片想いの彼女
同窓会の誘いが来た。中学3年のクラス会だ。僕の中ではとても楽しいクラスでまとまりがあって、卒業式も先生も含めてみんなで大泣きした記憶がある。良き想い出の中には、片想いをしていることも含まれている。
その女の子は大人しい感じだったが、とても綺麗だった。勉強も出来る子だったので、出来の悪い僕は勉強を教えて貰う口実に、斜め後ろに座っていた彼女に声をかけて聞いたりしていた(誰から見てもバレバレだったと思うが)。
卒業式にの日に、思い切って告白をしよう心の決めていた。教室で大泣きした後、下級生達が僕たちを見送ってくれるという流れだった。その花道を通り終わるも、みんな帰るのが名残惜しかったので集まって話をしていた。その時を狙って、彼女に告白をするつもりだった。が、彼女はいつの間にか帰宅していた。もちろんクラスメイトにはなんとなくバレていて「ほらぁ、彼女帰っちゃったよ!後で食事会があるし、その時絶対告れ!」と励まされた。みんな帰宅をし、夕方からの食事会に集まった。そこには彼女の姿は無かった。何故参加しなかったのかは、誰も分からなかった。僕はとてもがっかりした。ただ、みんなの励ましもあり、その食事会は楽しく過ごした。彼女は進学校に進み、僕は学力的には下の方の学校に進んだ。そこで新たな出会いがあり、恋をしたり恋を失ったりもした。高校生活は謳歌したが、中学3年の時を超える楽しさは無かった。
そして今回の同窓会の話である。卒業から30年。みんなに会うのも楽しみだし、彼女に会えるのであれば、それが一番の楽しみだ。
そして当日。どうしても仕事が一つ片付かず、僕は少し遅れて参加をした。会場に入ると、最初「誰」という感じだったが、名札(昔の顔写真付き)を見て、「おぉ!」変わった。みんな、おっさん・おばさんになったなぁ。そんな自分もオッサンになっているんだろうが。みんなに乾杯をしていく。名札を見る、昔話に花を咲かす。そんなことをしながら、僕は片想いしていた彼女を探した。その時、司会者が会場にアナウンスをした。「えー、みなさん。懐かしい友達と挨拶は出来ているでしょうか。せっかくですから先生に出欠を取ってもらい、一人ずつ簡単な自己紹介をしていきましょうか。先生の呼ばれたら、前に来て下さい」あぁ、これで彼女が分かる。
一人一人先生が名前を呼んでいく。懐かしい声だ。呼ばれて前で一人一人挨拶していく。中には「今日は仕事の都合で」「子供や親の都合で」などと欠席も居る。僕も挨拶をする。そして彼女の名前が呼ばれた。その時司会者が「連絡が取れない状況で本日は欠席です」と言った(他にももう一人連絡が取れない奴がいたが噂では刑務所に入っているとか…)。僕はとても残念だった。彼女は今どこで何をしているのだろう。そんなことを思っていると、司会者が次の企画を話し始めた。「みなさん、卒業式の前日に自分宛の手紙、仲間への手紙を書いたことを覚えていますでしょうか。その手紙を渡していきたいと思います」。そのアナウンスに、記憶が一気によみがえってきた。将来の自分と将来の相手に手紙を書こうという話。封をして先生に渡し、同窓会の時の読もうと。自分宛へはまあ良いとして、相手は片想いの彼女へだった。正直恥ずかしい内容(ラブレターのようなものだ)を書いていたので、彼女が来なかったことはある意味救いだったのかもしれない。みんな、自分への手紙、そして相手への手紙(中には相手からの手紙が無い奴もいた)を貰う。僕は僕宛の手紙と片想いの彼女へ宛てた手紙と両方もらった。そして相手からの手紙も渡された。差出人は彼女からだった。物凄く驚いた。鼓動も早くなった。まずは自分宛の手紙を読む。この頃から字の汚さは成長が無いな。今と一緒だ。文章も「元気でいますか。結婚はしましたか。子供はいますか」なんてありきたりなもの。今の自分も同じような文章を書きそうで、ここにも成長が無くて自分自身にあきれかえった。問題は、彼女からの手紙だ。
とても綺麗な字で、僕の名前が書いてある。封を開けて手紙を開く。「今、30年後のあなたに手紙を書いてと言われても、斜め前に座っているあたなにすら素直に手紙を書けないに困ってしまいます」こんな文章から始まった。僕はずっと緊張したまま読み続けた。
「今、この手紙で告白します。あなたのことが好きです。でも告白できないまま卒業するのでしょうね。同窓会でこの手紙を読まれるなんて、とても恥ずかしいです。その時は笑って下さいね」お互い片想い同士だったことを初めて知った。
「ただ、私は元々体に病気を抱えている状態で、20才まで生きられるか分からないそうです。病院の先生が親と話しているのをこっそり聞いてしまったことがあります。だから私は知らないふりをして、親を喜ばせてあげるために勉強を頑張っています。先は短いですからね。もし奇跡が起きて、その同窓会に参加出来たときは、あなたの隣でこの話をしたいです。結婚してたら仕方ないですけど、結婚してなかったら私と付き合って下さい」僕はボロボロ涙を流していた。
「もし参加出来なかったときは、私が大好きなオレンジジュースを、会場の後ろに一杯置いてくれますか?頑張ってドアを開けて、みんなの顔を後ろから見て、そのオレンジジュースで乾杯します。あなたがくれたオレンジジュースを飲みたいです。私、絶対に行きます」手紙はそう締められていた。
僕はオレンジジュースを一杯もらい、会場の後ろにあったテーブルに置いた。そして椅子を一脚つけて「待ってるよ」と呟いてみんなの元に戻った。みんなは引き続き盛り上がっていた。
僕もみんなの話に混ざり、想い出話に花を咲かせた。その時、僕の視線の端、入り口のドアがスゥーっと開くのが分かった。あっ、彼女が来たんだ。僕はドアの方は向かなかった。きっと彼女が恥ずかしがるから。仲間の一人が「おいおい、ドアが勝手に開いたぞ。ちゃんと閉まってなかったのか?」と言って、ドアを閉めに行った。後ろに置いてあるオレンジジュースはまだ入ったままだった。
「みんな楽しんでるよ。後ろで乾杯してゆっくりしていってね」と心の中で呟いた。少し立ってからオレンジジュースを見ると、グラスだけになっていた。僕はそのグラスを取って、空きグラスの置き場に置いた。
集合写真を撮ろうなり、先生を囲んでみんなで並んだ。僕は端の方に立ち写真に収まった。その後、またドアがスゥーと開いた。「ここのドア、ちゃんと閉まらないのかぁ?」とみんなが笑った。無事同窓会は終わり、二次会も誘われたがなんとなく気分がのらず帰宅することにした。
後日、集合写真が送られてきた。僕の隣には、うっすら女性の姿が映っていて、「心霊写真ではないか」と仲間内で話題になった。僕はそんなこと無いよと否定しておいた。
僕はその写真を見て分かっていた。途中から参加した、片想いをしていた彼女だということを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます