二人の剣士

その騎士とライトの戦い方は似ていた。


二人とも戦い方は剣一本で攻撃し、盾は持たず反射神経とスピードでモンスターの攻撃を当たらないようにして避ける。ヒット&アウェイの戦法で戦い続けていた。そうすると大きな問題が生まれる。


「連携の取り方わかんねー!!」

「どうしたのライト?」

「どうしたじゃないよ!俺ら剣士二人だから全然連携取れてないじゃないか!」


唐突に叫ぶライトに不安な表情をする少年。


六層に入って4日が経っており、その長い時間で騎士の少年はライトを呼び捨てするような仲になっていた。


この階層は昼間はダンジョンの中の鉱石が明るく光りダンジョン内にもかかわらずまるで太陽が降り注ぐ地上のように明るかった。対照的に夜は薄暗く青い光を放ちまるで夜のように感じた。


「僕剣士と二人でパーティ組んだことないもの。」

「普通ないよ!俺もない!」


この二人は決して道に迷っているわけではなく、少年の「マップを作ったら報酬をあげる」という言葉を聞いて迷わないように時間をかけてマップを作りながら層間の扉を探していた。


食事はこんな植物だらけのジャングルの為、これまでの仕事の経験から食べれる植物を知っていた騎士が色々教えてくれた。


しかし彼の用意する食料は食べれる植物ではなく食べても死なない植物だったためライトはすぐにお腹を崩すなど体が体調に訴えかけてきたが2.3日も経つと不思議と体は慣れてきた。


二人は昼間のジャングルで並んで歩き探索を進める。


ジャングルと言えど、人が通るための道がありそこを二人で歩く。


「極秘って言うけどさー、見た感じダンジョン探索とあわよくば攻略が目的だろ?


ダンジョンの変化なんてそんな高い頻度で怒るものじゃないもんなー」


少年は図星だったようでライトは無愛想な氷の仮面に焦りが見えたように感じた。


「いい加減名前教えてよ」


歩いてマップを作りながら、ライトはもう一度頼んでみる。

迷っているのかしばらく沈黙が続く。


さすがに四日間もの間、決して安全とは言い切れない未開拓の地で一緒に過ごしてきた。

「パーティになったわけじゃない!」と言い切ったが、さすがにこれをパーティと言わないわけにもいかない。


ライトを品定めするように見つめる。ライトは目を離してはいけない気がして目をそらさずにじっと少年を見つめる。


小さく溜め息を吐き、仕方がないと言いたそうな顔をしながらライトに教える。


「僕の名前は…ライ…。」

「え?あー、らい?」


本当に教えてくれるとは思わなかったライトは思わず立ち止まってしまう。


その名乗る声はとても小さくライトは一瞬聞き返そうとしたが、ライの見慣れない素振りから勇気を出して名乗ったのかもしれないと感じて確認するように聞き返した。


ライはコクンと小さくうなずき、ライトに背を向けて歩き出した。


「ライね。ライ。おっけ!覚えた!定着させた!名前の定着は早い方がいい!」


ライトは先に歩き出したライの隣へと小走りで駆け寄り自分にも言い聞かせるようにライの名前を呼ぶ。


「恥ずかしいからそんなに名前呼ばないで。」

「お、おっけ!ごめんごめん。」


しばらくライトはそっぽ向かれて不機嫌にしてしまったかもしれないと気落ちした。


「最後にほんとどうでもいいこと言っていい?」

「ん、何?」

「俺らってライとライトなんだね。よし。ありがとう。気が済んだよ。」


それからしばらく口をきいてもらえなかった。



ライトたちはダンジョンに生えている岩の一つ一つを反時計回りに沿って歩く。

そうしてマップを五日間かけてマップ完成までもう一押しというところまできた。


「ようやく明日にはマップ完成だ!」

「うん。ありがとう」


その日の夜。ライトたちは焚き木を囲むようにして座り、ライトは両手を上げて大きく伸びをする。


「マップは完成するけど、層間の扉は見つからなかったね。本来は12階層まであるらしいけどダンジョンの変化でここが最下層になったのかな?」

「その可能性は少ないと思う。マップの変化は最近多くなってきているけど、階層の数が変わったって報告は聞いたことないから。」

「ってことはまだ行ってない場所があるってことかな?」

「ううん。違う。ちゃんと岩沿いに歩いたし目印も付けたから確認漏れはない。」


自信をもって首を横に振るライに「すごい自信だな、」と感心するライト。


「ちょっとトイレ!」


ライトはそう言ってカノンを持ってライに声が聞こえないであろう範囲まで離れた。


「生きてる?カノン」


ライトはライと合流してからカノンが全く姿も現さず、しゃべりもしないことからいなくなったのではないだろうかと心配していたが、そんなことを知らないカノンは「呼ばれたから出てきた」という相変わらずの上からものをいう態度で姿を現す。


