昼飯に食べたかき揚げ丼の揚げ物の油が合わなかったらしい。腹が急激に痛くなった。トイレに入るため、商業施設の中に入った。ここは昔は栄えていたが、周りに新しい商業施設が沢山建ち並び、閑散としてしまったところだ。テナントも少なく、空きスペースばかりになっている。まあ、トイレが開いてる可能性も大きいだろう。

 隔階に男女のトイレがある。偶数が女性、奇数が男性。1階には無いため、3階まで上がる。運悪く、使用中。体調悪いときに限って、近いトイレが使われているのは何故なのか。この現象を誰か命名してくれないか。5階に上がる。テナントも数えるほどしかやってなく、空きスペースは紅白幕で覆われていたり、椅子とテーブルがあり休憩スペースになっていたりする。それを横目に急ぎ足でトイレに向かう。

 人を感知して電気が点くタイプ。ほわっっと明るくなり、個室に入った。私が今日最初に個室を使うのか、トイレットペーパーは三角の折れていた。腰をかけ用を足す。非常事態から解放された。ただ、まだ腹の調子が今ひとつなので、座り続けた。

 座った正面には「壁に落書きはしないで下さい」と書いてある。右側の壁、左側の扉、細かな落書きがある。トイレの落書きなど、昭和の時代か?と思わせる。それぞれ目で追ってみた。バカやアホ(ひらがな・カタカナ・漢字)、●●さん大好き(片思いか?アイドルの名前も)、卑猥な言葉(S●X、チ●コ,女性器など)、電話番号、当て漢字(夜露死区など)、「左見て」とかの指示や「ここには霊が出る」などの脅し。まあどうでもいいような内容ばかりである。正面の注意書きには「この注意書き、絶対はがすな。あぶない」と手書きで赤字で書いてあった。何をしたいのだか。ただ、その張り紙は真ん中が少し動いていた。裏側に穴があるのか、空気が抜けているのだろう、少し紙がパタパタしていた。

 なるほど、誰かが穴でも開けたのだろう。それを塞ぐ意味もあって、この張り紙がしてあるのか。その時、トイレの電気が消えた。物凄く驚いた。そしてトイレに入ったときのことを思い出した。人を感知して電気が点くのだった。ちょっと見を動かしてみると、ほわっと明かりが点いた。あぁ、びっくりした。用を足し終わったので、立ち上がり、トイレを流した。

 個室を出ようと思ったとき、張り紙を見てみた。角の方が取れかかっていた。穴が開いているのか、ちょっと覗いてみよう紙をずらしてみた。こぶし大ぐらいの穴が開いているのが見えた。それと同時に、何かが見えた。奥側の配管か。もう少し紙をずらして見た。


 男の顔がこちらをジーッと見ていた。


「うわぁ!」思わす声を上げた、のけぞった。ただ狭い個室。壁にぶつかり、男と目が合ったままだった。慌てて張り紙を貼り付け、慌てて個室を出て行った。


 フロアに出ると、警備員が巡回をしていた。そして声をかけられた。「お客様、恐れ入りますがそちらのトイレは使用禁止になっていますので、立ち入らないようお願いします」俺は一瞬理解出来なかった。トイレの入り口を見返すと、「トイレ使用禁止(他の階をご利用下さい)」と大きく張り紙があり、赤いコーンまで置いてあった。「あぁ、そうだったんですね。腹の調子が悪くて入っちゃいました」と言った。警備員は不思議そうな顔をして続けた。

 「それは仕方が無いですが、トイレ使えました?色々とあって、便器自体撤去してるはずですが…」


 “色々”が一体何か、怖くて聞けなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る