七色の鳥、弱い精霊術

精霊術の練習を始めて3日目ほどが経った。


ライトはその間ダンジョンには潜らず、ずっと森の動物相手に精霊術の練習をしていた。


ダンジョンの一件の後からギルドに顔を出すことは無かったため、引退したのではないか?という疑念をギルドから向けられていたらしく自宅にハガキが届いていた。


父はいつも家にいるわけでもなくギルドに行っているわけでもないライトに対して、冒険者を辞めたのではないのかと心配していたそうであるがライトは気が付かないふりをした。


日課の素振りもなんだかんだで続けており、帰りにはダンジョンのモンスターの代わりに動物を倒して家族や街の老人たちに配るなどしていた。


そうしてライトはたくさんの練習による感覚から、成功する時の感覚を掴むことが出来た。


「なんかなー、こー、なんて言うかー、血が巡るのを感じる様にさ!血が伸びる感じ?ほそーくながーく!」


「感覚って言うがライトが使ってるのは精霊術だろ?」


「そうだけど?」


「・・・・・・。まぁやりたいようにやりったら良いさ」


木陰で寝ていたカノンは適当にライトをあしらってまた眠りについた。


「起きてよカノン!今日からなんだか調子がいいからまたダンジョンに行こうと思うんだ!」


「ああ、ようやく行く気になったか…結局どのくらい使えるようになったんだ?」


「土壁は多少固くはできるようになったけど、小石くらいしか防げない!んでんで武器寄せは全くできない!7割くらい失敗するかな?スタンは丁寧ささえあればほぼ完ぺきにできる!」


ライトはワクワクしながら楽しそうに話した。


その姿を見てカノンは「なんでそんなに楽しそうなんだよ。」と思ったが寝起きの頭は回らず、そんな日もあるか、とライトに質問することもなく自分の中で完結していた。


二人は三日ぶりにダンジョンへと入った。


薄暗いダンジョンの中を慣れた足取りでライトは5層まえの層間まで進む。


ダンジョン内の冷えた空気を深く吸い込み、肺に新鮮な空気を入れて、溝内に力を入れるように声を出す。


「さぁ!行こう!」


ライトは5層への両開きの扉を勢いよく両手で開けた。


5層は前回同様丘のように中心だけ高くなっている。


その中心には5色で鮮やかな羽を持つモンスターが居た。


ライトはこのモンスターに似た鳥を絵本で見た事から絵本と同じ名前「鳳凰(ほうおう)」と、名付けた。


鳳凰はライトに風を当てるかのように羽ばたかせてダンジョン内を飛ぶ。


「うおぉぉ!」


ライトは鳳凰に向かい正面から突進していく。


しかしもちろん先に飛ばれてしまいライトの伸ばした剣は届かなかった。


「んなぁぁあ!」


「おいおい、ライト!そんな無鉄砲に飛び込んでも意味無いぞ??」


「いや、そうなんだけどさ!スタン使うためには1回アイツに触らないといけないんだよ!」


ライトの雷の精霊術は方向を定めて放つことも出来たが正確性にかけるため、ライト確実に当てる方法を自ら見つけ出した。


「1回触って相手を目的地として設定することで、俺の精霊術が勝手に目的地に当たるようにしたんだ!」

「はぁ!?」


カノンは驚いてライトに怒鳴るように質問をし続けたがライトにとって今はそれどころでは無く、ライトは無視することにした。


カノンが驚くのは当たり前で、本来精霊術は使い手にしか集まらないため普通に使おうとすると狙いを定めて使う必要がある。ライトの方法はその普通の方法を覆すやり方だった。


