バッドエンド 僕は 最後の詰めを誤った

 今週中に結論を出すと言いながら、金曜日まで何も考えずに過ごしてしまった。

 セル戦の前に、のんびり遊んで過ごした孫親子の様に。

 外はもう真っ暗。ベッドの上に寝転がり天井を見つめている。


 別に無策なわけではない。

 余りにも枝分かれし過ぎた思考を一旦捨て、シンプルに考えるためだ。


 なぜ彼女を好きか。

 瞳ちゃんで痛い目を見た僕は、高校に入るまで女子と付き合いたいと思えなかった。

 そりゃあ性欲はあるよ。ヤりたいよ。

 じゃあ付き合いたいかと言えばそうではなかった。

 ときめきというか、恋心のような瞬発力。

 そんなものが不足していた。


 光を見た時、知った時、そんな力が加わった。

 ロケットダッシュ、ブーストジャンプ、そんなイメージで。

 彼女の一番近くに行きたいと、全身が願った。

 夏希からは面食いなんて言われるけど、僕の「好き」はフィーリングに依る所が大きい。


 男同士でよく、どういうタイプの女子が好きか。どのパーツが好きか何て話すけど。

 そういう時は適当に合わせるけど、僕は決まったカテゴリがない。

 そりゃ胸は大きいほうがいいけどさ。

 この子はこの部分がこうだから好き、というのはピンと来ない人間だ。


 光を好きになったのは、美人だからでも胸が大きいからでもない。

 僕が彼女に反応したんだ。

 中学校の3年間では感じなかった感覚で。


 つまり……こんなに好きになる人はもう現れないのではないか。


 うん、そうだ。


 僕には光が、とても貴重で大切な人なんだ。

 彼女の過去を知るのを、なんでこんなに焦っていたんだろう。

 ゆっくりと知っていけばいいじゃやないか。

 

 長い回り道をしてこの結論か。それでもいい。


 ポンッ

 机の上に置いているスマホの通知音。

 思考がクリアになったので、思い切って体を起こす。


『私はあなたを絶対に許さない』


 若葉か……。

 でももうお前は関係ない。僕の結論は決まったんだから。

 僕と光の思いが一つなら。


 ポンッ

 15分くらいの音声ファイルも送られてきた。

 数秒でダウンロードが終わり、ファイルが再生される。



 しばらくは無音だ。

 少し経ってから、遠くでドアが開く音。

 続いて、電気を点けたような音。誰かの家?



「散らかってないかな~、あ、大丈夫そう。先輩、大丈夫でした」

 光の声。


「全然きれいじゃん。女の子の部屋って感じだね~」

「あんまり見ないでくださいよ~」



 男の声は……橋本の様だ。

 リアルタイム? ではない。既に録音済みのファイルだ。


「なんか飲み物持ってきますね」

「おーう」


「お待たせしました」

「ありがとー」


 カランと氷がぶつかる音。


「少しは落ち着いた?」

「……はい。すみません、あんなに泣いちゃって」

「泣きたい時には泣くのが一番だよ。いつでも胸貸すから」

「あはは……先輩の方はどうなんですか?」

「俺も、もう無理かな。お互い冷めちゃって、どっちから別れよって言うか状態」

「そうなんですか……」


「光の彼氏も頭おかしいよ。光を差し置いて浮気するなんて」


  ……は?


「いやー、まだそれは確定じゃないかと……」

「でも俺もよく見るぜ。時田と仲良く話してるとこ。幼馴染ってレベルじゃないね。若葉も見たって。テニスコートの近くの木の裏で抱きあってたらしいじゃん」

「うん……仲はいいと思いますけど……」


 ……おいおいそういう事か。


「でも辛いんだろ。俺だったら絶対光にそんな思いさせないのにな」

「……話をすれば解決するかもしれないのに、昨日も言い出せる雰囲気じゃなくて」

「話できないって事は、やましい事があるって事だよ」

「……」


「なあ光、俺なら絶対お前に悲しい思いさせない」

「……嫌、放してください……」

「俺の事嫌いか?」

「……尊敬はしてます。でも私には……」

「浮気する様な奴だろ。俺なら絶対大切にする」

「……肩痛いです……乱暴にするなら嫌いです……」


「ごめん、ちょっと気が高ぶって」

「……」

「はは。光への俺の気持ちヤバいよ。すっげー好き」

「……気持ちはありがとうございます。でも彼氏がいますから」

「……そーか、そーだよな」



「ちょっと見て」

「え? ……何ですか?」

「ガチガチになっちゃった。光への気持ち」

「……っ!」

「もう大会来週だろ? こんな状態じゃ試合に集中できないよ」

「……」

「頼む! ちょっとヌくだけお願い!」

「ヌくって……どうするんですか?」


「え⁉ キャッ‼」

「ほら、ガチガチだろ? ちょっと手で擦るだけ、頼む」

「え……っと……」

「インターハイ懸かった最後の夏なんだよ。頼む。マッサージみたいなもんだから」

「……えー……」



「……わかり……ました。絶対誰にも言わないでくれるなら」

「絶対言わない。てか言えねーってこんな事。一生誰にも話さない!」


「いいよ、いい。あれ、光って左利き?」

「この体勢だとちょっと……こんな感じですか」

「いや、すっげーいいわ。もうちょっと強くても」

「こう……ですか?」

「めっちゃうまっ。光才能あるよ」

「クスッ、そんな褒めいいですから」

「いやまじまじ。めっちゃ気持ちいい」


「ちょっと疲れた? ごめん。気持ちいいけどなかなか出なくて」

「大丈夫です」

「もうちょっとネタが無いとな……悪い、ちょっと脱げない?」

「脱ぐ? 服をですか……?」

「ちょっとズラすだけでもいいから。そっちの方が早く終わる」

「……」


 シュル……


「こんな感じでいいですか。これ以上は……」

「オーケーオーケー。あと体勢変えようか。寝転がっていい?」


「そうそう、腿の上に跨る感じで」

「こうですか……?」


「うわっ、太もも柔らかいね~。いい筋肉」

「ちょ……っとくすぐったいです」

「ごめんごめん。すべすべで気持ちいい。ちょっと撫でるだけ」

「はい……んっ」


 シュッ……シュッ……シュッ……


「出そうになってきた。ちょっと頭下げて」

「? ……はい……んむッ‼」


 クチュ…クチュジュブッ……


「ちょっ……先輩! キスなんて!」

「悪い。この方が早いから。初めてじゃないんだろ?」

「でも擦るだけだって……」

「あー、もう一回」


 ムチュル……クチュ……ヌチュ……


「せんぱ…い! やめ……!」

「もー我慢できねえや」


 ガタッ、ガタタッ


「痛っ……腕」

「あれ? ちょっと濡れてる?」

「……! 違いま……す!」

「だってほら、ちょっとシミになってる。えっちな気分になった?」

「……」

「なあ、ここまでしちゃったらもう浮気だわ。どうする」

「……! どうするっ……て」

「最後までするしかないだろ」

「無理です! それはダメです!」

「チッ……わかった。じゃあ交代させて。光が許可するまで絶対最後までしないから」

「交代……?」

「俺が触る」

「さわ……る⁉」

「服脱いで、ベッドに寝て」

「嫌、無理です」

「じゃあ彼氏に言っちゃうよ? 光にこんな事してもらったって」

「……! ひどい、ひどいよそんなの……」

「頼む、これが終わればすぐ忘れる。明日から大会に集中できるから!」




「……最後までは、しませんよ……?」


シュル……シュル……パチッ……


ギシッ、ギシシッ……


「綺麗だ」

「電気……消してください」

「俺、目悪いから」

「あっ」

「すっご、手が沈むよ。何カップ?」

「ん……っく……Fです」

「すごっ、ほらたっぷたぷ揺れる」

「あっ……そんな触り方」

「俺、おっぱい星人だからしつこいよ~」

「んっ……んっ……」


「あっ……んっ……く……」


「くっ……あっ……ウッ…」


「うう……恥ずかしい……です」


「触るだけっつったから、次行くね」


ギシッ…ギシシッ


「あっ……! そこも……ですか?」

「当たり前じゃん」

「あっ! くすぐったいっ……です……」

「綺麗な色だね~。ほとんど使った事ない感じ? 処女?」

「…………はい」

「その割には反応いいね。これは?」

「ああっ! くうっ! んんっ!」

「もしかしてオナニー好き? 感度良すぎ」

「そんな……んっ……!」

「おっぱいと同時にいくよ~」

「あああっ! やだっ! クリクリ……! いやっ!」

「おっぱいも感じるね~」

「せんぱいっ……もう……」

「いつやめるとは約束してないからね~」


「あれ、結構湿ってきた。てか、溢れてきてない?」

「やめ……て、見ないで……ください」

「じゃあ指入れるね」

「……! 中は……ダメッ……です!」


クチュクチュクチュ……


「え? だってこんなに濡れてるよ? 指もすんなり入ったし」

「あっ、あっ、あっ、だって、これは……」

「これは?」

「これっ……えっち……うっ……あっ」

「えっちなのかな? まだペッティングだからね」

「うっ……でも……」

「気持ちいい?」

「言えま……せんっ……んっ、んっ」

「じゃここは?」


クチュッ……クチュッ……クチュッ……クチュッ……


「あっ! ああんっ、もうっ、おわりにっ」

「気持ちいいって言わなきゃやめない」

「……ッ、うんっ、っくう、きもち……っ、いいです」

「じゃあ早くするよ」


クチュチュチュチュチュチュチュチュ……


「あっ、あっ、あっ、なんっ、で、あん! ああっ!」

「どうする? 最後までしちゃう?」

「あっ、あっ、あっ、しま、せんっ」

「じゃあこのままイっちゃう? ある意味えっちよりすごい事したことになるよ?」

「嫌、嫌、あんっ、あんっ、あああん!」


クチュチュチュチュチュチュチュチュ……


「もうっ、ほんっ、とうに……っ、ダメッ、あん、あああっ」

「強情だなあ。じゃあイクか? 彼氏以外に先にイカされちゃうよ」

「まっ……って、まってください……っ」



「ハア……ハア……うう……」

「光さあ、このままじゃ本当終わんないよ?」

「ハア……ハア……でも……」

「ここまでやっちゃったら、もう一緒だって。ちゃんとゴムあるから」

「……」

「ほら、ちゃんと付けました。もう終わろう? お母さん帰ってくるだろ? 俺も帰ってバレーの事考えたいし」



「……………はい」



 ギシッ……



「今日の事は全部忘れるから。だから、我慢しないで思いっきり声出して」



「あんっ‼ うう……はいっ……てる……」

「入ってるよ~」

「あまり……はげしくは……」

「大丈夫。まだゆっくりしか動かないから」


 ギシッ…… ギシッ……


「くうう……」

「痛くない? 大丈夫? 痛かったら言ってな」

「……はい……うっ」


 ギシッ…… ギシッ……


「ああ……ううっ……」

「気持ち良くなってきた?」

「まだ……わかりま……せん」

「光の中、すっごい気持ちいい……好きだよ。光」


「少し早くしてもいい?」

「……はい」


 ギシッ…… ギシッ…… ギシッ……


「ウッ……、くう……、あう……」

「キスしてもいい?」

「……は……い……」


 クチュ…クチュジュブッ……

「んむっ、むちゅる、あんっ」


 ギシッ……ギシッ……ギシッ……ギシッ……ギシッ……


「ああん! ああッ‼ ううッ‼ せん……ぱいっ!」

「光……光……愛してるっ」

「ああっ! うん! あんッ! あっ!」

「光っ! 俺の彼女になれよ! 光ッ!」

「くうっ! ええっ! そんなっ! ことっ!」

「言って! 言ってくれなきゃ終わんない!」

「ああん! ううっ! はい……っ! なります! 先輩の……っ! っつ…‥かのじょ……に!」

「絶対幸せにするからな!」

「はいっ……あああっ…‥もうっ! ダメッ……! あん! あん!」



 そこでファイルを閉じた。



 一体僕の何がいけなかったんだろう。

 もう何も考えたくない。

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