第7話・冒険者になってみた
冒険者ギルド庁舎。
高さにして4階建て、木造と石造りによって補強された頑丈な作り。
そしていかにもといった感じの無骨な外観は、冒険者ギルドとしての威厳を保っているといっても過言ではない。
その一階の受付に、フォルティアたちはまっすぐに歩いて行く。
「ここが冒険者ギルドですか」
「アニメで見ましたけれど、あまり変わらないのですねぇ」
篠原と加賀がウンウンと頷きながら呟いている。
和泉はというと、壁に貼ってある依頼書を眺めている冒険者の方に興味があったのだろう。じっとそちらだけを見ていた。
「それはイメージが一致して良かった。ではこちらへ」
そう告げてから、フォルティアたちは初期登録カウンターに向う。
すると、彼の姿を見た受付の女性が、近くにあるカウンターにやって来た。
『ようこそ、そして初めまして。この冒険者ギルドの総合受付を管理していますサーシャと申します。フォルティア様、それではさっそく魂の資質の鑑定、そして冒険者ギルドの登録を行いますか? それとも先に、この世界の冒険者の役割というものをご説明しましょうか?』
丁寧にそう告げる受付担当のサーシャ。
その横では、フォルティアが彼女の言葉を翻訳している。
まだ語学研修は始まっていないので、今は全員が必死にメモを取りつつ、単語だけでも理解しようと頑張っているようである。
『そうですね。まあ、時間もあまりありませんので、今日は登録だけでお願いします。後日、登録が完了した地球の方々には、座学で冒険者と世界の繋がりについて、ゆっくりと講義をお願いします』
『かしこまりました。それで本日登録されるのは、こちらの方々ですか』
『ええ。本日登録するのはこちらの三名です。異世界の方ですので…… ストォォォォォップ!!』
そう告げた刹那、フオルティアは併設している酒場から走ってくる冒険者に対して牽制した。
『こちらの方は異世界からの来訪者。異世界ギルドでも働いて貰う方です。まさかチームにスカウトしようとか考えていませんよね?』
『い、いや、そんなことなぁ』
『そうよ。異世界から来たって言うから、てっきり伝説の勇者かと思っただけよ』
『そうだぜ。おいらたちはどんな可愛い子が来たのか興味があっただけだ』
口々に弁明する冒険者だが。
全員、目が泳いでいる。
「全く。せめて
そう話してから、フオルティアは一人ひとりにサーシャの言葉を伝える。
そして指示通りに冒険者ギルドに登録したのだが。
篠原みのり:クラス『
和泉翔子 :クラス『
加賀美春 :クラス『
という結果が出た。
これにはフォルティアも、『ふぁ?』という声にもならない声で驚いている。
それどころか、受付のサーシャですら絶句している。
『フオルティア様、これはどういうことでしょうか?』
「つまりです、三人共聞いて下さい。篠原さんのクラスは
「つまりは……スタンド使い?」
「まあ、それが私にはわかりませんが、なんとなく理解しましたか?」
「はい」
まずは一人。
「次の和泉さんは『
「あ、あらら。私は魔法使いが良かったのですが」
そう呟く和泉。
「いえいえ、いまの適性がという事で、このあとの修業や訓練などで何にでもなれますよ」
その説明でほっとする。
そして最後が加賀。
「加賀さんのクラスである
「へぇ。そんなすごい力があったのですか」
「まあ、数少ないクラスゆえ、そこから賢者の道を進むのはかなり険しいですよ。みなさんはこんな感じのクラスになりました。もし冒険者として生計を立てられるようになりたいとお考えでしたら、その時は訓練施設も紹介しますよ」
にこやかに説明したものの。
どうも三人共もじもじとしている。
「あ、あの……」
「装備って、どんなものがよいのですか?」
「武具屋に行きたいのですけれど」
ははぁ。
ここまで来ると、外見からだけでも冒険者になってみたいらしいと、フォルティアも彼女たちの気持ちが理解できた。
「ま、いいでしょう。初級冒険者装備程度でしたら、私が皆さんにプレゼントしますよ」
