目指せ学校!!!初めての魔法の特訓!!!
ライトは四人で食卓を囲った。と言っても一人は周りには見えない剣の霊体なのだが。
きっと両親は今三人で食べていて、実の子のカイトがいないことについてさみしく思っているのではないかとライトはひそかに思っていて申し訳なさや、不甲斐なさを感じた。
カイトがいつも喋っていたからいつも食事は賑やかだったのだが、いざ三人になると話すことがない。
木のテーブルに木の食器がこする音、父の口からする粗食音、木製のスプーンと皿がこすれる音、椅子のきしむ音、ライトは全てが不快で、全てが自分を責めようとするんじゃないかと思い怖くなる。
そんな沈黙の中、父が口を開く。
「そういえば最近ライトは図書館に籠っているらしいな?そんなに勉強して学校とか行きたいのか?」
「んや、そういう訳じゃないけど…」
「冒険者はもう嫌になったのか?」
元々冒険者だった父は親子で冒険者をしたいという憧れがあったため、心配そうな表情をしてライトに尋ねる。
「そんなことないよ!むしろもっと強くなるために勉強してるって感じで…」
「勉強って…。王都の学校に行きたくなったら言いなさい。私たちは貴方の家族ではないけどお金だって余裕があるわ。行きたくなった言いなさいね。我儘言ってもいいから…」
哀しそうに微笑むように見える母の言葉にライトは心から「うん、わかった。」とは言えなかった。
家族に対して家族なんだからって言う家族はいないと思ったからなのか自分が養子なのにカイトではなく自分が生きてしまったからなのか。
返事ができなくなってライトは途端に空気が重くなった気がした。
「俺食べ終わったから素振りしてくるよ!ご馳走様!」
心配させまいと、できるだけハキハキとした声で挨拶をしてライトは気にしていない様子を示す。
その夜はもやもやしていたことをひたすら素振りと汗で消化した。
二日後
「ライト!起きろ!今日から森に行こう!」
「ん~?森?ダンジョン改変があってから今は危ないんじゃ?」
そうライトは言い訳するも結局言いくるめられ午前中に装備を整え正午には森にいた。
「急に言うから貯金から崩すことになったじゃないか…よし!今日は稼ぎきるまで帰らないぞ!」
「その調子だライト!って、剣を買わなければよかったじゃないか。私がいるんだし」
疑問を投げかけるカノンにライトは少し言いづらそうに返事をする。
「だってカノンって使いやすすぎるんだもん。あれじゃ俺が強くなってるのかわからないじゃないか」
そういわれカノンは少し頬を染めて照れて早口になり喋る。
「た、たしかに成長の実感って言うの大事だな!私が強すぎるから…仕方ない!仕方ない!」
しばらく何かを言っていたが、ライトは無視して探索を始める。
とりあえず近くにいた犬型の魔獣を何体か倒す。
「ライト、実際に戦ってみてどうだ?」
「やっぱグリップは自分で巻くものだなーって思ったや。なんか滑り具合が気持ち悪い……。」
「違う違う!そうじゃなくって持ち方の話だ!」
「あー、そっち?切れるっていうか深くまで重く届くっていうか?それが斬れるか…?」
この三日間意識を変えて構え、素振りを続けると前回よりもやはり簡単に切り倒すことができることが自分で分かった。
カノンはライトの返事を聞いて少し笑って答える。
「何となく言いたいことは分かるぞ。これまでより重く剣が入って攻撃回数が少なく済んでいるんじゃないか?」
「それは絶対そう!なんで今までやらなかったんだろ?」
疑問に思うライトに対してカノンは「逆になんで知らなかったんだ?」と煽るようにして返した。
ライトは怒っていたがカノンは「なはははは!」笑っていた。
ひと笑いしてカノンは大きく深呼吸して宣言した。
「ライト!お前は多分これで街1番の剣士だと思う。この街が冒険者の街で有名だから多分王都に行ってもそれなりに強い方だろう!」
唐突に叫ぶように話すカノンに驚くライト。
「え?あー、どうも?」
「だけど!王都で1番じゃない!ダンジョンだって王都の方が未開拓地が多いし、図書館に置いてある本の数だってそうだ!」
この時点でライトはカノンの言いたいことが何となくわかった。
「ライト!お前は学園にいけ!」
「いやだ!」
「え?」
森の中に一気に風が吹き抜ける。
被せるように即答するライトにカノンは驚き、カノンは動揺を隠せずオドオドしながら理由を伺う。
「いやでも、だって、おまえつよくなりたいんだろ?
