エピローグ 僕と彼女とほか色々

 光に告白してから、2年の月日が流れた。


  

 あれから、光の「彼方君が私を嫌いになるまで、絶対誰とも付き合わない」宣言で事態は収束した。


 若葉に掌を返された橋本は、諦めずにコソコソとバレー部を使って何か企んでいた様だが、若葉に悉く潰されひっそり卒業していった。



 僕らも花の大学生。大学構内にあるベンチでスマホをいじって時間つぶし中。

 地元のマンモス大学に、3人通っている。あと幼馴染ーズも。


 夏希は大学入学後、直ぐに彼氏を作った。

 見た目は正直……僕みたいなモヤシ。

 外見は似てるかもだけど、中身は全然違うという夏希だが。

 本当はもっと頭のいい大学に行ける頭脳の為、仮面浪人中って話。

 飯田みたいな本性じゃない事だけ願おう。

 

 今では光のいい友人になっている。


 比呂戸は実はモテまくっていることを知った。  

 強豪バスケ部の花形プレーヤーだから当然か。

 それでも、誰とも付き合っていない。

 本当に、バスケ以外の事興味ないんだな……


 若葉はあれから、変わった。

 光に過干渉をする事をやめ、可能性を模索するべく色々新しい事にチャレンジしている。

 何をやっても人並み以上にできるし、ほんとスーパーマンみたいなヤツ。

 当然光とは仲良しのまま。


 そして、全ての答え合わせをした。

 若葉の嘘過去話は、あながち全くの嘘という訳ではなかった。

 飯田は確かに存在して、すぐに成績が上がったというのは本当だった。

 ただ飯田は光に盗撮まがいの事をして、単純にサクっとクビになっていた。

 勉強のやり方を学んだ光が、その後独学で成績上位をキープするようになったらしいから、教え方は良かったのかもしれない。


 柳田の話も、新聞作りに柳田達が光の家に行ったまでは本当。

 しかし、当然その話を聞きつけた若葉が同行して何も起きなかったらしい。

 その後もしつこく光にちょっかいを出す柳田に、若葉は制裁を加えようとしていたらしいが、暴力事件になる前に光が止めた。

 曰く、「ああいうチャラい人は、本気で大っ嫌い」なので、何かが起きようもなかったとの事。


 僕らが付き合い出した事が広まった事、痴話喧嘩後に電話番号が出回ったのは若葉の仕業ではないらしい。


 ちなみにあの嘘過去話をしたのは純粋に、光の為に僕をテストしたかっただけの様だ。

 守りたい気持ちはわかるけど、やり方は選ぼうや……若葉よ。

 なんだかんだ言って若葉は僕を大変買っていた様で、テストも想定を超えて過熱してしまったらしい。

 本当は飯田の話で終わらせる予定だったが、僕が信じないと突っぱねた為、柳田の話も急遽追加となった。

 橋本を動かした事に関しては、僕憎しで完全に我を失っていた様だ。

 

 この人なら、この試練を乗り越えて光を幸せにしてくれるかも……という気持ちで始めたらしいが。

 嬉しいような……複雑な感じ。

 

 光が若葉に全てを話していたのは僕が止めるようにお願いした時までで、その後は不審に思った若葉が光のスマホを勝手に見ていたらしい。

 そこまでするかい……


 嘘をつかれた事に関しては、責める気はない。

 誰とも付き合った事のない若葉が、あんなに鮮明に光の嘘エロ話を考える事ができたのは、若葉の虐待の記憶がベースになっている可能性があるからだ。

 若葉が一人でAVとかを見て研究していたのだったら、ちょっと笑えるけど。

 もうあの話には触れていないし、光に話すつもりもない。


 ただ全ての呪縛を解いた僕に対して、若葉はおおっぴらに好意を寄せるになってしまった。

「光が許可してくれるなら、いつでもカナタ君とセックスする。3Pでもいい」

 と、公言している……

 当然光から許可は下りていないが。

 最近は髪を伸ばしているし、女らしい所作をするようなってきて、正直ドキッとしてしまう事もある。わざと服をめくって見せてきたりするし……理性を保つのが大変なので勘弁して欲しい。

