カセットテープ
今、レコードと共に再注目されているカセットテープ。その昔は当たり前のように売っていて、レコードやCDを録音して楽しんだ。俺もその世代の一人だ。カセットテープのことを知らない人も居るから簡単に説明を。昔は色んな分数のテープがあったが、今は3種類(10分・60分・90分)ぐらいか。例えば60分テープであればA面B面共に30分録音が出来る。4分の曲であれば7曲(28分)録音できる。もちろん残りの2分に収まる曲を録音してもよいし、空白にしていてもよい。音楽はそんな時間がぴったりの曲は無いから、大体1~2分余ることが多い。レンタルしてきたアルバムをA面B面に録音して楽しむのである。
先日、オークションにて録音済みのテープをまとめて出品されていた物を落札した。なかなか手に入らないアルバムが録音されていたり、エアチェック(ラジオを録音して楽しむのもあった)したテープが大量だった。
とあるテープのB面。録音されていたのが終わり、余白部分もそのまま再生していると、
「ごめん、もう死ぬしか無いんだよ」
と女性のか弱い声で突然再生された。
俺はびっくりしてテープを巻き戻し、もう一度再生してみると、やはり同じようの録音されている。カセットテープは自分の声も録音できる。子供の頃録音して、再生する声が違いすぎて驚いたなんて経験した人も多いはず。ただ、録音されていたのはそんな物では無かった。気持ち悪いなぁ。なんだよこれ。俺はそう思い、テープを早送りし取り出した。気分が一気に重くなった。
気を取り直して、別のテープを再生した。今度はA面最後の空白部分に、
「生きてるのが辛いの。死にたい」
とさっきと同じ声が再生された。
おいおい、勘弁してよ。これ知っててオークション出したのか。酷すぎるな。一応B面を再生すると、通常の音楽が録音されていた。別のテープを手に取ってみると、120分のテープでインデックスには何も書いてなかった。何が録音されているか気になったため再生してみた。音楽の何も始まらなかった。何も録音されてないテープか。停止ボタンを押そうとしたその時、“音”が始まった。さっきも聞いた、あの声がし出した。
「あなたがこれ聞いているとき、その場は凄いことになってるでしょうね。全部、あなたのせい。あなたが大好きなカセットに色々と残したけど、何にも反応してくれなかった。もう、私の事なんて、どうでもいいのね。辛いって言ってのに。もう、全部イヤになっちゃった。さようなら」
その後、足音がして,ギシギシと音がした。そして、何かが倒れる様な音と共に女性の苦しそうな声した。その声はしばらくすると止み、風の音や車が通り過ぎる音など、何気ない生活音が録音され続けていた。俺は止めることが出来ず、ずっと聞いてしまっていた。この後何が起こるのか…。
もうすぐA面が終わろうとするとき、ガチャガチャと、きっとドアの鍵を開ける音がし「ただいま~」と男性の声がし、もう一度「ただいま~」という声と襖をスッーっと開ける音がして、「おいっ!何してるんだよっ!」焦ってバタバタする音がしたとき、A面が終わった。
何があったのかは分からない。音から想像するしか無い。きっとそういうことなんだろうな。聞かなくてもいい物を再生してしまった。とても気分が悪くなった。そしてあの女性の声が頭の中で繰り返されてしまっている。今日は早いところ寝てしまおう。俺はウイスキーをロックで一杯のみ、ベッドに潜り込んだ。すぐに眠り込んだようだった。
ふと目が覚めると、クローゼットにビニール紐をかけ、首に括ろうとしているところだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます