目が覚めたのは、窓が開く音だった。寝ぼけている頭で、「あぁ、親父が起きたんだなぁ」と思った。親父は朝の日課で、雨が吹き込んでいる以外は、真冬で窓を開け、部屋の空気を入れ換える。その後ラジオ体操をして、1階に下り新聞を読む。定年後はそれを続けていた。ただ、朝の日課を実際に見たのは、実家に帰ってきたときだけだった。本人も「朝の空気は気持ちが良いぞ」と笑顔で言っていた。

 そろそろラジオ対応が始まるかなとぼんやりと思った瞬間、俺は飛び起き、親父の部屋に行った。ラジオ体操以前に、窓どころか、カーテンも開いていない。


 俺が実家に帰ってきたのは、親父が昨日亡くなったからだった。


 「親父、日課はそう簡単には辞められないよな」それは呟いて、カーテンを開け、窓を開けた。そしてラジオを付けてラジオ体操を流した。


 親父が毎朝見ていた風景を見て、涙が出てきた。ラジオ体操が終わってラジオを切り、窓を閉めて部屋を出ようとしたとき、「ふぅ~」と親父が息を抜いたのが聞こえた。

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