異種格闘技大会編

学費高過ぎ!

ーーー俺が期待していない俺を信じて期待してくれている人がいる。無責任な言葉なんかじゃなくって俺のために感情的になって応援してくれる人がいる。


所持者の心を覗くことができるカノンだからこそ、その言葉は心に響いた。


「最近熱くなってばっかりだな。」


カノンのその言葉は少しだけライトに期待する勇気をくれた。


応援に応えたい。そう胸の奥で燃え尽きていたはずの野心が叫ぶ。


けれどいくら強く思っても状況は変わらない。


自分は弱いままで、学費は高いままだ。


自分は変わっても周りの状況は何も変わらない。


だから変えるためにも動くしかなかった。


というよりも動きたくってたまらなかった。


ライトはカノンに何も言わず、カノンを置いて部屋を飛び出した。


「おい!ライト……」


不安そうな表情を見せるカノン。


その声はどこか弱々しく感じた。


ライトは息を切らしてギルドに向かう。


ギルドの前まで来て上下する肩を抑え、一度落ち着こうと大きく深呼吸をして無理やり呼吸を整える。


ギルドに来るのはいつぶりだろうか?


最後に来た頃を思い出すと、最後に来たのは皆がまだ生きていた頃だったまで遡ることに自分でも驚く。


長い期間来なかったため、少し入りづらく感じていたギルドの扉を力強く引く。


入って右には集会場、左には受付、真っ直ぐ行くと掲示板があった。


賑わっている雰囲気だったギルドの中はライトが入ると雰囲気が変わる。


相変わらずのうるさい場所ではあったが、半年近く来なかったことで引退したと思われていた最年少ルーキーが再び1人でギルドに来たことによる好奇の目。


なんだか皆が自分の噂をしているような気がしてライトは嫌な気持ちにはなったが、そんなことは気にしないようにして掲示板に向かう。


ライトはただひたすらに掲示板内の自分で受けれる依頼を探した。


どこを探してもパーティでの募集ばかりで、ソロでも受けられそうな依頼は簡単で低収入なものばかりだった。


それでもライトは諦めきれず、依頼用の掲示板だけじゃなく連絡用の掲示板にもくまなく目を通した。


そして一つの希望を見つける。


「町内異種格闘技大会…。優勝賞金100万、準優勝で50万、準準優勝で10万ディアルか…。」


らいとは必死に頭を回転させて計算する。




---アミティエ学院では入学金40万ディアル。一年生の授業料が80万ディアル。


自分の貯金が120万ディアル。


冒険者を始めて二年で120万として考えると、一年で60万。いや、ソロだから30万…いや、分ける必要もなし準備費も削れるから45万か?王都だから金払いがいいとすると魔石集めと依頼でやっぱり年間60万は行ってほしい。


