ビジネスホテル

 仕事柄出張が多く、ビジネスホテルによく泊まる。色んなビジネスホテルがそれぞれの色を出していて、結構楽しい。それと同時に当たり外れも結構ある。それを楽しんでいるところもある。

 先日、前日に急に決まった出張で西日本のある県に行った。仕事は無事に終わり、ホテル探しをスマホでする。その日とある学会があり、まったく予約が取れなかった。こうなったら、足で探すしかない。片っ端から飛び込み、キャンセルがないか確認する。しかし、どこも空いていない。高級ホテルですら空いていない状況。この分でいくと、マンガ喫茶に泊まるようになる。それだけは避けたい。中心部から少し離れた場所を探してみると、一件のビジネスホテルを見つけた。正直見た目は昭和っぽいが、背に腹はかえられない。飛び込んで空き状況を確認すると、一つだけ空いているとのことだった。ツインの部屋ではあるが、シングル料金で良いとのこと。助かったぁ。そのままチェックインをした。

 部屋に入ると、何となく「陰」な感じがした。まあ、一晩寝るだけだし、今日は「ハズレ」だったんだなぁと思った。荷物を置いて、近くにコンビニに夕飯を買いに行く。どこかの店で食べるのでもよかったが、宿探しに疲れたのでコンビニ飯で終わりにしようと思った。色々と買い込んでホテルに戻る。部屋が満室という割には、なんか静か。まあ、静かに越したことは無い。部屋のフロアに来ても、本当に静かだった。部屋戻ると、相変わらず「陰」な空気が漂っていた。なんか嫌な感じなので、窓を開け空気の入れ換えをした。電気もテレビも点けた。ユニットバスの扉も開け、換気扇を回した。

 何となく空気が入れ替わったので、窓も閉めコンビニ飯を食べることにした。今回ツイン出ある為、広々と使える。一つのベッドに荷物を広げ、壁側のベッドで眠ることにした。スマホをいじったり、テレビを見たりして、だんだんと眠くなってくる。

シャワー浴びて寝るとするか。

 ユニットバスに入り、シャワーカーテンを引き、お湯を出す。古いビジネスホテルのあるある、シャワーの勢いがない。まあしょうがない。下を向きながら、シャンプーをし、洗い流そうとシャワーヘッドを手探りで探した瞬間、「うぉ!」と声を出してしまった。シャワーヘッドではなく、人の腕を握ったようだった。冷たい細い腕。シャンプーが流れてくるので、細い目で確認するも何もない。再度シャワーヘッドを持ち、洗い流す。慌てて見るも、何もない。嫌な気持ちになりながらも体を洗い、バスタオルで拭きながらユニットバスを出る。どうも何かが変。この空気がなんとも言えない。明日も仕事あるし、今日は夜更かししないで、さっさと寝るか。部屋の明かりを消すのは気が引けたので、目のところにタオルを置いて寝た。すっと寝てしまった。

 ふと目が冷めたのは部屋の明かりのせいだった。ただ、この部屋の雰囲気から、暗くするのは止めた方が良いと、直感的に思えた。そしてまたタオルを目に当て、眠ろうとした.その時、壁の向こうのユニットバスでシャワーが流れる音がした。あれ?急にシャワーが出た。寝ぼけ眼でそれを聞いていると、「キュッ」と音がして止まった。ん?別の部屋でシャワーを使ってるのか。やっぱり古いホテルは壁も薄いのか。そんなことを思いながら眠りにつこうとしていると、ユニットバスの扉が少し音を立てて開く音がした。ドキッとしたが、ここでタオルを取ってしまうと何か見てしまう。気配は部屋の中をあちこちに移動しているようだった。ここで動いたらソレが来てしまう。気配をしたままにしておこう。しかし体は正直でガクガク震え始めてきた。ソレは部屋の中をあちこち移動して、隣のベッドに座ったようだった。置いていた荷物がグズッと動いた音がした。うわぁ…早く消えてくれ…ひたすらそう願う。

 ソレが動いた。自分のベッドの足下に立ったようだ。やばい、気がつかれたのか。「フフフ」と女の笑う声がした。そして耳元で「分かってるわよ…」と囁かれた。そのことで気を失った。

 気がついたときには、部屋には何も気配を感じなかった。スマホの時計を見ると、起きなければいけない時間だった。一体昨日の夜の出来事はなんだったのか。そんなことを考えながら荷物をまとめ、さっさと部屋を後にした。チェックアウトをして、外に出る。少し離れたところから泊まっていたビジネスホテルを見る。なんか、以前に見たことがあるような気もする。

 仕事をさっと済ませ、帰ることにした。電車内で色々と検索をした。すると、あった。あのビジネスホテルだ。そうだ、このニュースを見たんだ。今はホテルの名前は変えているが、数年前、このホテルで風俗の女性が殺されているんだ。初めて指名した女性に手をかけたと。男は部屋でサービスを受けるのを拒む振りをして、そこを心配している女性にいきなり襲いかかった…。

 女性は今もあの部屋から抜け出せず、自分が亡くなったことも分からず彷徨い続けているのかもしれない。

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