――キャァァァァァァァァァァァ
冒険者ギルドに響く黄色い声。
隠してフオルティア一行は、フォルティアお勧めの武具商会である『ジオハイム武具店』へと向うことにした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
一方、ファリアの班はというと。
「これが全て本物‥‥」
ゴクリと生唾を飲んでいるのは、ファリアと共に観光している秋冬夜要と石田隆、神谷龍一の三名。
まず最初にやってきたのは、ジオハイム商会の武具店。
大量に並んでいる本物の武具を目の前に、一行は感動に震えている。
「ファリアさん、これって買ったらどれぐらいでしょうか?」
「もし買えるのでしたら、買って帰りたいですよ」
石田と神谷の二人が、展示されている鎧などを手に取りながら問いかけているが。
「ちょっと待ってくださいね。『マルガレートさん、これ買ったらいくらになりますか?』」
最初は日本語、後半は異世界語で話しているファリア。
店員のマルガレーテも、こうなることはあらかじめ説明を受けていたし、なによりも異世界の人間相手に色々と聞きたかったらしく、店内で待機していた。
傍らには、カティーサークに教えて貰った異世界の言葉、特に商売に使う部分を重点的にまとめた本が置いてある。
それを手に取り、ゆっくりかつしっかりと、日本語で応対を始める。
「そう、ですねぇ。それ、は鉱山都市アドンの鍛冶ギルド製量産品なので、金貨15枚かな? プレートは金貨35枚で大丈夫ですよ」
まだ金額の感覚がつかめないらしく、ふぅんと話しながら武器を見る一同。
秋冬夜はというと、カウンターの奥に掲げられている一振りのロングソードをじっと眺めていた。
「あら、お目が高いですね。こちらはアドンの刀匠ニッチモの鍛えたダマスカスソードです。ミスリルとアイアン、メテオライトなど様々な金属で打ち出した逸品ですよ」
手元の日本語マニュアルを眺めつつ、片言ではあるがしっかりと説明している。
「魔法の武器ですか?」
「ええ。理論上はドラゴンの丈夫な鱗と分厚い皮膚でさえ紙のように切断しますわ」
「お、おいくらですか?」
「こちらは非売品ですが、どうしてもとおっしゃるのでしたら白金貨で200枚でお譲りします」
その金額は、知る人が聞いたら破格な値段である。
「うーん。浪漫ですわねぇ」
「ロマニですか? どちら様ですか?」
「いえ、カルディアの……ではなくて、浪漫溢れる武器ですわ」
秋冬夜が言い直したので、やっと理解したマルガレート。
「これって、私たちが買っても使えるものですか?」
「まず冒険者登録をしてからの方が宜しいですよ。適性が魔法使いなのに剣を持って戦うのは得策ではありませんわ」
その説明にはごもっともである。
そのまま暫くは武器屋で見学をしていたのだが、ふと気がつくと武器屋に加賀達もやってきた。
「おや、加賀さん達も見学ですか?」
秋冬夜が楽しそうな加賀に話しかけると、和泉と加賀、篠原の三人が手の中から冒険者ギルドカードを取り出した。
――ヒュンッ
「な、なんだそれは?」
「汚い、君たち汚すぎるよ」
「あー、わ、私も登録したいですわ」
石田達三人が悔しそうにそう話している横で、フォルティアがマルガレートに一言。
「一人金貨50枚で装備を見てあげてください」
――ジャラッ
カウンターに金貨袋から金貨150枚を取り出して置くフオルティア。
「あらあらあら。では早速。皆さんのギルドカードを拝見しますね」
商売モードになったマルガレートが三人のクラスを確認してから、何名かの店員に指示を出し始めた。
――ポカーン
その光景を見ていた秋冬夜達も、すぐさまファリアの方を振り向くと涙ながらに一言。
「ファリアさん、私達も冒険者になりたいですわ」
「フオルティアさんの方で認められたのでしたら」
「おねがぃじまずぅ〜」
神谷に至っては涙声である。
「ふう。ではまず先に皆さんの魂の護符プレートの登録に向かいましょうか。まずはこの世界の住人になってからですね」