貯金は尽きるけど生活費と残りの授業料考えたら三年制の学院だし学生として勉学に励むなら優勝は欲しい……。




ライトは張り紙を破って家に帰る。


家に帰ると両親ともに唐突に走って家を出るライトに驚いたようでリビングから声がしたが、一番にカノンに伝えたいと思いライトは無視して階段を駆け上る。


帰ってくるとカノンは眉を少し寄せて心配しているような表情だった。


「これだよ!カノン!」


ライトの叫び声にカノンとライトを追って階段を登ってくる母が驚く。


「異種格闘技大会?」


「そう!これで優勝取れたら通えるはずなんだ!」


ライトがやる気になって帰ってきたのを見てカノンは目と鼻が赤くなっていく。


「ライト……。お前はぁ!!!お前はぁ!」


赤くなった顔を隠すようにカノンはライトに抱きついた。


カノンはライトと身長差があったため、160cmのカノンがライトに思い切り抱きつこうとしたことで思い切りライトの顎がカノンの頭に当たった。


「痛ァ!?な…なんだよカノン!」


唐突に顔を赤くして抱きついてきたカノンに驚いて一瞬動揺する。しかしカノンは気にしない様子で抱きついたままだった。


剣のはずなのに伝わってくる熱がライトにそんな事どうでもいいと思わせた。


ライトは抱きついて泣くカノンの頭に手を置いて、

「まぁ、俺なりに頑張るよ。」

と自分に言い聞かせるように呟いた。




町内異種格闘技大会まで約1ヶ月。


蒸し蒸しとした雨の季節が終わり、夜には光につられて様々虫が窓に張り付く季節になっていた。


「なぁ、よくよく考えてみたらだけどさ。うちの町って冒険者の街って呼ばれるほどには有名で、留学目的や力試しで来る人多いんだよ。

これ優勝するのだいぶ骨が折れそうじゃない?」


ライトは熱に浮かされてそのまま応募してきたが、改めて現実を目の当たりにして自分の状況を理解する。


それに返事をするカノンは泣き止んですぐの顔で、鼻声だった。


相変わらず鼻のてっぺんと目を赤くして返事をする。


「まぁ、それはそうだろ……この街だと何番目くらいなんだ?」


「そんなの競ったことないから分からないよ。

でも冒険者のランクで言ったら街で15番目くらいかな?今月はずっとライと一緒の時以外ソロだったし、ダンジョンにもあまり潜ってなかったしね。」


「冒険者のランク?」


ライトのベットの上に座るカノンは、ランクについて初めて聞くような様子を見せる。


ーー昔はなかったのか?それなら仕方ない説明してやろう。


ライトはカノンに教えることが初めてでなんだか嬉しくなって椅子から立ち上がり説明を始めた。


「そそそ、冒険者ランク。依頼やモンスターを難易度ごとにランクをつけて、1ヶ月ごとに達成できた依頼の難易度の平均値をパーティのランクってことになるらしい。んで基本は10段階評価で……」


「まてライト。だいたい分かった。何番目か知ればいいんだ。」


カノンは急に饒舌になるライトに一瞬動揺してとめる。


話を聞いてカノンはあることに気がつく。


「これってソロ以外……」


なにか呟いていたカノンの声が聞こえず、ライトは聞き返してしまう。


「どうしたのカノン?」


ライトの声は届いておらず、カノンから返事はなかったためライトはそっとしておく事にした。


「俺は図書室でもにでも行ってこよ。」


ライトは考えている様子のカノンを置いて1人で図書館に向かった。


真夏の太陽の日差しはもはや痛いと感じるほどだった。


午前10時、夏になるとこの時間からの日差しがとても辛い。


大量の汗をかいてライトはなんとか図書館にたどり着くが、室内だからと特別涼しいわけではなかった。


「なんか涼しくなる魔法とかないかな〜?」


独り言をつぶやくライト。


「あるわよ」


「!?」


いつもは自分しか人のいない図書室から返事がしてライトは驚く。


声のする方に視線を向けるとそこには知っている顔。


知ってる青黒い髪にカノンとおなじフード付きのマントのようなものを被った少女がいた。


「えっとー、たしかライのパーティの方でしたよね?

森で俺の事拾ってくれた、」


「やっぱり私の事見えてるのね。」


「え?」


ーーあの時見えないフリしたの怒ってるのか??


少女は座っていた椅子から立ち上がり、ライトの下へ向かって来る。


その顔は無表情で冷たさすら感じた。


「ついてきなさい。ライトグローブ。」

「え?あっはい!」


ライトは大人しくその少女について行く事にした。


外は相変わらず暑くライトは汗だくのままだったが、少女は汗ひとつかいた様子はなかった。


2人は図書室から歩いて五分ほどの公園へやって来た。


村の子供たちが遊具を使って遊んでいる。


公園に来ると少女は足を止めてライトの方に振り返る。


「えっと、どうしたんですか?」


「?。あなたが涼しくなる魔法知りたいって言ったんじゃない?」


この時ライトは分かった。


ーーーこの人ライと一緒で生真面目すぎるタイプの人だ!


「あなた風魔法か氷魔法で気温を変えられる?」


「いや、俺魔力量少ないので出来ないっす。」


「生活魔法なら出来そう?」


生活魔法という言葉のニュアンスから誰でも出来そうだと思われがちだが、実際は天才が生活を便利にするために使ってる魔法でライトにとっては雷魔法より難しいことだった。


「水を出したりとか簡単に火を出すとかは出来ないです。」


「あなた魔法習ったことないでしょ?どうせ今まで絵本しか読んでこなかったんじゃない?」


ーーーえ?バカにされてる?確かにほとんど絵本しか読んでないけど、絵本だけで博士課程は取れる自信あるぞ?


少女は眉間にシワを作って不満そうに教える。


「魔法で水を作る時、無から作るってイメージを持ってるでしょ?だから「出す」って言う。

水は空気中の水蒸気や水分子などを集めて作るからそれを知ってる人は「出す」じゃなくって「作る」っていうの。」


--水分子?水蒸気?んあ?


ライトは聞いたこともない単語を言われて混乱する。


「もういいわ、詳しくは化学の勉強でもしなさい。私は見えていることさえ分かったら十分だったから」


「あ、はい。」


そう言い捨てると少女はライトを置いてどこかへと行ってしまった。


興が削がれたライトは図書室に向かう気が起きなかったが、とりあえず図書館に向かい化学の本を探してみた。


しかし、絵本の割合が4分の1を占めるようなこの図書室。


学びたがる人の少ない化学について書かれた本は一冊もなかった。


そのままライトは自室に帰る。


「聞いてくれよカノンー。」


ベットで横りなりながら前回ライトが持ち帰った図書館の本を読むカノンに、図書室であった少女のことについて話した。


「ああ、説明してやろうか?」


「え?カノン知ってるの!?」


「まあそれ開発したの私だしな。」


あらぬ返事に言葉がつまる。


「え?んじゃもっと早く教えてよ・・・。」


「え?自分で開発した方がうれしくないか??」


予期せぬ言葉にライトは驚きを通り越してため息が出た。

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