強くなりたい理由と強くなるために…
「俺が強くなりたいのは皆を守りたいからとかないわけじゃないけど・・・」
「だからさっさと言え!!」
「ほんとに引かない??」
「引かない!!」
意を決したはずなのにやっぱりなんだか恥ずかしくって、本音を言うのが怖くって小声になりながらもライトは口を開く。
「い、言いたくない。」
ちょっとの間沈黙が生まれる。
ライトはこの沈黙が怖くなってカノープスの方を見れなかった。
「はぁ!?」
「えぇ…」
顔を上げるとカノープスは怒ったというより呆れた表情を見せる。
「な、なんでだよ!言えよそこまで言ったなら!?」
「いや!だって恥ずかしいじゃん!言いたくないじゃん!?」
カノープスは大きくため息を着く。
それを聞いて申し訳ない気持ちになりながらも、やはり話せない自分がいる。
「まぁ、本気で目指しているから喋れないってもんだよな…。」
カノープスは自分自身に言い聞かせるような独り言をして無理やり納得した様子を見せる。
大声で話をしているライトらに、周りの人たちは驚いて静まり返っていた。
恥ずかしくなってライトらは路地へと逃げる。
「カノープスのせいで恥ずかしい思いをしたじゃないか!!」
「はぁ?お前がそんなに焦らすからだろ?」
「そんなことない!!」
暗い路地に人はいない。
やけに大きく出た声が暗がりに反響する。
思ったより大きな声が出て申し訳なくなるライト。
怒らせたみたいで申し訳なく思うカノープス。
しばらく沈黙が続く。
そしてその沈黙を破ったのは2人のどちらでもなかった。
「おいおいお兄ちゃん?こんなところで何してるんだ?この道は危ないぞ?」
見るからにチンピラな男性三人組に話しかけられる。
「いや、道に迷ってただけですよ。商店街のある大通りまで行きたいのですが、道教えていただけますか?」
「ん?ああ、ここの突き当りを右行ったらすぐだろ?道に迷うほどか?」
「それはどうもありがとうございます!それでは、」
ライトは余裕のある表情を作ってこの場を切り抜けようとする。正直ライトとしても戦いたくなかった。
「ああ、また、って兄ちゃん良い剣持ってるじゃん。その剣僕らに見せてくれないかな?」
「いえ、この剣は大事な友達なので。」
「はぁ?何言ってんだよ?俺たち冒険者だぜ?武器に詳しいし見てやるって。」
頬が赤く染っており、見る限り酔っているようだった。
昼間から酒を飲んでいるようなチンピラにライトは負けるつもりは無かった。
穏便に済ませたかったが、チンピラたちはカノープスに手を伸ばす。
ライトは剣にプロテクターを付けた。これで鞘ごと振り回しても剣から鞘が外れることはない。
チンピラたちが剣を奪い取ろうとライトらを囲うようにして立つ。
ライトに話しかけてきた横に立つ一人が静かに拳を振り上げる。
「んぐっ!?」
鞘ごと剣を振りまわし、剣の柄の部分で一人の溝内を突く。あと二人のうち一人は溝内を蹴飛ばして、もう一人は顎を鞘で突いて脳震盪(のうしんとう)で倒れる。
「運が悪かったね。俺も冒険者なんだ。あ、でも道教えてくれてありがとね!」
ライトらは薄暗い路地から商店街に出る。
「お前ってそれなりに強い方なのか?」
「いや、街の中では強い方だと思うよ?全然井の中の蛙だけどね、」
カノープスは驚いた様子で尋ねた。ライトは少し照れ臭くって謙遜しながら話す。
「お前もっと強くなれるぞ?」
「え?ほ、ほんとに!?」
「ああ、基本すら出来てないからな!
