ロフト

 引っ越したアパートはワンルームではあるがロフトタイプだった。今まで布団を出して寝ていた生活だったので、ロフトは一つの憧れでもあった。対して広い部屋では無いが、ロフトがある分、天井が高く開放的だ。ロフト下は収納が多くあり、とても助かる。ロフトに上がるには梯子を昇る必要がある。木製なので軋むのが気になるところ。慣れていないから落ちないように気をつけるところか。

 引っ越しして1週間ぐらい立ったときだ。翌日は休みだったため、自宅で晩酌をして気持ちが良くなった。ロフトに行こうと思ったが、酔っているのもあり梯子を昇もがちょっと面倒くさく、そのままフロアでゴロンとしてしまった。

 ふと目が覚めると、仰向けに寝ていた。部屋の電気は点いたまま。おっと、ちゃんと寝なきゃダメだなと思ったその時、ロフトから一瞬何かが出てきて引っ込んだ。何だと思い、梯子を登ってみてみた。もちろん敷いてある布団しかなかった。寝ぼけてたのかな?と思いながら、梯子を下りる。ユニットバスで歯を磨き、寝ることにした。トイレをしていると、梯子が軋む音がした。上の階か両隣の音か。そんなことをぼんやり考えながら、トイレを終わらせドアを開けた。何かがさっと動いた気配がした。あれ、さっきも見たような。もう酔ってるんだな。早く寝た方がいいな。そう思って、梯子を昇りロフトで寝ることにした。部屋の電気を消して、枕元のスタンドライトを一番暗くする。酔っていたこともあり、すっと眠れてしまった。

 平日はただ着替えと眠りに帰るだけの部屋となる。朝は早く出かけ、夜遅く帰ってくる。帰ってきて電気を点けると、時々影のようなものを見る。光の反射などか、よく分からないけど特に気にしていなかった。

 越してきてから2か月ぐらいしたある休みの前日。いつものよう晩酌をし、好きなつまみを食べながら、テレビを見たり、スマホをいじったりしていた。気になっている女友達とビデオ通話をすることになり、スマホでつないだ。話の途中、突然「あれ、誰か遊び来てるの?」と話してきた。「いや、誰も来てないよ」と言うと「またまた。ロフトのところから誰か見てるよ」と言う。振り返ってみると、サッと何かが動いた。やっぱり何かいるのか?彼女とのビデオ通話を一旦終了し、ロフトを覗いてみた。もちろん誰も何もいない。覗いたついで、そのまま布団に入ってまた通話するか。そしてビデオ通話を再開させた。スタンドにスマホを載せ、話していると彼女が「ねえ、絶対誰かいるでしょ。後ろで覗いてるよ」と笑って言った。後ろはロフトから下がのぞけるが、人が立つ位置では無い。「それ、本当に言ってる?」と真面目に聞き直す。その問いに彼女も何かを感じたのか「今も後ろから覗いてるよ」と顔を強ばらせて言った。後で連絡するとそこで通話を終了した。怖くて後ろを向けない。でも何か画のぞているのか、いやこの部屋に何かがいるのか。そう思っていると、部屋の灯りがふっと消えた。部屋の中が真っ暗になる。ドキッとしたと同時に、梯子を軋む音がし出した。それはゆっくり登ってくるようだった。ギイッ…ギイッ…。そろそろ、手が見えるか、顔が見えるかだ。暗闇に何かが動いたのが見えた。暗闇に目が慣れてきた。人の輪郭だ。こっちを見ている。そこからは動かない。そしてもう一つ分かった。梯子では無いところからも、いくつもの“顔”がこっちを覗いていたのだ。怖すぎで、そのまま気を失ってしまった。

 気がついたら、朝になっていた。昨日見たものは何だったのか。朝一で、管理会社に電話をして、事の一部始終を話した。すると「わかりました。今から向かいます」と、部屋に担当者が来ることになった。1時間もしないうちにやってきて、部屋に上がった。色んな書類をを出しながら話し始めた。まず、この部屋に関しては事故物件などではないと言うこと。だたそのような事実があったからには住み続けて欲しいとは言えないこと。別の部屋を紹介するまで、この建物の別部屋、もしくは近隣の別建物の部屋に越す提案をされた。これは良くあることなのでは無いか、と感じた。ただ追求したところで何も始まらない。別の部屋を見つけて貰いながら、近隣の別建物を仮住まいとして提供してもらう事にした。

 部屋をすぐ退去し、仮住まい移り新しい家は割と早く見つかり引っ越しをした。新たなところではそんな現象は無かった(合っても困るが)その後、問題の部屋の建物を通り過ぎて見てみると、またその部屋は別の人に貸し出されていたようだった。それから数日後、その建物から出火、大きな火事となり建物を全焼してしまった。特にけが人などは無かったようだが、出火元はあの住んでいた部屋のようだった。住人が部屋に火を放ったとか…。あの“影”たちが関わっているかは分かりませんが…。

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