「うおらっ!」

「だらあ!」


 チンピラ達が先頭で魔物を倒して進む。


 今回のダンジョンは視界が若干悪く、天井は高くて見えないが、まるで地下迷宮のような構造。

 造りや魔物はオーソドックスで、全体的に特徴がないとも言える。


「はっ、何がDランクだよ」

「さっさと上がっちまおうぜ!」

「やっぱ俺ら強かったんだな!」


 そんな中を、余裕な態度で突き進むチンピラ達。


 態度こそ褒められたものではないが、元々Eランク探索者としてずっと活動を続けていた奴らだ。

 Dランク仮昇格をもらえるほどの成果は上げているだけあって、弱くはない。


 だが、


「……」


 指示を出すリーダーの佐藤さんは浮かない顔だ。


 それもそうだ。

 なにしろ、チンピラ達は佐藤さんの指示を一切守ろうとしない。


 勝手に前に出て、勝手に報酬を取っていくのだ。

 この世界では魔物を倒した者が報酬を得る、暗黙の了解だ。


 一方の俺は、


「はあっ!」


 パーティー中衛の立ち位置で構え、前衛から流れて来た魔物を確実に仕留める。


 手に持つ武器は、「そこそこに強い剣」と願ってユヅネが具現化させた剣。

 “そこそこ”とはいっても、Bランク相当の武器ではあるが。


 弱めの武器なので、たまにそっと手を繋ぐだけでしばらく具現化させていられる。

 虹色に輝く剣のような強さは無いが、その分具現化が長持ちする。


「ふう」


 あまり目立たない様にする理由は、俺経由でユヅネの事がバレるのを防ぐため。

 ユヅネの正体を知れば、悪巧みをしようと考える者は多く現れるだろうからな。


 ……あと、ずっと手を繋いで戦うのは単純に恥ずかしい。


「ちっ」

「んだよ」

「あんま調子に乗るなよ、お荷物君」


 この前までの、隠れておどおどしていた俺しか見てこなかったチンピラ達は、今の俺を見て面白くないみたいだ。


 けど関係ない。

 俺はユヅネと約束したからな。


 もう何を言われてもひるみはしない。





「よし。この辺りで一度小休憩を取ろう。見張りは交代で行う。最初は……」


 それなりに進んだところで、佐藤さんが指示を出して休憩を取る。


 全体の進む速度、メンバー全員を考えた休憩のタイミング、的確な指示。

 リーダーを任される人というのは強さだけじゃない、勉強になるな。


 俺もこの人から色々と学んでおかなければ。


「それとそこの三人、ちょっとこっちへ来い」


「あぁ?」

「俺らか?」

「んだよ、休憩させろよ」


「来い」


「……ちっ」


 チンピラ達は、佐藤さんの何も言わさぬような指示で呼ばれる。


 俺は近くで休憩させてもらっているから会話が聞こえてくる。

 そもそも隠す気がないのかもしれない。


「単刀直入に言う、お前たちは不合格だ」


 前に並んだチンピラ達に対し、早々に宣告する佐藤さん。


「はあ!? てめえふざけんなよ!」

「どこが不合格なんだよ! 言ってみろよごらぁ!」

「ここでお前をぶっ殺して直接証明してやろうか! あぁ!?」


「……ふう」


 佐藤さんはそんなチンピラ達の態度に対し、一つため息をついた後、見せた事のない強い目でそいつらを見た。


「こういうところだ」


「「「──ッ!」」」


 佐藤さんの力強い目に気圧され、チンピラ達はびくつく。


「ああ、わかる、わかるぞ。俺にもお前らみたいな時期はあった。威張り散らかして、自分が強いと思い込んで、周りに迷惑をかけてた。でもな」


「んだよ!」


「ここは人が簡単に死ぬ場所、ダンジョンなんだ。それを忘れるな。周りと合わせようとせず、迷惑をかける人間はいらねえ。Eランク以下で威張っていろ」


「てめえッ──」


 パシっと入れ墨の男の拳を受けと止め、佐藤さんは言葉を続ける。


「それが嫌なら今からでも良い、周りの言う事を聞け。大丈夫だ、お前らは若い。まだまだ未来があるんだよ。更生するなら今だ」


 ただ不満をぶつけただけじゃない。

 チンピラ達の事をしっかり考えた上での説教だ。


 その証拠に、佐藤さんの後半の言葉はただ威圧的ではなく、優しさを持っているかに聞こえた。

 殴りかかって来た入れ墨の男にも、決して返しはしない。


「黙れよカスが」

「行こうぜ」

「ちっ、偉そうにしやがって」


 それでもなお、チンピラ達は言葉を吐き捨てて佐藤さんの元から離れていく。


 そうして、振り返って歩いて来る佐藤さんと目が合った。


「明星君、聞いていただろ?」


「あ、はい。すみません……」


 咄嗟とっさに謝ってしまうが、佐藤さんは俺をとがめる様子はない。

 むしろ、穏やかな優しい顔のままだ。


「いいんだよ。むしろ、わざと聞こえるところで話したからな」


「え?」


 やけに近くで話すかと思えば、思惑通りだったのか。

 佐藤さんは、うなずきながら俺に声を掛けてくれる。


「明星君、君はとても周りが見えている。自分の主張をはっきりさせつつも、確実に役割をこなし、仕事を十二分に果たしている」


「え」


 褒められるとは思っていなかったので、少し情けない声が出てしまう。


「僕も偉そうなことは言えないけどね。君のような人間が将来リーダーとなると思うんだ。だから、ああいう奴らの“叱り方”も学んでほしかったんだ」


「なるほど……」


 そこまで見通して……。

 すごいな、リーダーを任される人というのは。


「では後半も、前半のようにしっかりと役割を果たして欲しい。そうすれば、僕も安心して合格を出せるよ」


「はい!」


「うむ」


 その後も、佐藤さんは他のメンバーのケアを怠らない。

 声を掛け、このダンジョンという暗い環境の中で、パーティーの雰囲気を明るくしようとしている。


「素晴らしい方ですね」


 そんな佐藤さんを見て、普段は俺以外の人に興味を示さないユヅネも口を開く。


「そうだな。俺もあんな人になりたい」


「なれますよ、優希様なら」


「頑張るよ」


 ユヅネも佐藤さんは認めたみたいだな。


「……?」


 ユヅネの方を振り向くと、視線の先でチンピラ達が何やらひそひそ話しているのが映る。


 内容までは聞こえないが、その何かを企む顔が妙に気になる。

 あいつら、何かするつもりなのか?


「……」


 更生を信じているであろう佐藤さんには悪いが、俺がしっかりとチンピラ達あいつらを見ておかなければ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る