 

 光も当然変わった。前より仲が深まったのもあると思うが、ものすごい甘えん坊になった。

 お互い実家暮らしの為、大学構内でベタベタ、駅でベタベタ、ショッピングモールでベタベタ……

 おまけにすごいヤキモチ焼きの為、若葉と夏希以外の女子と遊びに行く事は、事前に厳しい審査が入る。

 こんな可愛い子に束縛されるなら、文句なんてないけどね。

 もちろんえっちな事も経験済み。

『相手が彼方君だからだよ』

 と光は言うが、そっち関係も結構好きみたい。


 ただ、大学に入ってもやっぱりモテる。

 大学生は「ワンチャン」を合言葉に、彼氏持ちでも構わず突撃してくる輩が多い。

 若葉には光離れをしろなんて言ったけど、若葉ガードに結構助けられている。

 光は酒に強くない事が分かり、どうしても断れない飲み会の誘いは、若葉を派遣する事も多い。

  

 僕と言えば、毎日のように遊んで帰るので常に金欠だ。

 最近バイトを探しているけど、なかなかいい所が無い。

 光も探していて、「私が食わせてあげる」なんて言ってるけど。



 ポンッ

『バイト決まったよ! メルクリウス!』

 

 光からのメッセージ。

 メルクリウスと言えば駅前にあるレストラン。

 が、ただのレストランではない。厳しい顔面審査を突破した美女が、ちょっと胸を強調した格好で出迎えてくれるお高いレストラン。

 光なら余裕で採用OKだろうけど、あの格好はなあ……


『時給2500円からだって! すごくない?』

『すご! おめでとう。毎日通うよ』

『値段高いから、お金なくなっちゃうよ? 彼方君には、別の場所で見せてあげるから♪』


 バイトが決まったのは嬉しいけど、ちょっと心配だなあ。

 光目当てのストーカーとか誕生しそう。



 ポンッ

『お前の彼女が選択したゼミの教授、結構セクハラで有名らしいぞ? 大丈夫か?』


 吉岡君からのメッセージ。

 言い忘れてたけど、彼も同じ大学。

 確か三好教授とかいったな。草刈正雄を若返らせたようなイケメンだ。

 スポーツ栄養学の権威だからって、選んだみたいだけど……



 ポンッ

『お父さん、今週末帰ってくるんだって。光ちゃん、おうちに連れてきなさいよ』


 母親からのメッセージ。

 光の事は母親に紹介済み。親父にも写メを送ったら、会わせろとうるさい。

 スケベ親父め……


 

 なんか、次々不安の種が舞い込んでくるぞ?



 ポンッ

『カナタ君ごめん! 明日の飲みサーのイベント、行く時間遅くなりそう。2時間くらい光一人になっちゃうけどどうする?』



 若葉からのメッセージ……だけどそれはやばいって!

 明日、大学で一番大きい飲みサーが他の大学も交えての飲み会開催する。

 光は何度も断ったが、男の集まりが良くなるからと女友達に懇願されて参加を決めた。

 光も若葉も今更行かないとなったら、その女友達は針のムシロだろう。

 僕も用事がある。どうする……? どうしようか……


『頼む夏希! 明日ブルフラのイベントに光と行ってくれ! そして男共から光を体張って守って! お前は輪姦されてもいいから、光だけは……‼』


『さよなら』



 さよならと来たか……薄情な奴。

 他行けそうなやつに声かけてみるか……

 最悪警察に「中でレイプ事件起きてます」と通報すれば、イベントが中止になるかも。


 


 悩みの種は尽きない。

 光に集ってくるお邪魔虫は、これからも多いだろう。

 

 でもこれは若葉が話した嘘みたいに、手の届かない過去じゃない。

 未来の、これから起きる事だ。


 結局大切な誰かを信じ抜くことができたのは、僕でも若葉でもなく光だけだった。 


 

 これからはそんな光を、僕が信じて守っていく。

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