第6話 野良仕事

 朝早く、俺は魔物たちに集合をかけた。



 こいつらも随分狩りができるようになり、食生活も安定してきている。


 とはいえやはり狩りは狩りだ。

 成功率が100%でないというのはもちろんのこと、そもそも獲物が見つからないことだって十分ありえる。



 というわけで。



「今日はみんなに耕作を教えようと思う」



 農耕を教えることにした。


 言葉の意味を理解していないらしく顔を見合わせる一同。



「コウサク、ナニ?」



 タラフクが代表して手を挙げる。

 見た目愚鈍ぽいのだが結構やる気あるんだよなタラフクは。



「耕作というのは、自分で食べ物を育てるってことだ」

「育てる?」



 村長が怪訝そうに眉をひそめる。

 どうやら全く未知の提言だったようだ。


 多分彼らにとって食べ物は採集するものであり、捜せばそこにあるものなのだ。

 だから極端な話、なぜそこに木の実があるのかもわかっていないのかもしれない。



 そんな仕組みを説明してどうこうなるわけではないので、さしあたってやり方だけを教えて、それをすればここに実ができるという説明だけをすることにした。


 もちろん俺に畑仕事の経験などあるはずはない。

 しかしそこは俺だってゲーマーの端くれ。並行して幾つかのゲームをこなしていた。



 今回役に立つのはスマホ向け栽培シュミレーションゲーム「アイランドファーミング」というソシャゲだ。


 プレイヤーはいきなり周囲5キロほどの無人島に放り出され、そこで栽培メインの自給自足を行いつつ、近隣の島のプレイヤーと交流するというようなゲームだ。



 そういうわけでテレビなんかの知識と合わせて大まかな情報は持っている。


 というか極端な話土に種を埋めれば育つのでここで欲を出してたくさん採りたいとか大きく育てたいなどと思わなければまず失敗はなかろうという楽観もある。



「よしじゃあまずそこを耕してくれ」



 広場の比較的日当たりの良い一画に棒切れで線を引いて指示を出す。

 以前ある程度の除草と整地を行った区画だ。



「……」



 ゴブたちは不思議そうな目でこちらを見ている。



「あの、タガヤスとは…?」



 スケロクが困った顔でこちらを見ている。


 けしてコイツらが悪いわけじゃない。

 ある意味専門用語だもんな、タガヤスって。


 いいよ、いいよ、ちゃんと説明するから。



「ええと、とりあえず全体に浅く穴をほってもう一度埋めてくれるか?」

「おお、それならわかります」



 我ながら意味不明な指示にも関わらずなんて素直なんだろう。


 理解さえすれば彼らは勤勉だ。

 加えてこの人数、あっという間に作業は完了した。



 まずは手始めにワンルームほどの敷地に種を植えることにした。


 内訳はいつもゴブたちが食べているあのよくわからない実と、俺が持っていた主食の果物。もう残りが心もとないのでうまく育ってくれるとありがたいのだが。


 後は薬草のたぐいを試験的に何種類か植えることにした。



 種の採集はメス部隊に任せてある。


 あとは、集落内の立地なので害獣の心配は少なそうだけど一応柵を作っておくか。


 コレがなかなか難航した。

 なにせ道具がない。



 ノコギリはもとより釘やロープもない。


 仕方がないのでなるべくあらかじめ必要な長さになっている木を集めて、足りない分は例の古い剣で加工することにしたのだが、それと杭の先を尖らせる作業のためにもはや剣としては使えない状態になってしまった。


 武器がないのは少々不安だが、聞いたところによると周囲に敵性モンスターはあまりいないようなのでよしとする。

 武器があったところでもし敵がいるなら彼らはとうに滅んでいたことだろう。



 一応刃の無くなった剣でも強めの鈍器にはなるだろうということで力持ちのオークに持たせることにした。



「首領、これは使えんかの」

「これは?」



 村長が持ってきたのはヤシのような木の実をくり抜いて作ったらしい容器に入ったベタベタしたにかわのようなものだ。



「これはグータと言って、特別な木から取れる樹液ですじゃ。柵の接着に使えんじゃろかと思いましてのう」

「確かに良さそうだけど、こうベタベタじゃなあ」

「いやいや、乾くと固まりますでの」



 固まる?

 固まるのか。


 完全にボンドじゃん。



「スゴイじゃないか、ぜひ使わせてもらうよ!」



 柵の横軸は蔦のロープで縛って樹液ボンドで補強することにした。

 これで大まかな作業は完了だ。



 一息ついていたところにはじめに分担して採集に出していたメス個体の一団が帰ってきた。



「ナオエ様、たくさん実がとれました」



 ヒメが駆け寄ってきて収穫を見せてくれた。


 どうやら今回試験的に作るには十分な量が集まったようだ。


 メス個体は全部で7体いるのだけど、恥ずかしがってなのか用心深いのか、俺はヒメ以外とはほとんど話したことがない。



 ところで最近はヒメも通常個体になって随分魅力度が上がっている。


 実はかなり贔屓目に見ているので実際には他とはあまり変わらないのだけど、やはりそれなりにオスたちも放っては置かないようで俺としては心配の種だ。


 俺はいつまでもここにはいられないがどうかいいゴブを見つけてほしいものだ。


 軟弱者は許さんからな、俺は。




「アイランドファーミング」によると、植物の種を植えて芽を出させるのは、確実性をきするには随分シビアな方法論があるようで、種類によって植え付け間隔や埋める深さにも注意を払う必要があるらしい。


 ゲームではそんな地味なところが面白かったりもしたのだが、今回はそもそも性質がわからないので適当に浅めに埋めることにした。


 とりあえず俺の持っていた実は大きめの樹になっていたので広めに間隔をとっておく。


 それともう一点、全品種共通の常識として、絶対に水を切らさないこと。これを守らないと絶対に失敗するらしい。



 指であけた穴に種を落としていくおなじみの方法を教えてやると、皆楽しそうに真似をし始めた。



「なんだか楽しいなこれ」

「ああ、こういうのは初めてだ。ナオエ様の考えることは面白い」

「コラッ!お前ら、真面目にやらんか!」



 遊び感覚で全然問題ないんだが村長は真面目なので、そうだそうだという顔をしておく。


 怒られた2体は主に俺のせいでしばらく落ち込んでいたので悪いことをしてしまった。



 ともあれ作業は滞りなく終了し、翌日俺はその後のおよその流れを説明した。


 皆どうにか理解しようと真面目に聞いてくれた。


 こいつらのいいところは自分たちの思考能力をきちんと把握して頭悪いなりに理解に努めようとするところだな。


 中でも特に知力高めの3体はおおよそを理解して幾つか質問しに来るにまで至った。



 俺はステータスを見ながら、この数値って本当なんだなとなんとなく今更認識を改める。



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