第7話 出立

 ツタを鞣して作ったロープ。

 寝床を作った時の余りだ。



 「これは何かに使えそうだな」



 ここいらのツタが特別頑丈でこういった用途に親和性が高いのか、あるいは普通ツタというのはこういうものなのか。

 前の世界でこんな事をする経験なんて当然なかった俺には知りようもない。




 畑の種まきから数日経過して、先日無事に過半数の発芽が確認できた。


 残念ながら俺の主食である木ノ実は成長が遅いのか土壌に適さなかったのかまだ発芽していない。そういえば「アイランドファーミング」には累積温度なんて条件もあったな。



 ともかく、これで栽培の目処はたったといえるだろう。


 そういうわけで、明日、俺はついにこのレッサーゴブリンの集落を離れ、人里を目指すことにした。



 そのための荷造りをしているわけなのだが…。

 とにかく荷物が少ない。


 いや、荷造りなどと見栄を張ったが、このロープ以外に何もない。


 我ながらよくこれで生活していたものだと感心するが、考えてみればそもそも道具が必要になるようなことは何もしていない。



 普通最低限必要な鍋やらナイフやらの調理器具や食器は木の実を齧る分には必要ないし、ご存知の通り着替えもない。そういえば寝床はあるが住居すら無いな。



 「なるほど、どうやら俺は人間らしい生活をしていなかったらしい……」



 木の上の蔦で寝て木の実を食べて、これで服がなくなったらまさしくチンパンジー並の生活だ。



 「なんかゴブリンに色々教えたり食べ物あげたりで偉い風のつもりでいたが…そうか、俺チンパンジー並だったのか…」



 と言うより人間と共に生活していないのでこれは当たり前というべきか。

 期せずして出立の意気込みが新たになった。



 荷造りが一瞬で終わってしまい茫然としているとコボルドのスケロクがやってきたので近づいて声をかけてみることにした。


 どうやら滝の方に向かうらしい。



「昼飯の調達か?」

「あ、ナオエさま、お休みのところお騒がせして申し訳ありません」

「いや、寝てないし寝床まで何十メートルもあるけどな」



 さっきまでいた寝床付近を振り返る。



「私はこれからキノコの採取に向かうところです。他の二体も索敵陣形で少し離れたところを移動中です」



 「なるほど、滝壺のところは湿気のせいかキノコの群生地となっているからな」



 火さえあればキノコ汁なんて最高なのだが…。


 視線を送ると確かに離れたところに同伴のコボルトがいた。おそらくヘイチョウだろう。


 見えるかどうかも微妙な距離なのに視線に気づくと、こちらに向き直って深々と礼をするので軽く手を振って返礼の代わりとする。



 視線をもどすと、一体今のやり取りから何を受け取ったのか、ソレガシが片膝をついて青ざめていた。



「どうかしたのか?」

「も、申し訳ありません、なおえさまが食べられないというのに分も弁えずキノコ取りなど…!」



 え、いや、そんなこと全く思っていないのだが。

 分を弁えないキノコ採りってなんだよ。


 というかさっき一瞬キノコ汁のことを考えていたのを読み取られたのか?

 だとしたら恐るべき洞察力だな。


 ソレガシはコボルドナンバー3で、やたらと慇懃な態度なのでソレガシと呼んでいる。



「いや、俺はいいんだ、食べられる奴が食べればいい。それに良いものを食ってればまた進化できるかもしれないだろ」



「しかし、そういうわけには…実はなおえさまからいただいた獲物を我らが頂く事を問題視する声もおおく、この後も再々協議が行われる予定なのです。私もその意見には正しいと感じます。我々などは地をはって苔でもはんでおれば良いものを…」



 そう言って深刻そうに足元の緑を見つめるソレガシ。


 そんな会議してたのかこいつら、もしかしてヒマなんだろうか?