簡単に言うと相手に触り目的地を設定するというのは、相手の触れた部分に精霊を呼び集めるということであり、精霊術は使い手にしか集まらないという大原則を無視していた。


「なんで、そんなこと…」


カノンは驚きが収まらず、ライトの持つ可能性にワクワクしていた。しかしライトは鳳凰に触れることすら出来なかった。


「聞け!ライト!」

「ん!?なんだよー!また質問か!?」

「いや!違う!目的地をお前の剣に設定するんだ!」


ライトはその言葉で何かを察して追いかけていた鳳凰から1度距離をとる。


目的地を自分の剣に変更してライトは丘の頂上に立ち鳳凰を睨む。


ライトは剣を逆手に持つ。数歩下がって助走をつけ、鳳凰めがけて剣を投げた。

その剣は鳳凰に刺さりはせずとも足先に触れることが出来た。


「よし!当たった!スタン!!」


ライトはスタンを試みた。鳳凰の足先に向かって雷が飛んでいく。


「よし!スタンも当たったぞ!?」


スタンが直撃し、薄暗いダンジョン内がパッ一瞬明るくなる。


ライトは喜んで両手でガッツポーズのように拳を握る。


「……」


「……」


「......え?」


ライトのスタンは見事に鳳凰に当たったがスタンの雷の出力が弱く、鳳凰は落ちてこなかった。


「ええい!ライト!もういい加減私を使え!」

「あー!もう仕方ないなぁ!」


ライトはカノンを逆手に持ちまた槍投げのように構える。


「違う!?ライト!普通に使えぇぇえ!!」


カノンが喋り終わる前にライトはカノンを天高く投げた。カノンは鳳凰のいる方向とは全く関係ない明後日の方向に飛び、床に落ちることはなく高い天井に刺さっていた。


鳳凰がカノンを目で追いかけている隙にライトはもう片方の剣を拾いに行きその剣を構える。


体勢を立て直し大きく息を吸い込みスーッと薄く長く息を吐く。


鳳凰は15メートルほどある空間の中を飛び回り、こちらの様子を伺っている。


次は出力をもっと上げてスタンを撃った。


「スタン!!」

「グオォ!?」


今出せる最大の出力のスタンだったにもかかわらずダメージはあまり入っている様子はなかった。


「ま、まぁ全く入ってないわけではない…よね?」


鳳凰は怒ったようにまた光の粒子を口元に集める。

ライトはそれを見てもう一度スタンをしてその攻撃を食い止めた。


「ああぁ~!もうこのペースじゃあと二回くらいしか使える余力ない!」


鳳凰は攻撃中に当たったことで不意を突かれたためか、少しだけ高度が下がった。

その鳳凰の様子を見てライトは作戦を思いつく。


何かを思いついたライトは階層の端に寄り、カノンと鳳凰が一直線上に並ぶように立った。

そのまま鳳凰の方に右手で指をさして左手で狙いがブレないように右腕を支えるようにして構えた。


右手で鳳凰の方向を指している人差し指に魔力が集まる。


「これは一般的な精霊術のスタン?」


あまり魔力の込められていないのが分かり、カノンはライトの行動に困惑する。


「これが俺の必殺技!!!」


そういってライトが放った弱弱しいスタンを、鳳凰はいとも簡単に高度を上げて避けた。

そのままライトの光線は奥にいたカノンへと届く。

ライトはそれを見届けてすぐに、鳳凰が移動するよりも速くに再び最大出力でスタンをかけた。


鳳凰は再び崩れ落ち、高度を下げて、カノンとライトの直線状まで落ちてきた。


「武器寄せ!!!」


ライトはその瞬間を見逃さずに武器寄せをする。


ライトの武器寄せはまだ不完全だったためにカノンは刃を向けてライトのもとへと一直線に猛スピードで向かった。


カノンはそのままライトの手元に向かうことなく、鳳凰の頭に突き刺さる。


ライトは刺さったことを確認して再び残りの力を振り絞って鳳凰の脳みそに雷を流し込んだ。


鳳凰は不規則に痙攣し、そのまま床に叩きつけられるかと思われた。しかし武器寄せは続行されたままであったためカノンの刃と鳳凰が頭からライトのもとへ向かっていく。


「よけろ! ライト!!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!?」


ズドーンと大きな音と土煙を立ててカノンと鳳凰は落下した。


落下した着地点は尻餅をついたライトの脚の間だった。


ライトは結果的に間一髪で避けることができた。


「ゲホっ!ゲホっ!……。はぁはぁはぁはぁ~~~、あっぶね~。ちびったわ。」


大きく息を切らし汗と冷や汗を流しながらライトは安堵する。


これでようやく目標の一つであった鳳凰の討伐が達成できた。


ライトは達成感と次の層をだれよりも早く行けるという高揚感で武者震いしていた。


左手に剣を持ったまま震えが止まることのない右手をぐっと握る。大きく深呼吸をしてライトはそのまま層間に向かうことを決心した。


尻餅をついたままだったライトは立ち上がろうとするとゴゴゴゴゴと、層間からの入り口のドアが開く。誰かが入って来たようだった。


