手紙
実家の親から電話がかかってきた。使っていた部屋の片付けをして欲しいということ。将来的なことを考えて、家全体をバリアフリーにリフォームをするらしい。俺も大学卒業して就職するのに家を出てからもう15年。必要な物だけを持って引っ越したため、部屋の押し入れには色々な物が置いたままだった。
盆暮れ正月には帰省をしていたが、のんびりするだけで部屋の片付けなどはまったくしていなかった。そして金土日と暦が3連休だったので帰省をした。
実家にお茶を飲んで、早速片付けに取りかかった。限られた時間で整理をしなければいけないからだ。ビニール袋をセットし、不燃ゴミ・可燃ゴミ・持って帰るもの・置いていく物と分けていった。
子供の頃に遊んでいたおもちゃ、小学生の時に被っていた帽子、中学生の時に買ったゲーム、部活で使っていたカバン、学校で使っていた絵の具のセットや裁縫セット、工作の時間に作った作品や絵、そして文集やアルバム、卒業アルバムと色々な物が出てきた。おもちゃなどはオークションで売れそうだったので持って帰ろう。工作などは勿体ないけどゴミ袋へ。絵の具セットも使う予定は無いからこれもゴミ袋へ。
部活で使っていたカバンの中にからエロ本が出てきて焦った。持ってきたバッグの奥に入れておいた。家に帰ってからこっそり捨てよう。一日目でだいぶゴミが出たが、必要ない物が多いのに驚いた。気がつくと部屋は暗くなってきて、電気を付けた。なんとなく懐かしい明るさ。この部屋での想い出がよみがえってきた。
夕食を食べ、風呂に入り、片付けの続きをすることにした。眠くなったらそのままベッドで寝てしまえばよい。
この片付けで少し楽しみにしていたのが、文集やアルバムだった。想い出を見たかったからだ。文集を読んだ。今と変わらず文章を書くのに悪戦苦闘したのがよく分かる。でも、この文集いるのかな?読み返したところで特に無しのないし。そう思って断捨離でもあると思い、ゴミ袋(紙ゴミ)に入れた。文集に関しては全部ゴミ袋行き。アルバムは捨てない。これは残しておこう、色んな想い出がよみがえる。見入って居たら時計が夜中1時を指していた。とりあえず今日のところはここでとアルバムの最後のページをめくると、封筒が出てきた。白い封筒は少しだけ色が変わっていた。開けてみて驚いた。高校1年の時に付き合った彼女のラブレターだった。甘酸っぱい記憶がよみがえってきた。そして彼女と一緒に撮った写真も入っていた。なんでこれだけここに入れていたんだろう。写真の裏には「ずっと一緒だよ」とカラーマーカーで書いてあった。甘い想い出。少し眠くなってきたからそのラブレターを持ってベッドに入った。こんな好かれたんだなぁと思い返し、再度写真を見た。今見ても可愛い彼女だった。他のラブレター、取っておいてないかな、どこかに保管してるだろう。探している間に出てくるだろうなと思っている間にすーっと眠りについてしまった。
翌日、朝飯を食べて、片付けに取りかかる。アルバム類は後にして、本塁の整理に取りかかる。これは近くの古本屋に持って行こう。間に何か挟まっていないか確認していると、封筒が出てきた。昨日みた封筒と同じようだ。さっと中を見ると写真とラブレターだった。後でまとめてみるか。テーブルの上に置いて片付け再開。その後も色々なところから封筒が出てきた。後で読んだとき、一人で悶絶するだろうなと思いながら封筒をを重ねていった。ただ、結果的にはバッドエンドだった。ラブレターがどう書かれていくのか記憶からぽっかりと抜けている。付き合い始めの頃はラブレターもらったのを覚えているが、そんなにもらった記憶が無い。しかも色んなところに入れているのが自分でも不思議だった。そんなことをぼんやりと思いながら、古本屋へ本を売りに行った。二束三文でも捨てるよりはよい。店員さんが「お客様、こちらが挟まっておりました」と3封白い封筒を渡された。あれ、さっき見たのに見落としたか。ちらっと中身を見ると手紙と写真らしき物が入っていた。家に帰ったら見てみよう。買取金額も思った以上になったので、帰り道は足取りが軽かった。
ほぼほぼ片付けが出来た。後は必要な物、引き続き置いてもらう物だけになった。
2日かかった。でも断捨離すると気分よくなるとも同時の思えた。夕飯を食べ部屋に戻り楽しみにしていたラブレターを読んでみることに。幸い、封筒の裏に日付が入っていたために、まずは日付順に並べ直した。結構な数があったので、それと同時に、さっきより数が増えているような気もした。最初にアルバムに挟まっていたのが最初のもので、デートをしたときの写真にラブレター、誕生日の時の写真にラブレター、それぞれイベントごとに貰っていたのか。毎月、付き合って○か月記念でもあり、ファーストキスの時のもの、夏休み、花火に行った時、祭りに行ったとき、それ毎にラブレターがある。そして記憶がよみがえってきた。この手紙が“重く”なり始め、距離を取り始めるようになったのだ。そして最後は俺が別れを告げた。彼女は拒否したが、愛されるのが重いのはとても耐えられなかった。手紙は続く。ケンカしたときも、こちらが無視したときも書いてある。そして封を開けていない物が出てきた。それは最後の日付から3つだった。1封目。内容が恨み辛みになってきている。そして入っている写真は、俺の体の部分が傷つけられていた。2封名。言葉にするのも嫌な内容が殴り書きで書いてある。3封目。写真のみ。俺の写真に黒リボンを付けている。背筋が凍った。俺は全ての封筒をゴミ袋に入れた。こんな気持ち悪いことだったのか。心臓がバクバクしている。そこへ母親が来た。
そして母親は続けていった。「部屋片付いてるかい?そうそう、お前に話すの忘れたことがあったよ」と神妙な顔をしていた。俺が「なんだよ、話って」と聞くと、「お前が高校の時に付き合ってた女の子いたでしょ。あの子先月自殺したんだってよ。さっき本売りに行った古本屋で働いてたんだけどね。何でも男女関係の縺れだった噂だよ」
さっき古本屋で受け取った封筒、未開封で最後の日付の3封だったのを思い出した。
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