お前がどうしてもって言うなら手解(てほど)きしてやろう!」
「ああ!どうしてもだよ!カノープス!」
カノープスは意地悪な笑みを浮かべて言ったが純粋なライトの反応に呆気にとられ、「お、おう」と小さく返事をする。
「わ、私の修行についてこれるかな!?だいぶスパルタだぞ?私」
「ついていきます!師匠!!」
「し、ししょー!?」
こうしてカノープスとライトの師弟の関係が始まった。
「と言ってもすることは主に二つだけだがな!」
細く薄暗い道から明るい商店街の通りに戻りってすぐに、弟子が出来て心做(こころな)しかカノープスは自慢げな表情だった。
「何と何?」
「勉強と実践だ!」
「へ?勉強??実践ってのはまだなんとなくわかるけど?」
「勉強って聞いて『冒険者なのに!?』とか思っただろう?」
カノープスはまた誰の真似だかわからない声まねをしてふざけながら話す。
ライトは少しそのまねに腹が立ったがここで邪魔したら教えてくれない気がしたから機嫌を損ねないように我慢して頷く。
「で、なんで?」
「冒険者というのは判断が命だろ?あと食糧問題もある。研磨に使える鉱石と方法さえ知ってたら武具店に研磨しに行く手間もお金も浮くだろう?」
「確かに森で野宿することになっても食べれる植物とか知ってたらお腹いっぱい食べられるし、お金だって無限じゃないもんな・・・でもなんで判断がかかわってくるんだ?」
やれやれといった表情で「はぁ、」と小さくため息をつくカノープス、なんだかやっぱり腹が立ちライトは殴りたい右手を必死に左手で止める。
「人っていうのはこれまでの知識から判断を下しているんだ。
例えば今回ダンジョンに出てきたモンスターとか。
あれは繊維に沿った形に入れないと倒せないモンスターだったな。今すぐ倒せって言われたらお前は倒せるだろ?倒し方を知っているから倒すための判断ができるんだ。」
「まぁ確かに、なんとなーくは理解できたと思う。意外とカノープスって頭いいんだな!それじゃ早速図書館に行くか!」
「意外とってなんだ!意外とって!!ってか受け入れるの早いな…!」
「善は急げ!って言うもんさ!」
「ちゃんと勉強は毎日しないと意味ないぞ?」
怒るカノープスを放って二人は図書館に向かった。
「こ、これが図書館なのか??」
40畳、およそ一クラスの教室分しかないような、決して町の図書館というにはふさわしくない部屋を見て唖然とするカノープス。
本の数としても本棚が三つおいてあるだけでスペースが活用しきれているとは言えないほどに少なかった。
「え?ああ、そうだけど?」
ライトはその態度を不思議に思った。
「これは図書館というにはあまりにも小さすぎやしないか!?!?」
「え?そうなの??俺この街から出たことないしさ、これが普通だと思っていたや。まぁここ冒険者の町だしきっと利用者が少ないからじゃないか?」
「それにしても小さすぎるぞ!こんなの教室一クラス分くらいじゃないか!貴族の書庫でももっと本が置いてあるぞ!?」
「ここの図書館って町の人の読まなくなった本や遺品として残った本をここに集めているだけだから、本はこの冒険者の町の住人にとって興味がないし図書館は大きくならないんだよ。」
---多分、知らないけど。
「そ、そうなのか。やっぱり今の冒険者は勉強してないのか、だから冒険者としての教養も知らない。何となくこの時代のことがわかって来た。」
呆然とした様子を見せるカノープスは大きくため息をついて声を張り宣言する。
「よし!ライトに最初の課題を与えよう!!」
「お!師匠!俺は何をすればいい!?」
「ここにある本すべてを読破しなさい!」
「全部!?」とライトは驚いて見せたがあたりを見回すと、絵本のコーナーだけやたら充実している所を見て「さすがに読まなくてもいいだろ」と安心する。
「ちなみに絵本はさすがに読まなくていいよな?」
「何を言ってる?絵本も読みなさい!」
「え?なんで?」
「忘れてるかもしれないけど本を読むのは知識を手に入れるためでもあるが目的は考え方を手に入れるためだ。だから絵本も読みなさい!」
ライトはため息交じりに「はーい」と返事をする。カノープスの表情は嫌がらせ出来て満足げな表情に見えた。
ライトは今まで本を読むということを全くしてこなかった。早く知識や役立つ情報を手に入れたかったライトは図鑑やエッセイのような本から読み始めようと試みるが、当然のようにページをめくる手が動かなかった。
--絵本を読んでいる姿なんてかっこ悪いし誰にも見られたくない……。でもこのままじゃこんな本ですら読める気がしないしな~、