その説明の直後、秋冬夜たちは店から飛び出していく。
それをファリアは苦笑しながら眺めていた。
○ ○ ○ ○ ○
宴もたけなわ、異世界政策局一行は無事に
「このあとは依頼を受けてレベルを上げるのですよね?」
石田がファリアの横で拳を鳴らしているのだが、ファリアは頭を左右に振る。
「いえ、今日はここまでですね。そもそも、本日の目的は視察ですよ、いきなり冒険者者デビューなど考えないようにしてくださいね」
「えええええ。せっかく俺の華麗なデビューを見せてやりたかったのに」
「少しぐらい遅れても大丈夫ですよ。依頼、うけませんか?」
石田神谷組はそうファリアに提案しているが、女性陣はすでに帰宅する気満々である。
「石田くんと神谷くんのランクは?」
秋冬夜が問いかけてみると、ふたりとも自信満々に一言。
「「Eランクだ」」
――プッ
誰と無く吹き出す。
「そのランクですと、受けれる依頼はどんなに難しくても薬草採取や、肉屋からノッキングバードを一頭取ってきてほしいとか、そんな感じですよ。それも二人となると、ほぼ死にます」
「死にますか?」
石田が恐る恐る問い掛けるが。
「死にますね。蘇生は期待しない方がいいですよ? そちらの世界にあるというゲームとは違って、これは現実ですので」
――ゴクッ
息を飲む石田と神谷。
「ということで、私たちは日本に帰りたいのですが、この装備はどうしたらいいですか?」
加賀の問いかけには女性陣一同が頷いている。
「持って帰ると‥‥武器は駄目ですから‥‥では、預かりますか。ギルドの更衣室で着替えることにしましょう。そこで預り証を発行しますので、あとは次に来たときにでもお渡ししますよ」
それがもっともベストな選択。
ならばと、女性陣は異世界ギルドの更衣室で着替える事にした。
「ううーーーん。やっぱりレベルは上げられないかぁ」
「どうやったら上がるんだろう。ファリアさん、経験値の多いモンスターはどれですか?」
素っ頓狂な質門をする二人。
「経験値とはなんですか?」
「え? な、なら、レベル……いや、ランクはどうやって上げるのですか?」
「功績ですね。そもそもランクなんて数値で図れるものではありませんよ。様々な経験をして、どれだけの功績を残すか。それは世界が決めること。ランク上げに効率など、存在しませんよ」
「はぐれメタルとか、メタルスライムとかは?」
「そのはぐれなんとかは知りませんがEランクの冒険者がスライムとあったら、捕食されて消化されますから」
予想外の答え。
現代ではスライム=雑魚認定だが、現実はそんなにあまくない。
「げ、ゲームではスライムは常に雑魚で」
「毒攻撃、捕食、魔法物品と炎以外の耐性、再生能力。Cランク冒険者が一対一でも、装備が足りないと即死させられますよ」
ゾクッ
その説明に寒気を感じる。
「なら、ゴブリンやコボルトは?」
「武器の扱い方を知っている、統率の取れた小さい軍隊みたいなものですよ。シャーマン系なら魔法を飛ばしてきますからやっかいですね。まあ、これもCランクならなんとでもなりますが、Dなら一対一、Eランクならパーティー戦になると思いますが。ちなみに二人のクラスはなんでしたか?」
そう問い掛けると、石田と神谷はギルドカードを取り出して見せる。
秋冬夜要‥‥クラス『
石田隆‥‥‥クラス『
神谷龍一‥‥クラス『
秋冬夜は、先程ファリアが装備を買うときに教えて貰ったクラスとランク。
こう見てみると、こっちの三人はスタンダードなクラス。
石田が低いのはわからないが、まだまだ実践に出すには早すぎる。
「うん、無理ですね。治療師が足りませんし、まずは冒険者関連施設で世界を学ぶことから始めましょう」
そのように説明すると、ファリアは加賀たちと合流して日本へと帰るように促す。
それならばと石田たちも、こんどは冒険者になってやるぞと誓いを立てて、一度日本へと帰還した。
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