「ああ、生きてるぞ。」

「どう思う?」

「まぁ確かにマップの確認漏れはなさそうだな。」

「それじゃあやっぱり、ここが最下層ってことになるのかな?」

「んや、もうちょっとくまなく探せ。私はなんとなくわかったぞ?」


カノンは何かを思いついている様子だったが、何も教えてくれなかった。

教えてくれないカノンに少し不貞腐れながらもライトはライの元へ戻る。


「ん、ただいまー」

「ん、長かったね」

「でかかったって話する?」

「いや、いい」


この五日間でライトが分かったライの事はいくつかある。一つはダンジョンの変異の調査でこの街に来たということ。二つ目は名前がライだということ。三つ目は下ネタが苦手ということだ。


そういえばヘンリも下ネタが苦手だったな。なんて考えながらそのまま眠くなって地面に体をぶつける勢いで横になる。


剣の姿のカノンと平行な形で横になるっているライト。


--そういえばしばらく帰ってないな、父さんと母さん、心配させちゃってるな。


眠気に負けてそのまま瞼を閉じ、眠りについてしまった。


ライがライトと睡眠を交代するために起こしに来た。


「ライト。起きて。」

「ん?ん…んん。わぁった。」


ライトは目をこすりながらお湯を沸かすためにダンジョン内にあった川で水をくむ。

川から戻るとライは寝ていた。


お湯を見つめながらライトはぼーっとする。


「明日見つからなかったら帰るか。」


この五日間は計画したものとは違ったが意外と楽しかった。


ライトはもともと一人で探索するつもりで六層に訪れていて、ライト自身もその実力があるということを五層のボスである鳳凰を倒して分かっていた。


ライもまた、一人でボスに挑みに行くほどの実力者であったため今回のダンジョン攻略はライトにとって勉強にもなり、またパーティでの活動の利点を改めて知らしめられるような旅となった。


ぼーっと青く光る鉱石たちが明るい色に変化していくところを眺めながらライトは考える。


「何か夢の中で思い出したんだよな~。」


なんだったっけ?全く思い出せない。


そうこう思い出そうと頭を回転させているうちに、時間が経ち鉱石たちは青白く光る。


「ライ、そろそろ時間だよ。おきろ~」

「ん。んん。」






マップ制作最後の日を迎えた。


ダンジョンの中に天気なんてものは無いのだが心の中は晴れだった。


心のどこかでようやく帰れるという気持ちがあったのだろう。


あとは一個岩を回るだけで一応周りの岩の形や実際の探索から何となくのマップは作れるし想像できるのだが、ライの真面目さから「人の命がかかってくるものだからちゃんと作りたい」とライトは説教を食らってしまった。