ライトはおよそ1センチほどの薄い本を汚いものを持つように摘まみ上げてみる。
5分ほど経過するとライトは背中がムズムズしてきて本を読むのをあきらめた。
立ち上がるのと一緒に大きく伸びをする。
「うっ!くぅ!はぁ、それにしても誰も来ないな~。」
二回にある図書館の窓から周りを見渡すと遠くに賑やかな商店街が見える。天気も良く、程よく部屋に流れ込む空気が心地いい。
しばらく風を浴びた後、ライトは考え直してその本を置いて絵本から読み進めることにした。
--まぁどうせ誰もいないし、誰にも見られないだろ。
3時間ほど経過したころになるとライトは集中しきっていた。
最初は絵本一冊に20分かけほど時間をかけていたが、結果的に絵本だけで18冊読んでいた。
「冊数で言ったらそれなりに読んだ方じゃないか?」
集中が切れたようで伸びをするライトに声をかけるカノープス。
「ページ数で言ったら少ないけどね。絵本だし」
「何事もモチベーションが大事だって、これからもっと早くなる!今日も充分早くなった方じゃないか?」
「急に優しいな。」
カノープスはライトを鼓舞し、修行は次のステップへと移る。
「次のステップは実践だ!」
「実践?何をするんだ?勉強して実践なら勉強したことを体験してみるとか?」
「それを体験して何になるんだ?でもアウトプットって言うのも大事だしそれも間違いじゃないのかもしれないが、私の言う実践って言うのはただ冒険者として活動、生活することだ!」
「ただ生活するだけ?いつも通りでいいのか?」
「ああ、いつも通りでいいんだ!いつも通りに生活していると勉強した後は新たな発見が生まれる。勉強したことを意識しながら生活してみろ!」
そういうものなのか?と納得しきれないままいつも通りに過ごすことにした。
街に正午を伝える鐘がなる。
ライトは午後から病院に行くと約束していたことを思い出し走って帰った。
ライトは父親と合流して街の病院に向かった。
病院は奇麗なレンガで出来ていて、中はとても清潔感のある雰囲気だった。
ライトは小声でカノープスに話しかける。
「病院ってなんだか好きじゃないんだよなー」
「けがや病の時にしか来ないんだから好きな人なんて少ないだろ?でも聞いてやろう、どうしてだ?」
「確かに、まぁあれよ。この清潔感とかが妙に無機質な感じがしてさ」
カノープスはふーんと適当な返事をする。
気の抜けた返事をするカノープスとは対照的に、ライトは久しぶりの病院にとても緊張していた。
病院でライトは小さなベットで目を瞑って横になるように促され、医者は魔法でライトの体に異変がないか調べた。
絵本で医者が出てくる絵本読んだな。と思ってライト少し目を開けてみる。
枕元にはカノープスがいた。
医者を含めてみんなが目を瞑っていたためバレないと思ったのだろう。
カノープスが両手でライトの顔を包むように触る。
触られたのを感じてライトの緊張は少しほぐれた。
その後もちょっとした検査は続いた。
ライトには幻覚が見えているのではという疑いから目に光を当てたり、医者の指をひたすら目で追いかけるような検査まで。
検査が終わり病院を出る頃には夕方を知らせる鐘が鳴っていた。
さすがに時間的な理由と昨日のことから、ダンジョンに行くわけにもいかないわけでその日は戦いに行くことはできなかった。
ライトは家につき布団の上で横になる。
勢いよく横になった布団からは自分を歓迎するように自室の匂いがライトを包み込んでくれた。
ーーなんで自分の部屋ってこうも落ち着くんだろ……?
「はぁ~!今日はなんだか濃い一日だった気がするよ!よく寝れそだよ…」
ライトは独り言のように、疲れを吐き出すように口にした。
ベッドや匂いがライトを歓迎しているのにもかかわらずライトが横になるのを断じて許さない輩が1本いた。
「んな!ライト!お前寝るつもりか!?今日はまだ剣すら振るってないだろ!?」
「っていってもダンジョンもいけないし、今行ったら村の人から心のない奴みたいな感じに思われそうじゃんか!それにパーティメンバーもいないわけだしさ…」
やれやれと大きなため息をつきカノープスはライトの枕もとで仁王立(におうだ)ちする。
「ライト!お前はしばらくダンジョンに行くことを禁止する!」
「ええ!?何でだよ!腑抜けたこと言ったからか!?」
カノープスは首を振って否定する。
「お前にはもっと足りないものがある!これから実践行くぞ!」
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