それなら王都に行って強くなるしかないじゃん?」
「だって王都の物価高いじゃん。」
「!?」
「寮生活でもお金はかかるし、俺自身稼いではいるけど家族に金銭面で迷惑かける訳にも行かないし、学園って貴族が行くものだろ?
図書館で勉強してるだけ俺はまだ偉い方だって。この街で一人暮らしできるくらいのお金はあるし無理しなくてもなーって思う。」
「お前って向上心の欠片もないんだな、」
「いや、図書館とかなんだかんだ通ってるし欠片くらいはあるでしょ?」
「いや、まぁそうかもしれないけど。やーー…。そっかー。でも学費ならお前の親は出すって言ってたし、成績上位になれば免除だってあるだろ?」
「両親にはなんだか頼れないよ。それに成績上位なんてよほど頭悪い学校行かなきゃなれないしね。」
ライトがヘラヘラしているのとは反対にカノンは唖然としていた。
「まぁ暫くの間の目標はソロで5層まで行くことかなー」
「ん?ソロでダンジョンに行くのか?」
「いやー、まぁなんとなく?特に理由はないよ、」
カノンは一瞬考えこむ様子を見せた。
「いや!お前の目標は雨の季節までに図書館の本制覇と、今年中にダンジョン制覇だ!」
「んな!?また無茶な!」
向上心がないなら無理やり学校に行くように仕向けてやる!とライトの言動からカノンはそう企んだ。
「私がビシバシ鍛えてやるからな!!覚悟しとけ!!」
ライトはカノンと話し合い、その日からそのままダンジョンへ行くことになった。
筋肉のモンスターも動きは遅く、今のライトにとっては簡単に斬れる的なためほとんど苦戦はしなかった。
とりあえずダンジョンの三層まできたライトは道中仲間の遺品がないか探していたが、見つけることは出来なかった。
「もう数日くらいたってるしダンジョンに取り込まれちゃったのかな?」
「まぁそうなんだろ、もしくは誰かが持って行ったとか」
「あーそっか、今調査中なんだっけ?」
あれ以降ダンジョン内は構造が変わったような様子はなく、現在は王都から来た自分たちを運んでくれた騎士の人が調査をしているらしい。
「そういやカノン。たしか絵本の中に冒険者の主人公の奴あったよね」
「大体あそこにおいてある絵本は冒険者が主人公だったろ」
「たしかに、さすがは冒険者の町だ。みんな自分が主人公の絵本読みたいもんね」
「それで?その絵本がどうしたんだ?」
ダンジョン内の筋肉のモンスターを倒しながら足を進める。
「いや、主人公がダンジョンを制覇しきってダンジョンからモンスターがいなくなって町が平和になりましたって物語あったよね」
「ん?嗚呼、そんな物語もあったな。」
「あの絵本は実話なの?それともやっぱり作り話ななのかな?」
「そんなの、」
カノンは何かを言いかけて辞めた。一瞬何かを思いついたような表情をして意地悪に微笑む。
「そんなの自分で確かめたらいいじゃん。」
「確かに…。そのために俺はダンジョンに入ったんだし、自分で確かめるかー!」
ダンジョンの中にもかかわらずライトは空気が澄んでいるように感じた。頭は冴えていて今なら倒せないモンスターもいない気さえした。
グリップも動物の皮をはぎ、しなやかな毛を短く整えて自分の手になじむように付け直した。
4層と5層の層間に辿り着く。
あの時はカノンが出てきてくれたおかげで勝つ事が出来たことをライトは思い出す。自分がどれだけ成長しているのかここで分かる。と、ライトは考え内心ワクワクが止まらなかった。
両手で5層の層間の扉を開く。
7色の羽を持つ鳥のモンスターに出会う。
ライトは剣を構える。ライトは持っていたハンカチを破り濡らして耳栓の代わりとして付けた。
鳥型の層のボスは前回同様に叫ぶ。
相変わらずの迫力と風圧の叫びにかぜをふさぐのがやっとだった。
「前はこれで鼓膜破れたんだっけ?」
「滑稽だったぞ?」
「うっせー!」
一度倒した敵ではあるが階層のボスと戦うのは緊張する。前回、ぎりぎりの勝利でいつの間にか地上にいた。自分の気絶の方が一瞬でも早かったらと考えるとライトは体中が汗ばむのを感じた。
両手で剣を構える。奇麗な羽をもつ大きさ2mほどのそのモンスターは風をライトに当てるかのように羽ばたかせる。
ライトは一度出方を見ようと距離を取ろうと試みた。
すると羽ばたいたまま鳥は宙に浮く。
「え!?あいつ飛ぶの!?」
「はぁ!?そりゃそうだろ!?鳥だぞ!?」
「俺剣だし攻撃当たんないじゃん!!」
モンスターの口に赤い光の粒子が集まってくる。