 コケなんか食ってたらまた劣等種に逆戻りだぞ。



「それに進化であればナオエ様こそ先になされるのが順当でしょう!」



「いや、ヒューマンは進化しないから…」



 多分だけど。


 コイツら本当に何もわかってないんだな。



 しかし考えてみれば旅立つ前に進化の方法だけでもそれとなく教えておく必要があるな。


 今は皆何がなんだかわかっていないようだし、知力の高い何体かは食べ物のために進化したと考えているようだが、そもそもあれは進化ではない。


 コロニーの今後も考えると教えておくべきだろう。

 強敵が来て滅ぼされたりしちゃ寝覚めが悪いし。



 ただあんまり進化してパワーバランスが崩れたりしないだろうか。


 そのあたりはなかなか悩ましいところだ。



 一旦コボルドたちには採集を中断してもらって、コロニーにもどることにした。


 丁度ゴブリン採集組が帰ってきて一息ついているところだったのでそいつらに他のメンバーを集めてもらう。



「突然だけど、今日はこれから全員で狩りに出ようと思う」



 もちろんチビ達とご老体は留守番だ。



「ナオエサマ、オレタチ イッショ アシデマトイ チガウカ?」



 声をあげたのは未だレッサー種で、普段は彼らがよく食べているシドラの実や芋虫集めを担当している個体だ。


 老体に近いので、今後通常種になるのか微妙なところだ。


 レッサー種なのにそんな配慮ができるとは、年の功かあるいはかなりINT高めなのか?



 これは俺の推論だが、おそらくレッサー種から直接進化ということはない。


 段階的に一度通常種になる必要があるとすれば今の状態でリスクを増やしてまで狩りに同行させることは無意味だ。


 ただ今回は説明が目的なので一応同行させることにした。


 何事も公平性は大事だ。



 現段階では進化自体も推論ではあるが、ゲーム時代上位種下位種というのは確かに存在した。


 絶対数が下位種のほうが圧倒的に多かったことから考えても、それらが類似の別種と考えるよりは進化による差異だと考えるのが順当だろう。


 現にこちらに来てからの狩りで彼らのEXPが増える事自体は確認済みだ。


 具体的な進化のレベルや条件については不明だが、戦闘を続ければいずれそういう個体は出てくるはずだ。




 まだ練度は低めだが、俺を先頭にゴブリンとコボルド、レッサーゴブリン、オークという陣形でコロニーを出発する。



 ラッキーなことにほどなくして最初に見つけたのはツチネズミのメスだった。

 芝のような植物の上で手足をばたつかせている。


 変異種で毒なんか持ってたりしたら危ないし一応フォーカスしてみるか。



 種族  :ツチネズミ


 レベル :4


 状態異常:混乱



 ツチネズミは要はすごく太った大型のモグラだ。コイツはおおかた誤って草地の上へ出てしまって戻れなくなったのだろう。


 ちなみにオスはもっと細長くて筋張っている。

 イマイチ育たなかったサツマイモみたいな形だ。



 基本的に土の中に居るので出会うことは非常に稀だが、出会ってしまえば攻撃されようが何をされようが地中へ逃げようとする以外の行動選択がない。


 油断しすぎると噛みつかれる事があるがよほど愚鈍でなければ問題ない。

 つまりレッサー組に狩りを教えるにはもってこいだ。



 というわけで未だおっかなびっくりのレッサー種の面々に柵を作った時の余りを棍棒代わりに持たせて攻撃させてみた。


 そういえば彼らが狩りについてくるのは初めてだ。



 なんとなく構図が浜辺の亀をいじめる悪ガキみたいでゾッとしないな。


 やはりレッサー種では非力なのか仕留めるのに思いのほか時間がかかる。

 それでも根気よく攻撃を続け、息を切らしながらもなんとか彼らは独力での狩に成功した。



「ヤッタ!!」

「オレタチ デキタ!」

「ナオエサマのイウトオリシタカラダ」

「デキタ!デキタ!」

「おう、頑張ったな。お前たちの獲物だ」


 労いつつぽんぽんと背中を叩いてやる



「ナオエサマ、オレタチウレシイ」



 そう言うとなんのつもりか足や腰を彼らに仕切りに叩かれた。


 よほど嬉しかったのかその後しばらく興奮気味な彼らをなだめながら次の獲物を探しつつ移動する。



 「……なんだ?」



 よくわからないが背中からの視線が痛い。

 もしかしてヒューマンが魔物に触れたりするのはあまりよくなかったのか?



