非通知
ぽかぽかと暖かい昼下がり。日の当たる部屋でウトウトしていたらスマホが鳴った。着信表示は非通知。どうせ営業とかの電話だろう。無視だ。ずっと鳴っていたが留守番電話の切り替わったのであろう、鳴り止んだ。留守電にメッセージが入った通知が来た。聞いてみると、雑音か何かしている先で微かに人の声がしているようだったが、聞き取れなかった。削除。
30分ぐらいしてから、またスマホが鳴った。番号は表示されている。出てみるとある場所の刑事だった。何故警察が自分に電話を?と疑問に思いながら話を聞くと、女性がビルから飛び降りをして、残っていたスマホの発信先がこの携帯番号だったと。知り合いの女性かとも思ったが、刑事が言うには連絡帳の登録には無く、ランダムに番号を押してかけた様子とのこと。車で1時間ぐらいの場所ではあるが、特に知り合いはいない。変なことに巻き込まれたなと嫌な思いになった。刑事もまた連絡するかもしれないと言って電話を切った。気分転換に出かけてブラブラしよう。
街中を歩いているとスマホが鳴った。着信表示は非表示。ゾッとした勢いで出てみようかと思ったが、止めた。留守電にメッセージを入れたようで、聞いてみた。「もしもし、サエです。また電話します」と吹き込まれた。サエって誰だ?もう、1日に何度も訳の分からん着信があるのは疲れるわ。
街中を歩くもどうも気分が晴れない。どうしたものか。カフェでも入ってコーヒーを飲むか。たまたま目について昭和レトロな喫茶店に入る。ブレンドコーヒーと頼み、深く沈み込む椅子に身を預けた。凄い疲労感。クラシックが流れる店内は、時の流れが止まった感じがする。ブレンドコーヒーが運ばれてきて、早速飲む。苦みが疲れを癒してくれる感じだ。上を向いて目を瞑る。早くこの疲れが抜けて欲しい。
目を開けると、前の席に女性が座っていた。あれ、誰か入ってきたっけ。まあいいや。コーヒーを口にする、目を瞑る、これを繰り返していた。目を開けたとき、前の席に座っていた女性はいなかった。気がつかないうちに出ていったのか。自分もコーヒーを飲み終えたので、店を出ることにした。
日が傾き、風が少し涼しくなってきた。家に帰るか。そう思い駅へと歩いて行った。信号待ちをしたとき、隣に女性が立つ。あっ、さっき喫茶店に居た女性だ。まあ、こんな偶然もあるだろう。その時、スマホが鳴った。また非通知だ。また留守電に残るだろう。案の定、留守電に吹き込まれていた。歩きながら聞いてみた。「もしもし、サエです。一緒に帰ろうね」と。これ、番号間違えてるんだろう。迷惑だなぁ。スマホ画面から目を離すと、駅のところでさっきまで隣に居た女性がこちらを向いて立っていた。そして私に向かって手を振っている。周りを見渡すも、手を振り返している人は居ない。背筋がゾッーっとして、歩けなくなった。女性がスマホを取り出し電話し始めた。そして私の携帯が非通知で鳴りだした。電話に出てみた。女性の口とシンクロするように耳元で声が聞こえる「もしもし、サエです。見えてるよ。こっちだよ」電話を慌てて切り、反対方向に走って逃げた。無我夢中で走って、繁華街の端に着いた。駅の方面は怖くて行けない。タクシーを拾い、家に帰った。
家について急いでドアを開け中に入ってすぐにロックをした。この状況は一体何なんだ?その時、また携帯が鳴る。今度は番号通知されていて、先程の刑事からだった。「何度も申し訳ないです。捜査に協力いただきたいのです。もちろん私どもが伺います」とのことで、刑事が訪問することになった。
1時間ぐらいすると、刑事二人で訪ねてきた。もちろん内容は、さっきあった女性の飛び降りの件だ。身元に繋がるような物がないとのことで、携帯電話の履歴なども一切無かったそうだ。そして偶然にも私の携帯電話に発信していたとのこと。持ち物を見たこと写真を見せられた。私は腰が抜けてしまった。
喫茶店・交差点・駅、あの女性の服だった。
でも何故私にコンタクトを取ろうとしているのか分からない。その後何度も非通知で着信があり留守番電話に残る「もしもし、サエです…」
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