ライトもカノンも叫び、焦り、怒り、カノンはライトに転移結晶の場所まで移動するように促す。
ライトは促されるまま転移結晶に向かって走った。
「飛ぶのはズルっしょ!?」
赤色の光線が放たれる間際でライトは何とか転移結晶へとたどり着き、地上へ出ることができた。
はぁはぁ、とライトは呼吸を整えようと努力する。
カノンは大きくため息を着く。
森はすっかり暗く家族が心配すると思い、その日は帰ることにした。
翌日。
図書館に籠って数日が経ち、絵本のコーナーは全部読み切り制覇することが出来た。
早速気になっていた魔法や治癒士、モンスターの生態系、薬草採取などの本を手当り次第読もうと思ったのだが何故か最初に手に取ったのは精霊術の本だった。
聞いたこともなかったのにも関わらず耳馴染みのあるその術の本を手に取った。
「カノン、精霊術ってなに?周りに精霊術使う人いなくってさ」
「あー、確かに使える人が限られるものだからなー。魔法や剣術とかと違ってこればっかりは適性がないと使えない。詳しくは本を読め!」
「何となくそういうと思った、」
精霊術はカノンが言っていた通り精霊との親和性が高くなければ使えないらしい。
元から使える人も稀にいるが、親和性がない人は精霊を強く信仰し疑うことをしなければいつか使える日が来る。
他にも 物事の全てに精霊はやどる。などと書いてあった
「無責任だなー。なんか胡散臭いし人気ない理由がわかったよ、」
「まぁ精霊自体人間と同じで性格が十人十色なのさ」
『先天的に適性がある方は前世はもしかしたらモンスター!?』
「まーた、一気に胡散臭い文入れてきたよ…」
「それは、多分作者が悪い。」
理由としてモンスターたちが使う魔法は精霊術であることが多く、人間には使用できる人が限られていることからこの説が生まれた。らしい...。
「適性検査の方法あるじゃん!」
「そういうのは図書館の外でやれよー」
カノンに注意されライトたちは午後から精霊術の適性を調べることにした。
2人はいつものダンジョン前の森にやってきた。
「調べた感じ雨を三日後に振らすとかは正確性に欠けるし、火を出すのはダンジョン内以外は危ないし、一旦水の精霊適正やって見るか」
精霊を心の中で呼び魔法のコードを記す。するとコードに従い精霊たちが魔力を貸してくれて魔法を放つことが出来る。このイメージが大切だと本に書いてあったことを思い出しなが適性検査に試みる。
結局ダンジョン内に入って胡散臭い雨を降らす魔法以外は全部試みた。
「精霊術で使えるのは雷だけで、ほかの炎も水も闇も使えなかったな。もしかして俺才能ない?」
「んや?普通1個あるだけでも珍しいんだからな?まぁこれでライトの前世は人間じゃないってわかったな」
「・・・」
悪戯っぽい笑顔でカノンは笑う。ライトはそれが気に入らず無視して図書館に1度戻った。
「また図書館に何か用があるのか?」
「いや、精霊術は魔法のコードを通して魔術を使えるなら精霊術の本だけじゃなくて魔法の本も借りた方が効率良いかなって」
「まぁ確かに言えてるな」
ライトは図書館で『魔法コード大全』本を見つけて、それを持ってまた森へと向かった。
「ええっと?雷の魔法は少な!これだけかー。」
雷の魔法の数はほかの魔法が30や40あるにもかかわらず、雷の魔法は20程度しか無かった。
「えっとー、スタン、武器寄せ、土壁か一旦この3つ覚えよ。」
ライトは覚えた3つを本を読みながら試した。
スタンはモンスターの行動を一時的に静止させる効果があり、ただし集中して慎重にやらないと自分も一緒にスタン状態になる。
武器寄せは離れた所に置いた金属製の武器を手元に持って来ることが出来る。ただしこれも集中して慎重にやらないと金属部分の多い刃の部分が反応して刃が自分のもとへ向かってくる自殺魔法となる。
土壁は原理がよく分からないが、黒い土が固く盛り上がり壁のように自分を守ってくれるというものだ。
しかし自分がやっても硬くはならなかった。黒い土のカーテンってレベルだった。
「使い物なるもんないじゃないか!」
「それはライトの集中力がないんだろ?」
ライトは不貞腐れて本を放り投げ、森の中で仰向けになる。
仰向けになって空を見ると木々の間から木漏れ日の奥に青空が見えた。
「もうちょっとやるか!」
「その調子で頑張れー」
カノンは他人事のような適当な返事をした。
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