 一度でも人に触れられた雛鳥は親から放棄されるという話もあるくらいだから、彼らにとってもそういうのがあるのだろうか?


 俺の軽率な行動のせいで彼らがハブられたりしたらかわいそうだな。



「なあ、タラフク。なんか後ろの連中ピリピリしてないか?」



 人選を誤っている気もしたが隣を歩くタラフクに意見を求めてみる。



「ナオエサマ、シンアイ、しないかった。みんなオコル」



 どうしよう、全く解読できない。


 頭を抱えそうになりながも忍耐で聞き取りを続けるとようやくタラフクの言わんとしている事が分かってきた。



 どうやら彼らにとって互いに触れ合う事が親愛の証になるらしい。


 今までそれをしなかった俺が数匹の背中を叩いてやった事で、早いはなし他の奴らが妬んでいるのだと言う。



 そういえば今までスキンシップにしろなんにしろ彼らに直接触れることはなかったな。


 低レベルのモンスターだと認識していながらも、やはりどこかで異世界の存在を恐れていた部分があったのかもしれない。



 よし!


 そうと分かれば今日最後の一日くらい、ゴブリン流のコミュニケーションを取ってみるのもいいだろう。



 そういえば俺も彼らに触れられた覚えはないが、もしかして嫌われてるのか?


 この時は疑問に思ったのだが、帰って村長にきいてみると、目上の者に対してその挨拶をして返されなかった場合絶縁の意味になるらしいく、目下の者から行うことは滅多にないらしい。




 まだ視線は痛いが意味はわかったので気を取り直して狩りに集中しよう。

 できれば多めに獲って多少の備蓄分も作ってやりたいところだ。



 次に見つけたのはヘビーラビットだった。


 オークがこれを仕留められるのは確認済みなので今回はゴブリンとコボルドの混成部隊に一任してみることにした。


 しばらく注意して様子を見ていたがこの分なら問題なく勝てそうだ。


 EXPが均等に分配されているところを見るとどうやらパーティ扱いになっているらしい。


 魔物にもパーティが適応されるとは初耳だ。


 ゲーム時代では考えもしなかった。

 というかそんな設定自体なかっただろうけど。



 その後もしばらく狩を続けてバターラビット三匹とツチネズミ一匹、ヘビーラビットを5匹つかまえた。


 今回の狩りで何体かレベルが上がった個体があるがどうやら自覚症状はないらしい。

 それでもフォーカスするとステータスはきっちり上がっている。



 獲物を仕留めるたびにまんべんなく参加者を小突いてやったり、彼ら流の挨拶にも気を配った。

 どういうわけかちょっと小突くと5倍ほど殴られるんだが、これ本当に大丈夫なんだろうな?反撃されてるわけじゃないんだよな?



 それから今回の狩りでひとつ思いがけない発見があった。

 経験値についてだが、どうやら戦闘以外の索敵や行軍においてもEXPが加算されるようだ。


 実際それらの行動においても何らかの経験は積んでいるわけだから当然といえば当然なんだろうけど、そういうところを見るとやはりゲームというよりは現実に近いのかななどと考えてしまう。


