資料室

 私が勤めている会社は、昭和から長く続いている会社。都心の大きな駅から徒歩10分ぐらいにある、3階建ての自社ビル。各部屋も昭和の香りが漂っている、3階の奥にあるのが資料室。会社の取引情報などが置いてある部屋です。最近はデジタルにしている物もあるので、その資料室はあまり使うことが無いですが、時々昔の取引状況などを調べるのに入ります。

 ただ、この資料室は社員の誰もが入りたがらない部屋。社員の間では一人で入るのは止めろと噂になっているのです。私も入社したばかりのころ、教育係の先輩に「資料室は用があっても一人で入ってはダメ」と言われたのですが、その理由までは教えてくれなかったのです。

 ある日のこと、どうしても取引情報で昔の事を調べて行かなければいけない状況になりました。デシタルデータでは無く、資料室の情報が必要になったのです。もちろん一人では行きたくなかったのですが、みんな忙しくしていたので、仕方が無く資料室へ向かいました。

 鍵を開け中に入る。外からは見えないように窓ガラスは黒く覆われている。明かりを点けると淀んでいる空気が目に見えるようだった。スチール棚が沢山あり、天井近くまでの高さがあるので、全体的に暗いのです。私は急いで目的の資料を見つけようと、探しました。欲しい資料は、部屋の奥の方の棚にありました。ただ、私の身長では少し届かないので、近くにあった椅子に登り、ファイルを手にしました。その時入り口の方でドアが閉まる音がしました。私はビクッとしましたが、そのまま足音が聞こえてきました。ヒールのような音だったので、誰か心配して見に来てくれたのかと思っていました。そのヒールの音は私の方では無く、別の棚の列に入っていって泊まりました。「あれ?他の人が資料探しに来たのかな?」と思い、私は椅子から降り、靴を履き入り口に向かって列を一つ一つ見ながら歩いて行くと、一つの列の奥に女性の姿か。「お疲れ様です。私資料見つけたので先に出ますね」と声をかけたのです。ただ、なんか違和感を感じたのです。なんとなく、輪郭がボケているような感じがして。しかも声をかけても何の返事もしない。感じが悪いなと思いながらも、入り口に向かった。その時、肩をポンと叩かれた。ドキッとして振り返ると、女が私の後ろに立っていたのです。思わず「キャッ!」と声を上げました。すると女は「なんで…なんで…」と迫ってくるのです。腰が抜けてしまい、床に尻餅をつきました。女がぐぅーっと顔を近づけてきて「ねぇ、なんで…なんでなの…」と顔の前で訪ね続けるのです。

 気がついたときには、私は休憩室で横になっていました。そばに居たのは先輩で、私が居ないことに気がついて探したら資料室で倒れていたとのことでした。私は資料室であったことを全部話しました。それを聞いて先輩が話し始めました。

 「私も聞いた話よ。その昔、既婚者と不倫関係になった女子社員があの部屋で自殺したって話もあれば、営業の女性が手柄を取られて自殺したって話もあるの。その頃働いていた人は社長以外誰もいないから、真実は分からないの。ただ、資料室には一人で行ったらダメな理由は、本当みたいだね…」


 私は何があったのか知りたくて、社長にアポイントを取り、事の一部始終を話しました。すると社長は重い口を開いて話してくれました。「噂話になっていることはほぼその通りだよ。平成の初めぐらいだったかなぁ。景気が良かったときは社内も盛り上がっていて。私もその日一人だった。不倫関係になった女子社員は私の同期だったんだよ。身ごもってしまったようで、資料室の間で自殺したんだ。そんな事件の翌年だった。営業の売り上げのことで色々とあってね。凄く腕のある女性営業だったんだよ。その時の係長が自分の手柄にしちゃってね。社内で怒鳴り合いになったのも見たよ。その時、彼女の味方をしてくれるのは誰も居なかったんだよ。とても悔しかったんだろうねぇ。あの資料室で自殺したんだよ。お祓いとか色々とやったんだけど、やっぱり彼女たちはあの場所に居続けるんだろ…」


 話が事実であったことにも驚いたのと、思い返すと私は二人の霊を一気に見たのかと言う怖さに襲われた。すぐに会社を辞めたのは言うまでありません。

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