脱出!!?? あと過去回想

まもなくしてヘンリの意識は無くなった。


意識がなくなってからもずっとヘンリを膝の上で抱えていた。

彼女に残った暖かさが自分に対して「生きて」と言っている様だった。


「ヘンリ、行ってくるよ。」


ある程度気持ちが落ち着いてからライトはそう呟いて立ち上がった。


ーーそういえばヘンリがダンジョンに入る前に3日後には花が咲くって言ってたな。そしたら皆でお花見行こうって……。


ヘンリとの思い出が沢山湧き上がってきた。




ショックからか前後の意識も記憶も朦朧としたまま、第五層に行くことにした。


剣を片手に重い扉を体重をかけるようにして開ける。


ボスが存在する層へと通じる扉を通るとひとりでに扉は閉じて後戻りができないことがわかる。


鉱石が明るく朝日のように層全体を照らす。


この層は円形の形をしていて円の中心が丘のように膨らんでいた。床は他の層とは違い整備された石レンガのようなもので出来ている。


天井は5mぐらいだろうか?天井も床の形に合わせて中央はやや高くなっていた。


五色の羽をもつ鳥がいる。

極彩色のそのモンスターはこれまで遭遇したことがなく、貫禄から桁違いに強いことが戦わずして伝わって来た。


初めて見るボス、ヘンリが生きていたら戦えたのだろうか?


それとも今のように絶望していたのだろうか?


その鳥は牽制(けんせい)に口から火を放った。


わざと外しているようだが踏ん張りの利かない脚では衝撃に耐えきれず吹き飛ばされる。


モンスターの鳴き声で耳の奥が痛くなった。


音が聞こえなくなる。


衝撃を庇うために壁で受け身を取った左手は折れてしまった。


ーーもう疲れたし……、どうしてまだ耐えて生きてるんだろ……。

どうしてこんなに辛いのに冒険者なんてやってるんだろ……?


戦う体力は戻っても気力がなく、意識も朦朧としている。


一瞬ヘンリやカイトの顔が頭に浮かんだ。


ーー悲しんでくれる誰かがいたから?喜んでくれる誰かがいるから?金払いがいいから?

そんなモノもういないし要らない……。


ただ辛いし、もう誰もいないけど、!ただ楽しいんだ……!

強い奴と戦うことが、!自分が成長出来てるって分かることが…!



鼓膜(こまく)も破れて何も聞こえなかった自分に誰かが話しかける。


「生きたい?」

「俺は、勝ちたい!」


名前を叫ぶ。すると剣は白く光だし目の前に同い年くらいの少女が現れた。


「そう、それならお前に力を貸してやろう!お前の名前は?」


「俺の名前はライト……ライト・アルバン!」


淡い赤色の瞳を持つ、白髪の薄いフードをかぶった少女。


「私の名前はカノープス。契約に伴い私はお前に力を貸してやる。」


女の子は消え光の粒になる。淡く赤くて白い優しい色の光の粒が体を包む。


「頑張れ」と応援されているように感じた。


「あたたかなこの光の期待にこたえたい」と、光は心を振るい立たせてくれる。


「……!」


剣を強く握りしめて構えた。


戦っている間の記憶は曖昧だった。五層の敵は倒しきれた。ただあっという間のことで何が起きたのかわからなかった。


「使いやすいどころじゃないよ!この剣は・・・自由だ!」


剣の可能性を比喩で表したつもりでもなく本当に自由を感じた。

想像通りに剣を操ることができる。剣が生きているように感じた。


一流の剣士の剣は生きている様に思えるという風に聞いたことがあったがほんとに生きている様だった。自分が強くなったと錯覚してしまいそうだ。


「しばらくはこの剣使うのやめとこ、」


肩が弾むように上下し、リズムよく口から息が放たれる。息が切れているわけではない。


しっかりモンスターのアイテムを回収してヘンリのもとへ向かうため、層間に戻ろうとしたが相変わらず扉は開かなかった。

仕方なくこのダンジョンを出ようとぼろぼろの体で剣の鞘(さや)を杖として使い転移門まで向かう。


プランが死んだ、弟のカイトも死んだ。好きだった幼馴染のヘンリは自分がこの手で殺した。にもかかわらず何故か心がスッキリしていて頭の中が妙に整理されているような気分だ。


「あはっはっはっは!はっはっはっは!何で……笑って、るんだよ……!」


何で笑ってるんだろ?


