駅の彼女

 毎朝、毎晩、駅ですれ違う女の子がいるんです。めっちゃくちゃ可愛くて。最初にあった時、一目惚れで。彼女にすれ違うのが楽しみで学校に行ってる感じ。

 長い髪にすらっとした指先。肌は白くて、目はパッチリ。こんな可愛い子がいるんだって思って。通っている学校も分かっているけど、声かけられなくて。ストーカーって思われたらまずいし。ただ、毎日すれ違うから、何となく顔を覚えてもらえてれば、ワンチャンあるかなと。

 ある朝、彼女と目が合ったので笑顔を返してみた。すると彼女も笑顔で返してくれた。おぉ!やった!一歩進んだ気がする!その日は一日嬉しかった。帰り、また彼女とすれ違った、朝と同じく笑顔をすると、彼女も笑顔で返してくれた。今日一日でこんなに楽しくなれるとは。今までモヤモヤしていたのが少し晴れた気がする。翌日からも、毎朝毎晩、同じ事を繰り返した。笑顔を返し合うのが楽しかった。

 ただ、そんな日々からもう一歩踏み込みたいと思っていた。でも一体何をすれば?連絡先交換は出来ないし、立ち話も難しいし。あの朝の晩の一瞬で出来ること。連絡先を書いた手紙を渡すことにするか。シンプルに連絡先とちょっとした挨拶を書いて、明日渡すことにしよう。

 翌朝、手には連絡先を入れた封筒を持ち、彼女のスムーズに渡せるように準備した。いつも通り、彼女が来た。近づいていき、僕は思いきって「あの、これ!」と彼女のバッグに封筒を差し込み、逃げるようにその場を去った。その後、僕は連絡が来るかとスマホに新しい通知がないか、常にチェックしていた。帰り、いつも通りにすれ違い、笑顔を返して終わってしまった。金曜日の夜だった。土日の休みがなんとももどかしい。土日も彼女から連絡は無かった。

 月曜日、彼女とはすれ違えなかった。そして嫌な予感がした。もしかして電車の時間を変えたとかルートを変えたとか、避けられてしまったのか。でもここで追っかけて探したら余計に怪しまれる。ただ待つことにしよう。その週は、一回も彼女に会えなかった。これは、間違えなく避けられたか。最後にあった時は偶然会ってしまったから、笑顔を返してくれたんだな。これは片想いが散ったのか…。

 それから数週間が経った。スマホに新着メッセージがあった。「初めまして。○○高校の者です。お伝えしたいことがあるので、駅でお会いできませんか?」と○○高校とはあの彼女が通っている学校だ。でもメッセージは彼女ではなさそうだ。何だろうと思い、返事をして待ち合わせることにした。

 待ち合わせ場所にはあの制服を着た女の子が二人立っていた。恐る恐る「あの、メッセージをもらった男ですが」と伝えると、二人の女の子は顔を見合わせてから話しなじめてきた。「急に呼び出してごめんなさい。お話ししたいことがあるんです」と神妙な顔で話し始めてきた。一人の子がカバンから封筒を取り出した。それは僕があの彼女に渡した封筒だった。なんでこの子が持ってるんだ?

 「この手紙、うちの制服着ている女の子に渡しました?」「えぇ、渡しました」そう答えるとまた二人は顔を見合わせてから話し始めた。

 「この手紙、彼女の机の中に入っていたんですよ。だから、あなたに伝えないといけないと思って、連絡しました」言ってることがよく分からない。あの可愛い彼女に渡して、その封筒が彼女に机にあったわけだ。なんで他の子が持っているんだ。

 「彼女には渡したけど、なんで持ってるの?」と尋ねた。すると、「彼女の座っていた机の中に入っていたんです」何度聞いても意味が分からない。ストレートに聞いた「彼女に渡したんだから、彼女の机の中に入っていてもおかしくないよね。なんで君たちがその封筒を勝手に持ち出してるの?」少し怒りも混ざって問いただした。

 「彼女、いないんですよ。でも彼女宛の手紙が入っていたら、伝えてあげないといけないと思ったんです」「いないってどういうこと?」二人はまた顔を見合わせてから更に神妙な顔をして話し出した。

 彼女、私たちと同級生なんですけど、病気がちで進級したけど学校に来れなかったんです。今年の春、病気悪化しちゃって、死んじゃったの。でも私たち一緒に卒業したいから。たまたま机の中見たら、この手紙があって。それで連絡したんです」


 駅ですれ違っていたのは、学校に行きたい彼女の姿だったのか。高校生活をして、恋をしてなど、彼女の色々な思いが姿として現れていたのか。なんだか悪いことをしてしまった。でもまたどこかで、彼女と会えそうな気もした。

 

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