 ちなみに俺自信にはレベルという概念は存在しない。

 これはゲームの仕様上のことなのでもともとそういうものだった。



 それを踏まえて今回の狩の最大の目的だった進化についての説明をしたのだが、どうやらこれを伝えるのは無理らしい。

 それでも根気強く説明を試みたのだけど、だんだんゴブリン達が自身を責めるような表情になってきたので諦めざるをえなかった。



「申し訳ありませんナオエ様……!どうか我々の知能の低さをお許しください…」



 彼らからすればせっかく知識を提供されているのに受け取れないという状況が居た堪れないのだろうな。



 彼らは決してわるくない。

 よく考えてみればこの概念を説明するのは不可能に近い。


 なにせ彼らの反応をみるにそもそもレベルや経験値という考えが存在していないようだ。


 俺にはゲームでは常識である経験値が100パーセントになればレベルが上がる、というのは当然だけど、そもそも経験値の概念もないのに説明など不可能だ


 だってもしゲームの知識がない状況でEXPバーが、レベルアップが、などと説明されても俺だって「何言ってんだコイツ」ってなるだろう。




 コロニーに戻って大方の説明を終えた俺は、最後に明日人里を目指して旅に出ることを告げた。



「そうですか…ついに…。うむん……それが良いかもしれませんの」



 長老はやはりいずれこういう時が来ることを知っていたのか、落ち着いた様子だった。



「ナオエ様、行ってしまうんですか?」

「俺たちもっとナオエ様にいろいろ教わりたかった…一緒に遊んでほしかったです」

「これこれ、聞き分けのないこと言うでない。ナオエ様を困らせるじゃろて」



 若い連中を説得するのが一番骨が折れた。

 彼らにとって俺がどういう存在だったのかは分からないが、生まれて数週間しか経っていない彼らにはそれなりに大きな存在だったんだろうな。


 彼らからすれば俺は生まれた時からずっとここにいる存在なんだから無理もない。


 遊んだというのは多分まだレッサー種だった頃に、一度犬みたいだと面白がって棒切れを拾わせたときのことなんだろうけど、そうか、コイツラにとっては楽しい思い出になったんだな。


 そういうことならもっとちゃんと遊んでやればよかったかもな。



「ナオエサマ 俺 どうしたらいい」



 いつの間にか近くに来ていたタラフクが珍しくしっかりした口調で聞いてきた。


 はじめはただの食いしん坊キャラかと思ったが、通常種になってからというもの見てくれや喋り方に似合わず律儀で純水なとこあるからなコイツ。


 ちなみに今はその食い意地のためか通常を通り越してリッチゴブリンという枠組みにはいっている。



「あんまり考えすぎずにたくさん食って強くなればいいよ、お前は」



 実際知力は低いので冗談めかしてそう言っておいた。



「ワカッタ 次会うまでに 俺 ナオエ様より強くなる」

「ハハハ、そうなったらここは安心だ。ほどほどに頑張れよ」



 ちなみに彼は後ほど「バカを言うでない」と村長に杖で殴られていた。



 最後にコボルドを呼んで、INT高めの彼らにしっかりコロニーをまとめるように言い含めておいた。


 新リーダーを決めてやろうかとも思ったが、村長も居ることだし必要になれば自分たちでどうにかするだろう。

 俺があまりでしゃばるのはよくない気がした。




「ナオエ様、大したものはありませぬがどうかこれをお持ちくだされ」



 何やら村長が餞別をくれるらしい。



「お、グータじゃないか。それと、これは?」



 村長に渡されたのはグータ3壺と村長の杖についていたあのガシャガシャとうるさい飾りだった。


 グータは地味に使えそうなのでありがたい。柵作りのときに俺が特に関心を示したのを覚えていてくれたのだろう。



「お守りのようなものですじゃ。ヒューマンはこういったものは気味悪がられるかもしれませんがの」



 言い方と裏腹に扱いから見るにどうやら大切なものらしい。

 聞けばこれまで死んでいった仲間たちの骨でできているという。



 いや、ほんとに気味悪いな。


 一瞬そう思ったが、郷に入っては郷に従えというし、何より彼らには大切なものだ。それを渡すには何かそれなりの理由があるのかもしれない。


 それは俺には分からないが、その気持を無下にするほど無粋ではない。



「ありがたくもらっておくよ」



 その後今日取ってきた獲物と、帰りに多めに拾った木の実やきのこによる宴が開かれた。


 何が悲しいって主役のはずの俺がいつもの木の実しか食えないのを横目にゴブリンたちの食いっぷりときたら。タラフクなどさっきの会話のせいか、ものすごい勢いで肉にかじりついている。


