第6話・ようこそ。神聖ミーディアル王国へ

 加賀たち異世界政策局の職員たちは、定時で仕事を終えると全員が着替えてロビーに集まってきた。


「さて、オードリー。こちらの職員さんを異世界まで連れて行くためは、外の転移門まで歩いて行って、全員で転移門に触れないとならないのですけれど……」

「取材陣、という人たちが大勢いますねぇ。どうしますか?」

「ここのロビーに転移門を開く事にしましょう。皆さんをお連れしてからすぐ閉じるので、問題はないでしょう?」


 そんな会話をしながら、階段を降りて一階ロビーの死角に転移門を作るファリア。

――ヒュゥゥゥゥゥツ

 ロビーにいた職員達は突然の事で驚いている。

 これから何が起こるか、ファリア達をじっと観察していた。


「まず私が手本を見せますので。皆さんはその真似をしてください」


 そう説明すると、ファリアは掌にパスポートを生み出してゲートである銀の扉に翳した。

 すると転移門に虹色の波紋がゆっくりと浮かび上がる。

 そこにファリアが手を触れると、彼女の姿がスッと消えた。


――ザワザワッ

 予め説明を受けていたとは言え、やはり実践を目の当たりにすると少々の驚きと、そして恐怖感も芽生え始めているのだが。


「次は誰からですか?」

「では、一番最初にカティーサークさんと出会えた加賀さんからということで」


 そう山城部長が告げると、なんとなく予想はしていたらしい加賀がゆっくりと手をあげる。


「では、一番、加賀、行きます‼︎」


 堂々と叫ぶと、手の中にゲートパスを生み出す。

 その光景に、ロビーにいた他の部署の職員達は顎が外れそうになるが、そんなことはお構いなしと、加賀はゲートパスをかざしてから波紋に手を触れ、そして消えて行った。

 そのあとは次々と職員達が消え、最後にオードリーがロビー職員に挨拶をして転移門に消えた。

 転移門の中は、白い直線の廊下。

 左右に綺麗な彫像が並び、赤い絨毯が敷いてある。

 その真っ直ぐ奥に、来た時と同じような銀色の扉が見えているので、一行は入る時と同じ方法で転移門をくぐる。

 いよいよ、職員達にとっては初めての異世界である。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


「はあ〜此処か異世界てすかぁ」

「思ったよりも普通ですね」

「もっとこう、自然が多い場所かと思っていました」


 驚いた口調の加賀に続いて、女性局員の篠原みのりと秋冬夜要ときとうや・かなめも続いている。

 口々に感想を話しながら、周囲を見渡していたのだが。

 扉の外は、大きな部屋。

 石造の壁で囲まれた10m四方ほどの部屋で、床には巨大な魔法陣が広がっている。

 銀色の扉はその中心にあり、そんな室内にやってきたので、なにか感動が薄いようである。


「皆さんの思い描いているファンタジーに合わせて転移門を設置しますと、出た先は鬱蒼と茂った森林とかになってしまいまして、安全を確保できないのですよ」


 ファリアが全員に説明すると、どうやら納得してくれたようだ。


「それじゃぁ、まずは検疫を受けてください。こちらの部屋にどうぞ」


 隣の検疫室に通されると、一行は検疫担当官のミヌエットという獣人の浄化魔法で、検疫を受ける。

 全員の全身が輝いた時はかなり驚いていたが、それが魔法による浄化であると説明すると納得したようである。


「では次は手荷物検査です。隣へどうぞ」


 そのまま隣の部屋に移動すると、いくつかに仕切られた部屋に通される。

 そこで個人別に手荷物の検査を受けるのだが、カウンターの上に日本語で大きく


『機械類持ち込み禁止、必ず預けてください』


 と表記されていた。


「あの、ケータイも全てですか?」

「ええ。全てですよ。貴重品は自己管理、機械類と一緒に預けてくれても構いません」

「記念撮影とかは?」

「公式に国交が結ばれていないので駄目です。誤魔化したり隠していたら壊れるので、必ず預けてください」

「壊れますか?」

「壊れます。ボンって言います」

「弁償や保険は?」

「先に持ち込み禁止と説明しているので、そんなことする必要はありません。直せません。今日は軽く散策したりする感じで楽しんでください」


 そう説明すると、職員達は全員が機械類を預ける。

 そして検査が終わると、無事に税関区画から異世界ギルドの一階ロビーに出ることができた。

 そして加賀たちがロビーに出ると、異世界ギルドの職員たちが、加賀立を出迎えてくれたのである。


「ようこそ神聖ミーディアル王国へ」

「これからよろしくお願いしますね」


 皆、片言っぽい部分があるが、全員が日本語を話しているのである。

 これには加賀たちも動揺の色を隠せなかった


「初めまして、わたくしは異世界ギルドのサブマスターを務めていますリチャード・レオニールです。後日、日本大使館が完成した暁には、私もそちらで現地協力者として、職員の皆様とご一緒する事になります。本日はギルドマスターのカティーサークさんがお休みですので、このわたくしが代表として、この異世界ギルドについてご説明します」


