囁き

 大学2年の時、俺に恋人が出来た。バイト先のマイは、芸能人にいそうなとても可愛い顔立ちで、バイト仲間も告白をしていたようだったが、全て断ったと聞いていた。俺はマイに好意は寄せてなかった。可愛いバイト仲間ではあるが、好意は寄せてなかった。ある日マイに呼ばれ告白された。即答はしないで一日だけ時間をもらった。別に好きな人がいるわけでは無いが一体俺のどこを好きになったんだ?という疑問。バイト仲間には俺なんかよりはるかにレベルの互い大学へ行ってる奴もいるしイケメンもいる。好きになられて困るわけではないが、付き合って良いのかとも考える。それともう一つ、人を好きになるのが怖い理由があった。高校時代に、片想いだった子が夏休みの部活中に倒れ、この世を去ったのだ。付き合っていたわけではないが、その子の事が心のどこかで引っかかっており、また好意を寄せると何か起きてしまうのではないかという心配もあった。


 俺はベッドで眠ろうと目を瞑るも、色んな事が頭の中を駆け巡り、訳が分からない状況になっていた。目を開けるもそこには暗い部屋があるだけ。電気を点け、高校時代のアルバムを引っ張り出す。片想いをしていた彼女の写真が、一枚だけ入っていた。写真部の奴にお願いをして、彼女の写真を撮るようにお願いしたのだ。今考えれば単なるストーカだな、俺。写真を戻し、もう一度ベッドに潜った。だんだんと眠気が勝ってきて、眠りに落ちた。


 どれくらいの時間が経ったか、ふと目覚めた。薄目を開けるとまだ暗かった。眠りが浅かったのか?そのまま寝ようと思ったとき、何かが聞こえた。耳だけ澄ましてみると、何か声のような物だった。外で誰かが話してるのか?そのまま聞いていると、外ではない、その声は部屋の中でしているようだった。おい、誰がいるんだ、この部屋に。俺は急に怖くなり、心臓が激しく動いた。目は開けられないし、寝返りも打てない。耳だけで気配を確認する。どうやら俺の後ろに誰かが立って囁いているようだ。


 「…じょ…だよ…し…で…」


 何かを言っているが、聞き取れない。本当に囁きなのだ。俺は聞きたくないと言う思いと、聞き取りたいという気持ちが、早い鼓動の中で葛藤していた。その囁きは、間違えなく俺に言ってる。全身に冷や汗をかいているのも分かるが、怖くてどうにも動けない。耳に意識を全集中させていく。すると、やっと聞こえた。


 「大丈夫、心配しないで」


聞き取れたとき、俺の記憶の中である事が一致した。この声、片想いしていた彼女の声だ。何で彼女がという疑問と、何でアドバイスくれてるんだという不思議な思い。俺は怖さと同時に涙が止めどなく出てきた。いつの間にかその声は消えていて、外はうっすらと明るくなっていた。そして、そこから眠りについていた。


 外がしっかりと明るくなっていることで目が覚めた。俺は彼女が立っていたと思われる場所を見た。カーペットに俺のとは明らかに違う足形が残っていた。


 彼女に恋心を見透かされていた恥ずかしさ湧き出て、また涙が出てきた。急いでマイに連絡をして、告白の返事をした。

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