四 不気味な男
闇に浮かぶような白の鱗の蛇を追った先に、知らない男がいた。
濃度の高い液状の闇がその場所の輪郭を濁らせる。
鼻を衝くのはエリカの流す血と真水の匂い。
どこからか鈍く反響する水音。
その男は歪な形に立ち並ぶ岩の台の一つに腰かけていた。
椅子代わりの岩には淡く光る苔が生えていて……いや、その苔は岩の上から下へと湧き水のようにとめどなく溢れ出していた。
その苔の温度のない光によって、その場に集まった三人の存在がかろうじて視認できた。
妙に生物臭い自然の神秘に包まれていながら、所々から一定に刻まれる死の拍動が漂う。
井戸の上とは明確に隔離された世界が広がっていた。
男は白蛇の頭を撫でた。
白蛇は蜷局を巻いて頭をくねらせて、自らの尻尾を噛んだ。
白蛇は穏やかな目で丁寧に鱗を一枚剥いで、男に渡した。
それだけでその白蛇が既存の生物ではなく、何か神聖な架空の存在だとわかった。
現実の蛇は魚のように鱗が一枚一枚重なっていたりせず、折り重なって皮膚のように一続きになっているものだ、と蛇好きのエリカは妙に冷静に考えた。
男は憂いを帯びた声音で呟いた。
「ここは夢の中だ。俺は夢を見てるんだ……」
男はぎこちなく首を回して、アキホシとエリカに目を留めると、歯を剥き出して笑った。
「来たな。ヘンゼルとグレーテルの、少年少女たち」
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