有難迷惑
カイトと別れ次の層への扉が現れた。
10層は小さな部屋で、橙色に光る松明に照らされた8畳程の部屋には転移装置と長方形の無機質で大きな石しかなかった。
整った長方形の形をしている黒い石はライトの臍(へそ)程の高さがあり、机として使えそうな高さだった。
何かの作業台なのだろうか?
ライトは石の上に登り、なんとなく横になってみるが何も起きなかった。
「何してるんだ?ライト…」
「いや、横になった時と同じくらいの長さだなって思って…」
「多分お前がクソガキだからだ。一般男性には小さすぎるだろ」
ーーークソガキ言うな。
「俺の身長平均くらいだし!普通くらいだろ??」
数十分かけて10層についてくまなく調べたが、特別怪しいものは石の机しか無かった。
強いて見つけたものと言えば壁に大きく掘られた1という数字。
そして小さな宝箱。その宝箱は金でできた骨組みの光沢が強く、これだけで売れそうなほど輝いていた。
宝箱の形はよくダンジョン内で見かけるものと同じだった。
ライトは小さな宝箱を開くと、中には3枚の紙が入っていた。
表紙には「意外と使える雷魔法」と書いていた。
ーーー意外とってなんだ意外とって。
確かに魔法大全には大全にもかかわらず、魔法が20程しか載っていなかった雷魔法。
不遇魔法なのか?
石について色々調べたかったが疲れが溜まっていたライトは転移装置で森まで抜けることにした。
森に出るといつの間にか梅雨入りしていたようで、雨が降っていたが晴れていた。
「日向雨だ…。」
森の木々の雨を弾く音が聞こえる。
ノビと共に大きく深呼吸をする。
「雨の匂いだ・・・。」
ダンジョンのある洞窟を抜けて辺りを見回すが、ライの姿はなかった。
ーーーさすがにもう村に帰ったか。
泥濘(ぬかる)む地面を踏みしめながらライトは転ばないように村に帰った。
森と村を分ける大きな門は開かえており、門の向こうにはライトの両親が傘をさして待っていた。
ライトは両親がいると分かると、遠くから手を振って叫ぶ。
「ただいま!」
走って家族のもとに駆け寄る。
両親にライトは抱きつく。
こうやって抱きついたのはいつぶりだろうか?
家族に対して持っていた罪悪感はいつの間にか無くなっていた。
1ヶ月ほど経ち梅雨が明けて本格的に夏が始まろうとしているある日の夜、突如家族会議が始まった。
ダンジョンから村に帰った頃にはライはもう王都に帰っていた。
「報告は手紙でする」とダンジョン内でのことを村長は文章にまとめて王都に向けた手紙を書いてくれた。
問題はその返事だった。
まだ内容を知らないライトは暑さからくる汗と冷や汗が混じり、去ったはずの雨季の雨が自分にだけ降り注いでいるようだった。
セミの鳴き声がやけにうるさい。
母が喋り出そうと息を吸う音にライトはビクッとする。
「今日話すことは他でもありません。
この手紙の内容についてです。」
父が持っていた手紙をライトに渡す。
暫し無言の時間が生まれ、このタイミングで読めと言われているようだった。
封筒の中には2種類の紙が入っていた。
そのうちのやたら紙質の良い方の手紙を読む。
「え?推薦状!?王立アミティエ学院…。」
両親の瞳孔が開いて少しにやけるのを我慢している気持ち悪い顔。
期待されているているのは分かったが、絶対に言ってはいけないことを言ってしまった。
「どこだよアミティエ…」
ライトは鼻で笑うようにボソッと言い放ち顔を上げると、両親はさっきまでとは対象に絶望を見たかのような顔をしていた。
「ライトって教養の部分がかけているわよね。」
「なんでこいつが推薦貰えたんだろうな?」
「え?俺がおかしいの?どこだよアミティエ学院」
「「国で2番目の学園だよ!!」」
両親によると、この国2番の学園がアミティエ学院であるらしい。
ーーーこういう時って国で1番の学園に案内されるものなんじゃないんだ。
王都の学校…。
ライトの中にその選択肢は頭の片隅にあった。
ダンジョンを1つ攻略しきれた今、更に強くなるためにはこの街を出る必要があることはライト自身分かっていたためだ。
しかし行きたくても行けない理由もまたあった。
その日の夜、ライトは1人で悩み始める。
「何を悩んでいるんだライト?
今より強くなるためには行くべきだとわかっているだろ?
王都に行けば国内最大の図書館も世界最大のダンジョンだってある。
自分でもわかっているだろ?」
カノンから必死さが伝わってくる。
実際こんな平民に推薦が来るというのは滅多にない。
こんなに美味しい話を蹴ることなんて考えられないほどにだ。
「まぁそうなんだけどさ、学費だよ学費。
それにここは剣士のコースあるらしいけど、俺って決して強いわけじゃないから推薦貰っといて入学試験で落ちましたなんていい笑いものじゃないか…。
裏口入学なんて言われたら泣くぜ?」
「学費はいい成績取ったら免除されるだろ!?
それに剣ができないから行かないじゃなくて、出来るようになるために行くんじゃないか!
学校ってそういうところだろ!?」
説得に熱が入り熱くなるカノンにライトは腹が立った。
ーーーそんなこと自分でも分かってる。
「国で2番目に頭が良い学園で上位の成績が取れるわけないだろ!
それに学園っていうのは、出来るやつがより出来るようになるための学園だ!」
「ライトは諦めるのが早すぎる!学費がないなら勉強して勝ち取れよ!剣が出来ないなら出来るようになればいい!」
ライトもカノンの言い分を理解している。
学費が足りないなら勝ち取ればいい。
実際そうだが、そんな単純な話じゃない。
人間は誰しも怠惰だ。
自分は踏ん張り時ですら踏ん張ることも出来ない。
理想を追い求めていつだって失敗してきた。
だから分かっていた。自分に期待してはいけないという事を。
「俺には出来ないよ!
自分に期待なんてするから失敗するんだ!
期待しなかったら辛い失敗だってしなくって済む!
ただただやりたい事を延々と続けてそんな成長だって構わないじゃないか!
あの時も、俺が…。俺が…!」
ヘンリとダンジョンの層間で助けが来るのをひたすらに待っていたら、ヘンリはまだ生きていたのではないのか?
自分が「もしかしたらあのモンスターを倒せるかも」なんて期待しなければまだ2人で生きていたのではないのか?
そんな思いがライトから溢れるように出てくるが言葉にならなくって涙が溢れてくる。
その言葉とライトの心情を読み取ったカノンは黙って悔しさを共有するように下唇を強く噛む。
「ライトは自分に自信がなさすぎる!もっと自信を持て!」
そう言いたかったがライトには綺麗事を言っても届かないような気がして何も言えなかった。
「・・・・・・。」
「・・・。私は知っている…。お前がなんだかんだ言って勉強が好きなことを、実践の中で勉強したことを見つけた時には楽しそうに私に知らせてくれるからな…。
私はお前がほんとに強くなりたいと思っていることを知っている。
私はお前が実は野心家であることも知っている。あんなに恥ずかしがって理由を教えたがらなかったのは、本当に叶えたい夢だったからだろ…?」
ライトは立ってうつむいたままだった。
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