第2話

せっかく人がいない世界に来たからには、何か特別なことをしたい。

まずは友達の部屋を漁ることにした。

近所に住んでいる女友達の家に向かった。

玄関のドアは予想通り鍵がかかっていた。

庭に回るとベランダが空いていた。

私は靴を脱ぎ、家に上がる。

友達の部屋に入り、面白い物を探す。

本棚の本を何冊か出すと、奥に薄い本が入っていた。

取り出して表紙を見ると、R18のマークと男性同士がキスをしている絵が描いてあった。

私は何も見なかったという顔で元に戻しておいた。

三十分ほど探したが、面白い物は見つからなかった。

姿見が置いてあったので覗いて見ると、友達はファッションチェックをしていた。

私には全く気が付かない。

どうやら私が見えないようだ。

私はドラマでよく見る、取調室をマジックミラー越しに見ている刑事の気分になった。

少し寂しさを感じつつ、用の無くなった部屋を後にした。

家を出て自宅に戻る。

そして鏡の世界に入る時に使った鏡の前に立つ。


鏡の世界に入って約一時間。

まだやりたいことは山積みだが、一番重要なことを確めるため家に戻った。

元の世界に帰ることができるのか。

鏡に指を立ててみると、鏡の中に入っていった。

しかし、元の世界には指先が戻っていなかった。

試しに頭を入れて確認する。

そこには漆黒の空間が広がっていた。

見渡すと、四角い白い光が点々とあった。

一度頭を引き抜く。

鏡に写った自分を見て思い出す。

お前は誰だ、そう言ってから鏡の世界に入れるようになった。

同じことをすれば戻れるのではないか。


「お前は誰だ。」


もう一度頭を鏡に入れる。

するとそこには元の世界が広がっていた。

私は安堵した。

また頭を引き抜き、もう一度頭を入れる。

また漆黒の空間が広がっていた。

鏡と壁の境界線をしっかり握りながら身体を小さくし、左足を入れる。

全身が四角い光にぼんやりと照らされる。

四角い光に近づくと、女友達の部屋が写っていた。

どうやらアニメやゲームのように、鏡同士を移動できるようだ。

世界にはいろんな形の鏡があるように、光もいろんな形をしていた。

シックな部屋が写った光が目に入った。

その部屋に既視感を覚え、入った。

鏡を移動する姿はさながらパプリカの様であった。

その部屋はとても広かった。

まるで芸能人の家のように。

芸能人という単語で思い出す。

最近よく見る俳優の家だ。

私の心にかかっていた暗雲は、雨上がりの虹に追いやられていった。

私は黒いシーツのキングサイズのベッドに飛び込んだ。

さすがは売れっ子俳優。

寝心地が良い。

あまりの寝心地の良さに意識を手放していた。

起きると外は紺瑠璃から樺桜のグラデーションに染まっていた。

彼は誰時だ。

ポケットに入っていたスマホを確認する。

誰からも連絡は来ていない。

両親は私がいなくなったことに、気が付いていないようだ。

何故かは分からないが、都合が良い。

私は風呂を借りることにした。

身支度を整え、鏡から出る。

今度は海外に行ってみたいと思った。

早速光を探した。

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