仮住まいのマンション
今住んでいるアパートの上階で水漏れをして、俺の部屋まで水が漏ってきた。幸い部屋の方は無事だったが、台所・トイレ・風呂が水浸しになった。修繕に1か月ぐらいかかるとのことで、管理会社が準備してくれた仮住まいのマンションに住むことになった。引っ越し業者が荷物を詰め、そのマンションへ移動し荷ほどきまでやってくれた。今住んでるアパート広く良いところだった。ただ、なんとなく人けを感じないのがちょっと気になったが、まあ仮住まいだから良いとしよう。
越してきた初日、何をしたわけでは無いが、疲れていた。部屋も普段使っている物が置いてあるが、スペースが余っているのもあったり、音の響き方も違うので、気疲れをしていた。シャワーを浴び、布団に潜り込んだ。
夜中、足音で目が覚めた。どうやら上階の住人らしい。もう少し静かに歩いて欲しいなぁ。行ったり来たりして、時々走ったりもしている。おいおい、一体何しているんだよ。俺は布団を頭まで被り再度眠りについた。
翌日、仕事に行き帰りはコンビの弁当を買って帰ってきた。家で作るのは面倒くさい。仮住まいのマンションのエントランス、なんとなく薄暗く、じめっとしている。各部屋のポストが並んでいるが、住んでいない部屋が多く、投函口がガムテープで止めてある。俺の部屋の上階を見ると、そこもガムテープで塞がっていた。あれ?上住んでないのか。昨日の足音は別の部屋から響いているのか。そんな事をぼんやり思いながら、エレベーターで上がり、部屋に帰っていった。鍵を開け部屋に入った途端、なんか“臭い”がする、線香のようなお香のような。部屋でそんな物は焚いていないので、凄く気になった。明かりを点けて部屋の中が明るくなったとき、何かが動いたように見えた。泥棒か?俺は玄関にあるバッドを手に部屋の中へ入っていった。しかし、誰も居ないし、荒らされている形跡も何一つ無かった。気のせいか?
テーブルの上に弁当を置き、クローゼットの前でスーツから部屋着に着替える。洗面台で手を洗い、顔を洗う。タオルで顔を拭いて鏡を覗いたその時、後ろに何かが通った。急いで振り返るも誰もいない。部屋の中を覗くももちろん何も無い。なんか気持ち悪いな。そう思いながら、弁当を食べることにした。スマホで動画を見ながら弁当を食べていった。食べ終わって、台所のゴミ箱に弁当のトレーを捨てる。部屋に戻るとき、風がスッっとかすめた。窓も開いていない、風が入るようなところは無い。部屋に“何か”が居るように思えてきた。ただ確証も何もないし、気のせいかもしれない。さっさとシャワーを浴びて布団に潜って動画でも見ることにしよう。風呂に入ろうと風呂場の電気を点けたその時、中に影が見えた。立っている。形からすると女性だろうか。びくともしない。俺は怖くなって、その場から動けなかった。その影がゆっくりこっちを向き始めた。おい!こっち来るな!俺は腰が抜けて座り込んでしまった。何とかその場から逃げようと、後ずさりをする。影は完全にこっちを向いた。髪の長い、細身の女性であるのは間違えない。こんな状況で背中は向けられない。この部屋から逃げ出したい。影はこちらを向いてからは一切動かなかった。俺は玄関までなんとか後ずさりし、転げ出るように廊下へ出て、エレベーターで1階に下りた。そこにたまたま人が居た。慌てた様子を見て心配してくれた。事情を話すと、一緒に部屋を見てくれると申し出てくれた。部屋の前まで俺が案内すると、その人は怪訝そうな顔をした。その人が先に部屋に部屋に入り俺は後からついていった。風呂場の人影も無く、部屋も特に何も無かった。そして必要最低限の物をまとめてこの部屋を出るように言われた。俺はキャリーケースに服や貴重品を突っ込み、とりあえず出た。行く場所を決めるのに外ではとのことで、その人は自信の部屋まで呼び入れてくれた。 部屋に入り、俺にコーヒーと入れてくれた。そして話をしてくれた。
「あなたが何での部屋を選んだか知らないけど。あの部屋に入居した人が自殺することが数回あるんだよ、過去に。これは噂だけど、薬の飲んで発狂して走り回って自殺したとか、風呂場で首吊ったとか、曰く付きの部屋なんだよ」俺はゾッとした。
その日はホテルを予約して泊まることにした。翌日、仕事を休んで管理会社を問い詰めた。どこからかの手違いで、その部屋を貸す流れになってしまったとのこと。当社の手違いとのことで、早急に別の仮住まいを探してくれて、次の週末には改めて引っ越し手配をしてくれることになった。それまでの間はホテルで生活することとなった。
一つ心配事が出来た。新たな引っ越しまでホテル生活、次の仮住まいであっても、無意識にあの部屋に帰ろうとしていて、何回も部屋の前まで行き、そこでやっと違うことに気づく。奴らに呼ばれてしまっているのか…。
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