 初老の紳士リチャードが頭を下げる。

 親父スキーには強力なインパクトである。

 そしてリチャードの説明が始まった。

 異世界ギルド職員にはエルフやドワーフ、獣人やロリエッタという種族、そして人間の老若男女が揃っているらしく、彼が一人云々を紹介し、どのような種族であるのかなども簡単に説明を行った。 

 そして、受付カウンターのあるロビーでは、カティーサークがはじめて地球を訪れたときに同行していた聖騎士のフォルティアが待機していた。


「フ、フォルティア様だ、本物ですわ」

「一度、直接おあいしたかったのですよ」


 秋冬夜要と和泉翔子という職員の二人も、フォルティアに近づいていく。

 そしてカウンター前では、男性局員の石田隆と神谷龍一の二人がギルド職員を見て感動していた。


「本物の猫耳少女だ……写真取りたいぃぃぃ」

「預けちまっただろうが。それにおれはケモナーではない。女性はおっぱいだ」

「最低」

「この変態!!」

「日本人の恥よ、この地に埋めて帰りたい」

「あの、燃えないゴミを埋められても困るのですが」


 そんなアホなことを叫ぶ男性陣に、加賀たちが冷たい視線を送っていると。


「此処からは皆さんが興味あるところに行きましょう。二つのグループに分かれて簡単に方向性を話し合ってください。フォルティアとオードリーを引率につけますのでよろしくお願いします」


 ファリアがそう話して、オードリー組とフォルティア組に分かれるように促すと、加賀と篠原、和泉はフォルティアに、男性局員と秋冬夜はオードリーのもとに歩み寄った。

 そしてフォルティアとオードリー、リチャードは何か打ち合わせをしていたが、それが終わるとさっそく異世界の第一波を踏み出した。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯

 

――ディナ・コスモス神聖教会

 高司祭の礼服に身を包んだロビン枢機卿に、フォルティアは丁寧に頭を下げる。

 それに合わせて、フォルティアとともに来た加賀美春、篠原みのり、和泉翔子の三名も頭を下げていた。

 フォルティア班の一行がまず来たかった場所は、カティーサークがテレビで見せていた身分証明書である、魂の証明プレートを発行してくれる所。

 そのために、フォルティアはディナ・コスモス神聖教会に来ているのであった。

 神聖ミーディアル王国の国教であるディナ・コスモス。その教義などを一通り学んだ後、一行はようやく魂の証明プレートを発行してもらうことができたのである。


「司祭様、いくつか教えて欲しいのですが」


 魂の護符プレートを眺めていた職員の和泉が、ずっと手を上げながらロビンの元に歩み寄る。


「どうぞ。私の知ることで宜しければ」

「私たちもこの世界で冒険者になれるのでしょうか?」


 実に率直な質門である。


「なることはできると思います。ですが、冒険者の道を進むと、貴方たちの世界に戻った時の反動があります」

「反動ですか?それはなんでしょうか?」


 篠原も前に出てそう問いかける。


「そうですねぇ‥‥」


 困った顔でフォルティアを見るロビン。

 すると、フォルティアも理解したらしく頷く。


「この世界の冒険者には、ランクとクラスというものが存在します。最近の冒険者はまとめて考えているようですがね。クラスはそのものの適正、ランクは強さと理解してください」

「クラスとランク。ゲームの職業とレベンみたいなものですか?」

「貴方たちの世界のゲームというものが、私には分かりませんが」

「クラスと職業は多分同じです。戦士だったり魔法使いだったり」

「それで、ランクとレベルは同じです。敵を倒して経験値を得ると、レベルが上がって新しいスキルや身体能力があがりますから」


 和泉と加賀が続いて説明する。


「それならば、皆さんがこの世界で冒険者となった場合。ランクが上がるとどうなるか理解できますね?」


 言葉が詰まる。

 ロビンの話の真意を理解したのであろう。

 この世界で鍛える事で、簡単なドーピングのような効果を得ることができる。

 それは何もスポーツの世界に始まったことでは無い。

 逆に犯罪者が横行しそうな懸念もあるのである。


「皆さんの世界から私たちの世界に来るということは、皆さんの世界では手に入れることができない力が手に入るということです」


 その言葉にコクリと頷く一行。


「つまり、容易に手に入れてはいけないということですね?」


 和泉がそう話すが、ロビンは頭を左右に振る。


「少しだけ違います。手に入れることは誰も咎めません。この世界に生きる者の権利です。その力を使うときは、自分の心に問いかけてください。それは貴方にとって正しいのかと」


 ふむふむ。

 じっと話を聞いている三人を、フォルティアは穏やかな目で眺めていた。


(この三人は、力の使い方を間違えないだろうな)


「私たちの世界の人々には日常。なのであまり気にすることなく力を行使しています。けれど皆さんの世界では非日常。使うなではなく、使いどころを考えてみてください。では、これで魂の証明護符プレートの登録は完了しました。皆さんに神の加護がありますように」


 丁寧に会釈するロビン。


「「「ありがとうございました」」」


 三人も頭を下げると、フォルティアとともに教会を後にした。

 これで一つ目の目的である国教を学ぶという視察は完了。

 次の目的地は、この世界のルールの一つである、人々の生活とは切っても切り離せない組織……冒険者ギルドである。

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