こうしてその日の午後には二人でマップを完成しきってしまった。


「層間のドアがないけどやっぱりどこかに探し漏れがあったのかな?」

「ううん。僕たちはちゃんと探した。」

「それじゃあ、ここが最下層?」

「・・・」


ライは黙り込んで俯いてしまう。


「まぁ俺も多分ここが最下層ではないと思ってる。実際ないのに変な話だけどね。」


落ち込む様子を見せるライに、もうちょっと探すのを付き合うと遠回しに提案した。

実際ライト自身、そう思うに至る理由があった。


ふと、ライがライトの方を見る。ライトは左手で反対側の脇腹をつかみ右手の親指以外の四本で顎を触って俯いていた。


「モンスターのレベルも高いわけじゃなくってワンパターンだったし、何かどこかに仕掛けがあるのかもね。」


ライトは必死に考え出した自分がここが最下層ではないと思う理由を伝えた。


「たしかにそうなのかも、もう一回見て回る?」

「んや、いったん帰ろう。さすがにそろそろ肉を食べたいや」


ライトにとって六日間ものこの度は初めての長期遠征であり、疲れがピークに達していた。

ライもライトの様子を見て一度帰ることを了承した。


二人はマップを書き終えてから荷物をまとめて6層を後にすることにした。

初めての長期遠征でライトはこの層に愛着がわいていた。


自然の音しか鳴らないこの層の雰囲気にも酔っていたのか、


「絶対扉見つけてやるからな!」


ライトは周りに聞こえないような小声でそう決心を口にした。


一度通った扉の前までくるとライトは後ろを振り返り一礼をする。


「ライトーおいていくよ~」


振り返るすでにライは扉に手をかけていて、「雰囲気もなにもないな」とおもったライトは「おいちょと待てよ!」と言いながら駆け足でライを追いかけた。


ライはライトを放って体重をかけて重たい扉を開こうとする。


層間の扉を開くと五層へと続くのぼりの階段ではなく、そこにあったのは下りの階層だった。


「え、あ~、どうする?ライト」

一瞬呆気にとられたがライはすぐにライトの心配をする。


「まぁー行くしかないよね?」

ライは振り向くと、明後日の方向を向きながら虚空に向かって返事をするライトがいた。


「肉は、可哀想だから帰ったらご馳走してあげるよ。」

「・・・それはどうも、ありがとう。」


ライトは大きいため息をつき、下の階層に進むことを決心した。


層間の扉を跨ぎ、下の階層へと進んでいくにつれて諦めがついていき面倒くさいという気持ちもなくなっていった。


数分も階段を下りているうちに七層の扉についた。


「今回はなんだか階段の数多い気がしたや。」

「多分それはライトが乗り気じゃないからだよ。」

「それも、あると思う。」


二人でドアを開ける。


目の前に広がっていたのは広い草原だった。


木の一本も生えておらず、目測で一キロ先には扉があり、前の階層に比べて高い天井があった。

天井には無数の鉱石がこの層を照らし、六層同様に真昼のように感じられた。


避ける場所も逃げる場所も隠れる場所もない、この冒険者にとって戦うには明らかに不適切な草原の真ん中には大きなゴーレムがいた。


無機質なゴーレムとライトら二人しかいないこの空間は無音で、二人は空間ごと無機質になったかのように感じた。


「んも~~~!このゴーレムあからさまに「自分ボス級です!」って顔してやがる!!めんどいって!」


ライトはこんなに疲れている様子にもかかわらず、勝てるつもりでいたことにライは驚いた。


「僕ライトの事少しわかった気になってたかも。」

「ん?ちゃんと見たら意外とイケメンだろ?」


ライは黙る。


「おい、どうして黙るんだよ!」

「・・・二度と褒めない」


ライは小声で聞こえないようにツッコミを入れた。


「まぁ、じゃあ!パーティ歴6日の!俺らの連携の集大成!見せちゃいますか!」

「なんか弱そうだからやめて、気が抜ける。」


二人は剣を抜く。


黒く輝くライの剣は六日間使っていたにもかかわらず相変わらずの切れ味で、六層のモブばかり倒していて気が付かなかったがゴーレムが豆腐のように切れるその切れ味を見てその剣が特別な剣であることに気が付く。


相変わらずのつたない連携ではあったが、ライトが先行をして攻撃を受けた瞬間にスタンを入れる。


スタンを食らった瞬間にライが何度か攻撃をしてコアが見つかるまで続ける。


二人にとってはただの単純作業のような戦いだった。


「一方的だったな。ってかライのその剣ってさ、なにか付与魔法とかかかってるの?」

「あまり詮索しないでほしい。」

「何となくそういう風に答えると思ってたよ」


ライトはゴーレムを倒した脱力もありながらも集中力が途切れないように、長く細く大きくため息をつく。


それにムカッとしたライが反論する。


「それを言うならライトも雷魔法使えるの黙ってた。」


隠していたつもりはなかったのだが、確かにライトはライに精霊術について話していなかった。


「気にしないで、ただお互い信用しきれてなかったってことだから。」


そう言葉にするライの表情は悲しそうだった。


「そんなこと・・・あるかもしれないわー。確かに言われてみれば俺らがあったのこの間だし。こんなもんよ、こんなもん。なんか忘れてたや。ふつう仲良くなって信用できる身内と一緒にパーティ組むもんだもんな。」


「そんなことないよ」と否定しようとしたが、ライとは対照的にライトはおかしくなって少しずつ笑えて来てしまった。


「順番ごちゃごちゃじゃん!」


ライトが笑っているのを見て、ライはばつの悪そうな表情を浮かべる。


ライトがゴーレムのコアを剣の鞘で粉々にすると、次の層への扉が開かれた。


「今回の層の攻略、俺史上最速なんだけど!」


うきうきとした声音でライトはライに報告する。


扉を抜け、階段を下る。層間の扉を開けるとまた草原が広がっていた。


モンスターは周りにはおらず、聞きなじみのある声が聞こえた。


「「ここから先は一人しか通れない。どちらか一人を選べ。他の者は地上に返す。」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る