ポケット

 おしゃれが大好き。いっぱい色んな服を組み合わせて楽しむ。職場は私服OKなので、毎日色んなファッションで楽しんでる。仕事頑張って、給料日の後の休みは、いっぱいの服を買いに行く。新品は買えないから古着屋のはしごをする。

 変な言い方だけど、綺麗な古着屋もあれば、汚い古着屋もある。選択をして綺麗にしてから売っているところ、誰かが着たまま、何もせずにハンガーに掛けて売ってるんじゃ無い?と思うところ、段ボールを漁るタイプもある。どこにお宝があるか分からない。それが古着の楽しさ。常連の店、たまに行く店、新規オープンの店、チェーン店。お気に入りの一枚は今どこに眠っているかは分からない。それと同時にポケットチェックも楽しみの一つ。特に汚い古着屋・段ボールなどで見つけるんだけど、ポケットに“何か”が入っている事がある。お札が折りたたんで入っていたこともある、レシートが入っていると、買った物などが分かれば、ちょっと想像してみる。メモ書きもある。買い物メモだったり、約束のメモだったり。手紙もあったり。テレフォンカードや名刺、ガムの包み紙やどこかで貰ったポケットティッシュ。見たくない物でいうとコンドームやタンポンなども。とにかく色んな物が入っている。


 給料日後、色々な古着屋を見て回った。色々な物を買い込み、とっても満足した。

家に帰り、一枚一枚チェック。そしてポケットもチェック。今日出てきたのは、小銭(合計151円)、メモ(買い物メモ。卵、パン、台所洗剤、魚肉ソーセージ)、未開封の小さな封筒、丸まったティッシュだった。まずは封筒を開けてみる。


 「大好き。ずっと」


と書いてあった。これは、書いた本人が渡せずに終わったのか、貰ったけど開けなかったのか。そんなことを想像をする。今この二人はどうしているのか。


 そして丸まったティッシュをほどいて行く。なんか固い物が入っている。開けてみると真っ赤な何か。よく見て、私は声を上げて放り投げてしまった。


 爪だった。


 真っ赤にマニキュアが塗ってある爪。カーペットに転がった爪をもう一度見てみた。もしかしたら、色見本などの爪やネイルチップかもしれない。凝視する。


 どう見ても、人の爪。


 ティッシュで握り、丸めて捨てた。気持ち悪すぎる。


 これがポケットに入っていた服は、とっても気に入ったダウンベストだった。おいおい、前の持ち主、何してるんだよ…。まあ、切断された指とかが入っていたわけじゃないし。結構な楽天家な私である。秋には、このダウンベストが結構重宝する。気を取り直して、良い買い物をしたと自己満足をした。


 そして、このダウンベストを着る季節がやってきた。うん、思っていたとおり、いい物じゃないか。私のコーディネイトにぴったり。ポケットに手を入れて歩いた。ふと爪のことを思い出したけど、もう入ってないからいいかと思っていた。

 朝のラッシュ。電話の中は混み合っている。電車の中じゃちょっと暑いけど、ファッションは我慢である。乗換駅が近づくにつれ、人がどんどん乗ってくる。満員だ。その時、ふと気づいた。なんか触られている感触。おい、痴漢か?右のお腹の辺りをなんか触られている感じ。おい、ふざけんなよ。私に痴漢するとは。お尻や胸じゃなくとも、知らない奴に触られるのは気持ち悪い。

 右のオッサンか?前の学生か?左の爺さんか?私が手を動かせるようになって捕まえてやろうとした時、その動きが止まった。止めたようだ。チッ!捕まえてやりたかった。駅を下りて会社に向かうまで、なんか触られた感触が残っている。気持ちが悪い。嫌な朝だ。

 仕事をして電車に乗り帰宅をする。朝ほどでは無いが混んでいる。あれ?またお腹の辺り触られている?周りを見るも、私を触っているような人物は確認出来なかった。なんか嫌だなぁ、朝の感触がまだ残ってるのか。

 最寄り駅に着き、家まで歩いた。ちょっと寒いので、ポケットに手を入れてみると、何か触れた。あれ?何も入れてないけどな。奥まで入れたら、何も触れた感触は無かったが、こんなに深いポケットだったかと思った。次の瞬間。


 私の指に、誰かの指が触れた。しかも爪の長い女の指。


私はギャッ!っと声を上げ、ポケットから手を出す。すると、お腹の辺りを何か探っているような手の感触がした。私は怖くなり、ダウンベストを脱ぎ、手に持ったまま家に走って帰った。


 家に着き、ダウンベストのポケットの中を懐中電灯で覗いてみた。そこには何も無い。ただポケットがあるだけ。そしてさっき触れた指、見えては無いけど、あのティッシュに包まれた爪が“付いていた”指だ。

 私は怖くなって、ビニール袋に入れて外のゴミ置き場に捨てた。次の朝、ゴミ起きを見てみるとダウンベストはなくなっていた。誰かが持って行ったのか?


 翌月の給料日後、いつものように古着屋巡りをしていると、とある店の店先に、あのダウンベストが売られていた。誰かが持って行って売ったのか、それともあのダウンベストに“意思”があるのかは分からない…。

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