涙が流れないように下唇を強く嚙み締めながら自分はそう呟いた。


入口とは反対側に、丘がそれを隠すかのような位置に置かれた転移結晶が光始めて稼働したことを伝える。


自分はその場に倒れて泥のように、ダンジョンに取り込まれるかのように眠りについた。


「ああ、布団で寝たい。」


空を見上げると、夜空にピンク色の花が咲いていた。




二年前の事。


ライトの町はいわゆる田舎で町から出るとすぐ森があり森の中にはダンジョンなるものがあった。


世界樹に比べれば有名ではなかったがそれなりに有名な場所であった。

初心者冒険者から中級、上級の冒険者まで成長出来る環境。

そのため冒険者留学として異国の人々やほかの町の人達が来ることが多く町は活気づいていた。


ある日、ライトの家では12歳になると冒険者にならなければならないという伝統があった。


友人のコロンとヘンリを募ってパーティを組み、防具を調達しに行った。

ヘンリは快くOKをだしてくれて、自分から親を説得しに行ったほどだった。

コロンはむしろ乗り気じゃなく、なぜか親から連れて行くように頼まれた。


ライトはスキップで自慢のまっすぐ伸びる真っ黒な髪をなびかせながら、ワクワクで満ちた金色の目を輝かせる。


長い片手剣に憧れがあったライトは左手首につける小さな盾と12歳でも扱えそうな片手剣を探していた。

「なぁおじさん!俺みたいなやつでも使えそうな片手剣ってない?」


「誰がおじさんだ!俺はまだ24だぞ?」


一緒に防具を買いに付いて来てくれた弟のカイトがヘラヘラと反論する。

「一回りも上じゃない? おじさんよおじさん!」


武器屋の男性は面白がって挑発する。

「ヒヨっ子のお前らに扱える片手剣なんて置いてないね!」


「そんな事言うなよおじさん!なんかあるでしょ?」


「ああー!もうわかったから!うるせぇ!そこに中古の剣とか置いてあるだろ?そこから気に入ったもん持ってけ!」


面倒くさがった防具屋の男性は冒険者を引退した人や、死んでしまった仲間が使っていた防具を集めた武器庫を指さした。

武器庫の中には斧が壁にかけられていたり大剣が床に積まれていたりと武器が数え切れないほどあった。


本来武器は新品の方が良いとされている。


理由としては中古の武器は死んだ冒険者の怨念や、その武器を使うと死ぬ。といった様に考えられるかららしい。

それを知っていたがライトにとってはどうでも良いことだった。


弟のカイトは薄暗い中古の武器庫を気味悪がって入らない。


夢にまで見た冒険者、「俺もあの人みたいに勇敢な剣士になりたい!」その一心で武器庫へと駆け込む。

中古の武器庫の中、中古の片手剣が無造作に放置されている樽の中に、一際(ひときわ)目立つ武器があった。


なかなかに厨二心を揺さぶる真っ白な剣。


グリップには何か文字が書いてありなんて書いてあるかわからないがそれもまた厨二心をくすぶる。

目立つと言っても見た目は地味でこれといった特徴はなく色で選んだ。


直感的にこれだ! と思っただけだった。


剣を持って武器店のおじさんのもとへ駆け寄る。


「おじさん! この剣もらってもいい!?」


「ああ、そんな剣あったか?まぁ地味だし覚えてないだけか?

さぁ!中古の武器なんてもってけもってけ!さっさと帰れ!商売の邪魔だ!」


「ありがとう! おじさん!! またね!」


男性はライトらを邪険に扱うように追い払った。

ライトは知っている。おじさんが「みんなの戦った証だから」と言ってまだ使える中古の剣を集めていることを。


装備をある程度揃えて幼馴染で魔導士のヘンリと治癒士のコロンと合流する。


今日からライトら三人は冒険者として森に入ることになった。


村から森への出入口にはライトの身長よりもずっと大きな大きな門があり、ライトはこの大きな門の先、未知の世界に行くのがこの村に来て7年間ずっと楽しみだった。


門を開き門の外に1歩を踏み出し振り返る。


両親とカイトが手を振っているのを見て嬉しくなって両手を大袈裟に振って、ライト達は森の奥へと行った。


高揚感からか武者震いが止まらない。


正直森のモンスターたちとは多少の群れでも十分に戦えた。

「もうちょっとレベルの高い所で狩りをしようよ!」

「でも、どこに行っても強さなんて変わらないよ?」


不思議そうにコロンが尋ねる。

「あるじゃん!森の中にダンジョンが!」

「だ、ダメだよダンジョンなんて!!僕らまだ12歳だよ?」

「大丈夫!大丈夫!」


そういって不安な顔をしながら止めようとするコロンを適当にあしらい、ライトはどんどんダンジョンの方へ向かっていく。


ダンジョンまでの距離はそう遠くはなかった。

ダンジョンの扉は森の中の小さな洞窟の中にあり、数え切れないほど多くの看板が立てかけられている。


立てかけられている看板には、いくつもの名前が刻まれていた。

ライトはこの立て看板について聞いたことがあった。


「この名前って…?」


コロンの顔色は怯えて真っ青になっていた。


「この看板はこのダンジョンの中で死んだ人たちの名前だよ。」


ライトはそう伝えると怯えるコロンとヘンリを置いて1人で先に進む。

置いていかれないように仕方なく2人は重い足を進める。


ただの扉なのに禍々しいと感じた。


扉を開き中を覗くと、どうやら森から一層までは層間のようで薄暗い階段が続いていた。


3人は並んで扉をまたぐ。

すると一瞬で空気が変わった。


まるでこの世のものでは無いように感じるほどの生暖かく、重たい空気。


まるで異世界のようだとその頃に思った事は今でも覚えている。


空気の違いが気持ち悪くなり、ヘンリとコロンは逃げるように洞窟から離れようとする。

それに驚きライトも2人を追いかけるようにダンジョンから逃げた。


これがライトにとっての初めてのダンジョンだった。


帰宅したライトはヘンリとコロン伝えでライトの両親の耳に入ったらしく、帰ってから三時間ほどこっぴどく叱られるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る