タクシー

 フリーランスで仕事をしていて、色々と客先を回ることが多い俺はタクシーをよく使う。タクシーという乗り物が好きなのもあって、田舎でもない限り、同じ運転手に会うことも無いと思う。一期一会。それも楽しみの一つ。また、言い方は悪いが運転下手であったり、態度が悪かったりすれば、例え1メーターでも下りる。自分身を守るためでもある。事故に遭ったりしたら、それはそれで大変だ。

 会社によっては、研修という名で助手席に新人が乗っていたり、新人のサポートでベテランが助手席の乗っていたりというのもある。


 二つ先の駅からちょっと歩いたところにクライアントの会社がある。丁度雨も降り出したので駅前からタクシーに乗った。運転手はベテランな感じで、大まかな行き先を言うと安定のハンドルさばきで駅前の国道に出て進んでいった。助手席には新人と思われる男性。緊張しているのか、前を向いたままだ。

 「降り出しちゃいましたね」と俺が話しかけると、「朝からどんよりしてましたからねぇ。私としては雨が降ってくれた方が客が増えるから良いんですけどね。雨の中傘を差さず慌ててる人見ると、タクシー乗ればいいのにとか思っちゃうんですよね」なんて話をしてきた。相変わらず助手席の男性は緊張しているようだった。

 クライアントの会社前まで車を止めてもらい、キャッシュレス決済をし俺は車を降りた。会社の入り口で身なりを整えていると車が走り出す。助手席に居た男がこちらを見て、ニタァとした。なんだ?気持ち悪いな。あんなに緊張している感じだったのに。


 俺はクライアントとの打合せを終え、外へ出た。雨は止んでいたので、最寄り駅まで歩くことにした。国道のところへでると車が渋滞していた。そこにはパトカーも止まっていた。どうやら事故があったようだ。

 大型のトラックの後ろにタクシーが突っ込んだようだった。なんか嫌な予感がした。似たようなタクシーは沢山走っているけど、どうもさっき乗ったタクシーのような気がする。

 そのタクシーの脇に一人男が立っていた。さっき助手席に座っていた男だった。

こちらを見て、ニタァっと笑ったと同時に、スッと消えてしまった。

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