隣の人妻

 この夏にこの部屋へ引っ越して来た。今まで住んでいたところでも良かったのだが、なんかだ環境を変えてみたくなっての引っ越しだった。僕はサービス業をしている為、基本土日は家に居ない。引っ越しも平日に一人で行った。独り身だから特に荷物が多いわけでも無かったので、簡単にできた。そんなこともあってか、隣人に会うことも無かった。越してきた当初、両隣には挨拶に行ったが不在だった。

 ある日のこと、休みの日で買い物へ出かけようと外へ出ると、隣からも丁度人が出てきた。「こんにちは」と挨拶をすると同時に、「引っ越しの挨拶もまともに出来ず申し訳ないです」と謝罪した。その人は笑顔で「いいんですよ。お気にせずに」と笑顔で返してくれた。とても素敵な女性だった。その時はその挨拶だけで終わった。

 買い物から帰ってくると、またその女性と会った。「お買い物行ったのですか?」と聞かれたので、「えぇ、平日が休みなので今行ってきました」と答えた。すると「お一人でお住まいなんですか?」と質問をされ、ハイと答えると「うちは旦那があまり帰ってこなくて」と教えてくれた。あぁ、既婚者なんだと思った。そして続けて「もし良かったら、ご挨拶と合わせて、お茶でもいかが?お邪魔して良い?」と誘われた。初対面で誘われることに驚いたが、特に用事も無いし断る理由も無い。ただ、なんで僕の家に上がるのかは疑問だった。「うち、散らかってますが…」と答えると、「独り住まいの男性の部屋も気になるのよ」と笑顔で言われた。正直、頭の中で下心が生まれてしまった。「10分ぐらいしたら、どうぞ。部屋簡単に片付けますから」と言って、お互い部屋に入っていった。

 僕は買い物した物を片付け、部屋の中に散らかっていた物をクローゼットの中にざっくりしまい込んだ。バタバタしていると、ドアが開き「お邪魔しまぁ~す」と何となく甘い声入ってきた。「あっ、どうぞ。散らかってますけど…」と招き入れた。部屋の中をくるっと見て「へぇ。こんな感じで暮らしてるんですね」とコメントをした。「コーヒーと紅茶、どちらがよいですか?」「じゃあ、コーヒーをお願いするわ」その要望に僕はコーヒー(インスタントしかない)を入れ、彼女の前に置く。

 「そういえば、名前行ってなかったわね。私はサユリ」お互いの自己紹介をし、仕事や私生活の話、普通の雑談をして時間が過ぎていった。サユリさんは時計を見て「さぁ、家に戻らないと。いつまでもあなたの部屋にいたら、怪しまれちゃうわ」と立って玄関に向かっていった。僕が見送ると、ドアを開ける前に振り返り、軽いキスをした。「コーヒーのお礼よ」と言って出ていった。僕は呆然としたまま閉まったドアを見ていた。そんな行為は、独身の男を悶々とさせるには十分だ。その後、サユリさんがうちに来てコーヒーを飲む、軽いキスをして帰るということが数回あった。僕の理性は限界まで達していた。次回は最後まで…と決意をした。

 休みの前日、仕事から帰ってくるとパトカーが止まっていた。あれ、何か事件でもあったのか?そう思い、僕の部屋の階まで上がっていくと、警官と規制線が貼られていた。「恐れ入ります。こちらの階の方ですか?」警官が訪ねてきた。部屋番号を言うと部屋の前まで通してくれた。サユリさんの部屋で何かあったようだ。そう思っていると僕の前に二人の刑事が現れた。「恐れ入ります、お隣の住人のことで少しお話しよろしいでしょうか」僕も気になったので、応じることにした。


 「こちらに越してきたのは、今年の夏ぐらいと確認しておりますが、お隣の男性と会ったことありますか?」男性?ご主人のことか?「いや、奥様とは何度かお話ししましたが」そう答えると、二人の刑事の顔が少し曇った。「奥さんとですか?それはいつぐらいの話ですか?」隠しても良くないと思い、ここ数ヶ月で数回話をしたことを打ち明けた。すると刑事は「今年の夏にここに引っ越しされてきたんですよね?それで数回奥様とお話しを?」なんか話がかみ合っていない感じだ。別に嘘を言っているわけでは無い。もう一度、この場所で会って話したことを言うと、「じつは、お隣で白骨化した遺体が見つかったんですよ。ご主人が借りている部屋でして、別件で調べていくところで、この部屋の状況が分かって今色々とお伺いしてるところなんですよ」

 刑事は詳しく教えてくれなかったが、テレビやネットニュースでこの建物で起きている事件が大々的に報道されていた。奥さんの不倫を疑って、旦那がサユリさんを殺めてそのまま放置していたとのこと。それは数年前のことだととのこと。そう、白骨化して見つかったのはサユリさんなんです。


 僕が話をして、キスまでしたのはサユリさんの霊だったのでしょう。寂しかったでしょうか。それとも人なつっこさが徒となって、旦那に疑われて命を奪われてしまったのかもしれない。

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