第5話 運命を変える綺麗な石

 「あぁ? これで行き止まりか?」

「ダンジョンボスはいねえのか?」


 南堂さんとチンピラ達が魔物を倒し、俺が魔石や素材を拾う。

 何度かそうしている内に、ダンジョン最奥へと辿り着く。


 だが、今回はトラブルが起きた。


 いつもなら、最奥へと進めば大きな扉があり、その先にボス部屋があるはず。

 しかし、今回は奥まで来てみても目の前にあるのは石の壁のみ。


 ほとんど一本道だったので迷うはずもないし、この事態はおかしい。


「じゃあどうやって帰んだ? ボス倒さねえと帰りのリフトは現れねえだろ」

「だよな」


 自分たちでは考えつかないチンピラ達は、南堂さんへ顔を向けた。


「名ばかりのリーダーさんは何か考えとかないんですかー? こういう時に役に立たないで、どこで役に立てるんですかー?」


「……」


 チンピラ達に答える事が出来ない南堂さん。


「ま、こんなじじいに聞いても分かるわけないか!」


「「「ギャハハハ!」」」


 一通り南堂さんをバカにした後、彼らはこちらを向いた。


 次は俺の番というわけだ。


「荷物持ち君は、何か知らないかな?」


「い、いえ、僕にも何も、──うぐっ!」


 答える途中でチンピラに強烈な蹴りを入れられ、尻もちをつく。

 完全に八つ当たりだ。


「貴様ら──」


「やめろユヅネ」


 ユヅネが怒りの顔で前に出ようとするが、俺が必死に止める。


「優希様……」


 まだ会ったばかりだけど、こんな奴らに傷付けられる幼い子は見たくない。


 俺が笑って我慢すれば良いだけの話なんだ。

 それなら慣れてる。


「ガキ、俺らに歯向かおうってんなら小娘だろうが容赦しねえぞ」


「……生意気ですね」


 それでも睨み合う両者の間に、俺はすかさず体を入れる。


「お願いします! 殴るなら僕に!」


「ちっ、弱虫がかっこつけてんじゃねよ。その辺のもん拾っとけ、カスが」


 リュックがパンパンだったこともあり、倒れた際にこぼれてしまったようだ。


「あん? ちょっと待て」


 しかし、入れ墨の男が転がった魔石を向いて目をしかめる。


「おい、そこの変な石拾って持ってこい」


「?」


 入れ墨の男が指示したのは、ユヅネが綺麗だからと拾ってきた不思議な石。


「こ、これは……」


 ユヅネの為に持って帰ってあげたい。

 そんな思いで石を握りしめるが、それが通用するわけもなく、


「あぁ? 言う事が聞けねえのか!」


「――がっ!」


 みぞおちに一発。

 腹を抑えるのに必死だった俺は、石を奪い取られてしまう。


「あ、石……」


「ユヅネ……悪い」


「いえ……」


 ユヅネが悲しそうな顔をした。


 あとで必ず取り返してもらうからな。

 そう心に決めて、ユヅネの頭をそっと撫でる。


 入れ墨の男は乱暴に俺から取った石を手に、仲間と話し合いながらそれを眺める。


「これ、めるんじゃねえか?」

「あー、この不自然なくぼみにか」

「お前天才だな」


 確かに壁を見れば、中央にその石をぴったり嵌める事が出来そうな窪みがある。


 でも、俺だけなのか?

 すごく嫌な予感がするのは。


「待つんだ君達。ここは慎重に」


「うっせんだよ、くそじじい! じゃあこれ以外にどうやって帰んだよ!」


「それは……」


 南堂さんも何も言い返せず引き下がってしまう。


「いくぜ!」


 入れ墨の男が不思議な石を窪みに嵌めると、壁からまばゆい光があふれ出す。


≪運命の石が承認されました≫


「!?」


 なんだ……今のは。

 直接脳内に流れ込んできたような、そんな不思議な声だったぞ。


「お、おい、みんな! 運命の石って、大丈夫なのか!?」


「は? 何言ってんだお前」

「頭大丈夫か?」

「あ、明星くん?」


「え?」


 チンピラ達、そして南堂さんも怪訝けげんな顔でこちらを見る。


 ……周りには聞こえていない?


「優希様、今のは……?」


「ユヅネは聞こえたのか!」


「はい。確かに“運命の石”と。ですが……」


 ユヅネはチンピラ達の方に顔を向ける。


 やはり俺たち以外には聞こえていない、彼女も同じ見解みたいだ。

 一体、どういうことなんだ?


 現状に付いていけない俺の頭を差し置いて、壁はどんどんと明るさを増す。


「うはっ! すげえ! こんなの見たことも聞いたこともねえぞ!」


「ああ! こりゃまじで、とんでもねえ宝が眠ってんじゃねか?」


 やがて石の壁はバラバラと崩れていき、正真正銘のボス部屋への扉が出現する。


 そして、俺の脳内にはまた声が響く。


≪ギフトダンジョンが承認されました≫


「ギフト……ダンジョン?」


 聞いたことがない単語だ。


 俺が呆然としている中、チンピラ達は早速部屋に入っていく。

 やはり、俺とユヅネにしか聞こえていないのか?


「──! 優希様、この先から嫌な気配がします」


「分かるのか?」


「……はい」


 俺の後方にしがみつくユヅネが、訴えかけるような目で見つめてくる。


「おい!」


 前から荒げる声が聞こえ、そちらに視線を移す。


「のろま君が来てくれないと荷物持てないでしょ。早くしてよ」


「は、はい」


「待ってください! 本当に行くのですか!」


 袖を引っ張ってくるユヅネと、前で声を上げているチンピラ達を交互に見る。


 だが、俺には選択肢は一つしかない。


「うん、行かなきゃ。君を地上に帰すためにも」


「……わかりました」


 疑念を断ち切ることは出来ないまま、俺たちも前に続いてボス部屋へと足を踏み入れる。

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