五 悪夢

 ある日を境に毎晩自分が死ぬ夢を見るようになった。


 最初に見た日は床の上で飛び起き、顎からしたたり落ちるほど冷や汗を掻いていた。

 詳細は思い出せないまでも、リアルな凄惨な夢だったことは分かっていて、予知夢ではないかと危惧した。


 怖くなってなんとか自分が死なずに済む方法を探そうとした。


 翌日も自分が死ぬ夢を見た。

 やはり詳細は覚えていないが、昨日とは死因が違う気がした。


 俺はすぐにお守りを買い漁った。

 病気にならないよう怪我をしないよう健康に気を遣い、どこもかしこも慎重に歩いた。


 怖くて堪らなかった。

 俺は笑顔を作る余裕がなかった。

 常に死の恐怖に怯えていた。


 ある時、幼馴染の女に言われた。


「なんか最近、急に暗くなっちゃってまあ。なんか君の人生死んでるみたい」


 俺は、なるほど、と腑に落ちた。


 毎晩見ているあの予知夢は人生が死ぬ夢なのだ、と。

 死に怯え未来を考えられない今現在を暗示していた夢なのだ、と。


 なんだか安堵して、そのまま空地へ向かった。


 幼い頃よく遊んだ岩場は撤去され、綺麗に雑草が刈り取られ、寒々しく感じた。


 ふと夜空を見上げて歩き出して、次に踏み出した足はとうとう地面に接することはなかった。


 虚しく空を踏み抜け、バランスを崩し、井戸の跡に落ちた。

 浮遊感が肌に感じる夜の闇を美しくした。


 俺は井戸の底に衝突し、あっさり死んだ。





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