 まあ多分こういうのが彼らなりの別れの儀式なんだろう。

 最近はなんとなくそういうのがわかるようになってきた。




 皆が騒ぎ疲れて寝静まったのを見届けて、俺は寝床へ引き上げることにした。


 なんだかんだで寝心地の良かったあのハンモックともお別れと思うと寂しいものがあるな。


 ある意味この世界での故郷はここになるんだなと思うと妙な感じだ。



 この緑以外何もない森の中の不潔で小さな劣等種たちの集落。

 言葉にすると何も良さが無いみたいだけど、今はそれほど悪くないように思える。


 いずれ地に足がついたら帰ってこよう。



 そんなことを考えて歩きながらふとマップを見ると、丁度ハンモックの木のあたりに光点があるのに気がついた。

 光点はモンスターの生命反応だ。



 「まさかこのタイミングで魔物か?」



 どうやら動いてはいないようだが、眠っているのだろうか。


 騒ぎになってゴブリンたちを起こしたくはない。できれば奇襲で一気にケリを付けたいところだ。


 素早くあたりを見渡せる木の後ろに移動して様子を伺う。



 「あれは……」



 ハンモックをかけた木の幹にもたれかかってヒメは空を見げていた。



「どうした?そこからじゃ木の枝が邪魔で空は見えないだろ?」

「そうですね……。でももっといいものが見えます」



 そう言って静かに笑う。

 もはやゴブリンの醸し出す空気ではないな、と一歩後ずさりそうになった。


 一応上を見上げてみたが、夜に濡れた葉に覆われた暗い空に自分の歪な寝床が浮かんでいるだけだった。


 何か小動物でもいたのかな。



「行ってしまわれるのですね」

「……え?」

「わかります。なんとなくですけど」



 俺は今まであまり他人に必要とされることのなかった人間だ。


 盛大な見送りや引き止められたりすれば決心が揺らぐかもしれない。そう思って早朝コロニーにはよらずに出発するつもりだったのだ。


 そういえば当初からヒメはよく気がつき、いろいろ気遣ってくれていたな。



「別れを告げずに行かれるのには理由もお有りかと思います。ただどうしてもそのまま見送ることができず勝手なことをしてしまいました」

「いや、ありがとう」



 随分流暢に話せるようになっていたんだなと感慨深く思いながらフォーカスしてみると、ヒメは他のゴブたちよりINTが1.5倍くらい高かった。


 通りでよく気がつくわけだ。

 もしかすると彼女が次のこのコロニーのリーダーになるのかもしれない。



「そうだ、見送りのお礼にこれをあげよう」



 イベントリから獲物の皮をはぐときにゴブリンたちに貸していたナイフを取り出してヒメに渡してやる。


 宝物庫で拾ったものに混じっていたものだが、このナイフはおそらく観賞用で人間の手には小さすぎてまともには使い物にならない。


 一応刃はあるようなので彼らなら使えるだろうし、柄が純金製なので万が一の場合は売るなり交渉手段にするなりできるだろう。そのせいで柄に合わせて刀身も小さくせざるを得なかったのかもな。



「そ、そんな、これ以上何か受け取るなんて……!」



 反応を見るにどうやらヒメは金を知らないらしい。



「いいさ、刃物はあったほうが良いだろ?」



 ヒメは賢い子なのですぐに実利に気がついておずおずながらも受け取ってくれた。


 あまりコロニー以外のやつに見られないようにと最悪売るといいという忠告はしておく。



「出掛けに祭壇に寄っていってください」

「……?まあ、俺が現れた場所だしな」


 最後に見ていくのも悪くないだろう。


「それでは私はこれで。ナオエ様もどうぞ早めにお休みください」



 そう言ってヒメは結構あっさりと木々の影に消えていった。


 まったく、気を使われっぱなしだ。



 明日は多少騒ぎになるだろうけどヒメがうまく治めてくれるだろう。

 そう思うと安心して出発できる。


 ヒメは一体どこまでわかってやってるんだろうな。



 そんなことを考えてヒメを見送りながらコロニーに別れを告げた。

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