ライトは音に驚いて急いで振り返る。層間の扉の前に立っていたのは見覚えのある姿だった。


真っ白なジャケットに真っ黒なインナー。赤が入ったような茶髪で大きく開いた瞳も髪と同じで明るい茶色い癖っ毛の男性。


いつの日か森で出会って助けてくれた王都からの騎士がいた。


「え? あ、どうも」


ライトは小さく頭を下げて次の層間に向かおうとする。しかしライトを騎士は止めた。


「ちょ!ちょっと待って!君……!」


急いで駆け寄り服を引っ張る少年にライトは驚いて少しよろけてしまった。


「ど、どうしたんですか??」

「ここにいた虹色の羽の鳥…階層のボスは君が一人で倒したのか…?」

「一応、そうですね」


男性は驚いてオドオドした様子を見せながらも必死に何かを考える様子を見せた。


その人は少し考える様子をみせ、ライトの全く懲りずにダンジョンに潜り続ける様子から諸刃の剣の様な儚さを感じた少年はライトに提案をする。


「……。六層目からは僕と一緒に攻略しないか……?」


ソロの冒険者にとってパーティの誘いというのはとてもありがたいもので、狩りや攻略の時間短縮になるといった利点がある。


なんならデメリットも少なければ死亡リスクも大幅に削減できる。


本来ならば二つ返事で「嗚呼、いいよ」なのだろうが、ライトはなぜかきっぱりと断った。


「んや、遠慮します!」


その男は断られないと思い込んでいたため、ショックを受ける様子を見せ必死にライトを口説こうとするが、ライトは無視して六層への層間に向かった。


「ライト、なんで誘いを断ったんだ?」


カノンはヒラヒラとライトの周りを舞いながら、ライトに質問する。


「んや、確かに魅力的だけどさ、一人で何でも出来るようにならなきゃ!って思っただけだよ。」


層間の階段を下りながらライトはそういって断った理由を説明する。


するとライトの背後から慌ただしい足音が聞こえた。


ライトは足音の主が誰なのかを容易に想像がついていたので振り返らないように自分のペースを乱さずに階段を下る。少年は決して話しかけてくる様子はなかった。


しばらく階段を下り続けて十分ほどが経つ頃、ようやく見えてきた六層への扉を見てライトはワクワクする。


扉の前まで来てドアに手をかけるが、相変わらず後ろに気配を感じてライトはようやく振り返った。


「ん、騎士さんの名前は?」

「僕?」

「ここに俺とあなた以外に剣持ってる人いないでしょ。」

「ん、まぁ確かに。」


男性はしばらく考え込む様子を見せた。


「ごめん。今回の任務は内緒で進めるように言われているから名前は言えない。」

「なんで極秘なの?」

「言ったら極秘じゃない」

「ん、まぁ確かに。」


ライトはしばらく黙って睨むように相手を見つめる。


「・・・」「・・・?」


相手は頭の上に?が浮かんだような顔をした。その様子を見てライトは小さくため息をついて六層の扉を開いた。


六層になったからと言って景色は相変わらずの洞窟内で岩や土に囲まれた息の籠るようなダンジョンであることに変わりはない。と思っていた。


「おおー、も、森の中?」


ダンジョンの中はジャングルのようになっていた。


「いや、ライト。上見ろ。一応ダンジョンの中の様だぞ。」


カノンの言う通りライトは顎を上げ上を見た。

10mほど上の木の葉の隙間から少しダンジョンの天井が見えた。


「一応ダンジョンっぽいね。」

「確かに、」


カノンに対して話したつもりが、返事をしたのは少年の方だった。


「君に言ってない!」

「ん?口に出す方が悪くない?」

「確かにそうだね!」


正論のような気がしてライトは攻めるのを辞めた。


ライトと騎士の二人は歩いて探索を始める。地図もない初見の階層のため、道を覚えるようにして道に迷わないように正方形のダンジョンの壁に沿って歩いた。


30分も歩くと騎士がライトに話しかけてきた。


「ライト君はどうしてそんなに僕のことを嫌っているの?」


不思議そうに眉を寄せて質問をする。


「逆に名前も言わないような人にずっと付きまとわれてなんで嫌わないと思うんだよ!俺は一緒に行動はしたくないって言ったじゃないか!」


少年はやや感情的にツッコまれたことに多少のショックを受けて「そう」と一言返事をしてうつむいてしまった。


ライトは感情的になりすぎたと自分で反省する。


「おい。付いてくるなら周り警戒しろよ。」


騎士は顔を上げライトを見る。ライトは決して振り返らなかったが騎士の様子が少し明るくなったのが何となくわかりホッとした。


「別にパーティになったわけじゃないから!パーティに二人も剣士は要らないから!」


「僕は騎士だよ。」


「どっちでもいいよ!!」


そういってライトは少し足早に攻略を進めた。

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