ユメノちゃん

 幼い頃の記憶って、断片的にありませんか?これは僕が幼稚園に通っていた頃の記憶。


 幼稚園から帰ってくると、隣に住んでいた同じ歳くらいのユメノちゃんという女の子とよく遊んでいた。同じ園では無かったのであの子は他の幼稚園などに通っていたのかもしれない。記憶の中では、ほぼ毎日のように一緒に遊んでいた記憶がある。

 僕が隣の家に行き、家に上がって遊ぶ。遊ぶといっても、ままごとをしたり本を一緒に読んだりしていた。僕がいつも隣に遊びに行っていた理由は、母親が自宅で内職をしていて、あまり遊んでもらえなかった。だから「遊びに行ってくる」いって、隣のユメノちゃんと遊んでいたのだ。母親もそれは分かっていたのだろう。

 ユメノちゃんの家はうちよりも広く、子供ながらにお金持ちの家なんだなぁと思っていた。あと、記憶の中でユメノちゃんの両親が出てきた記憶が無い。ジュースとかお菓子とか一緒に飲み食いしたのも記憶無い。遊びに行って、2階の部屋に行き、二人で遊ぶ。部屋の中が暗くなってきたら「おうち帰る」と僕が言って帰っていた。玄関で靴を履いて僕が「ユメノちゃん、バイバイ。また遊ぼうね」と言うと、ユメノちゃんは僕の腕を引っ張って家の中に引き戻そうとする。僕は「ダメだよ、暗くなったからおうち帰るの」と言って、引き戻し玄関を出て行く。そして家に帰っていった。

 卒園して小学校に入学すると別の友達ができ、その仲間で遊ぶようになった。小学生になってからユメノちゃんの家に遊びに行った記憶は無かった。

 小学校2年生が終わった春休み、ユメノちゃんの家が取り壊された。僕は「ユメノちゃん、引っ越したのかな?」と思うも、特に深くは考えなかった。


 その後、僕も成長をして実家を出て、人並みに社会人経験を送っている。久しぶりに実家に帰ったときに、親と昔話をした。そして、幼稚園の時、内職していた話を話題にしていた。どうやら生活が大変なこともあり内職をしていたとのことだった。それで僕は遊んでもらえなかったので隣のユメノちゃんと遊んでいた話をした。すると母親が真顔になった。「お前、ユメノちゃんと遊んでたの?」と尋ねてきた。「そうだよ。毎日のように遊び行ってたの覚えてるでしょ」「遊び行くって出かけたのは覚えてるよ。ただ公園に遊びに行ってたのかと思ってた」と答えてきた。そして続けて「お前、何か勘違いしてないかい?隣の家はあんたが幼稚園入る前にいなかったよ。親御さんが事業で失敗して、夜逃げして一家で無理心中しちゃったんだから…」


 僕が遊んでいたユメノちゃんは、もうこの世にいないモノだったのか。そして帰るときに家の中に引っ張る行動は、僕も引き連れていきたかったのか…。

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